触らなくても温度がわかる
すっかりおなじみになりつつある、入店時などでの検温。いつも、「体温が高くないかな……」とすこしドキドキしてしまうのは、筆者だけではないかもしれません。あの道具は「放射温度計」や「非接触温度計」と呼ばれるモノ。人の肌から放射される赤外線のエネルギー量を利用して体温を測定しています。
非接触温度計は、一般的な温度計と違い、対象に触れることなく、1秒ほどで計測できるのが特徴です。とても便利なのですが、測る対象の素材や光沢によって赤外線の放射率が変わるので、補正をしないと誤差があるデメリットもあります。
それでも、測定するモノに触れずに、数秒で測れるメリットの方が大きいので、筆者は愛用しています。
ハンダごての温度測定
自作PCや自動車のメンテナンスもこなす方なら、よく使われるハンダごて。触って温度が測れない道具の筆頭に挙げられます。ハンダ付けは、経験や勘が仕上がりを左右する上、多くの箇所に使うには安定した作業ができます。
しかし「この1ヵ所だけハンダ付けしたい……」という場合は、温度コントロールがままならず、とくに急いでいる時は、なかなかうまくハンダがつきません。
そんなときも非接触温度計を使えば、ハンダごてが適切な温度になっていることをすぐに確認することができます。
デスクトップやノートパソコンの温度管理
動画の編集や書き出し、グラフィックを多用したPCゲームなどでは、CPUやGPUなどが発熱するのはご存知の通りです。「冷却ファンがあるから大丈夫!」なんて、安心するのは禁物。ホコリが通風口に溜まったり、内部の冷却ファンにホコリが付着したりすると、CPUやハードディスクなどを冷やしきれず、熱暴走やシャットダウンの恐れもあります。なによりも、PC自体の寿命を縮めてしまうことも……。
もちろん、CPUなどの温度が測定できるアプリもありますが、うっかりやりがちなことが、通風口の近くにモノを置いてしまったり、PCと壁面と近過ぎたりで、知らないうちに温度上昇させてしまうケース。
いままでは、PCの裏を手で触ってみて「熱いかなあ……大丈夫かなあ……」と感覚に頼っていましたが、非接触温度計で測れば、手をホコリなどで汚さずに簡単に測定でき、PC環境を熱暴走から守ることができます。
料理やワインがおいしくなる?
料理も、勘や経験が出来上がりを左右する代表例。とくに、フライパンを使った調理は温度管理による失敗も多くあります。
たとえば、ステーキをおいしく焼くポイントは「肉を常温に戻す」とありますが、どれくらい出しておくかは室温によって変化します。一般的に、「冷蔵庫から出した肉は30分以上2時間以内、室温におく」なんて説明されていますが、時間に幅がありすぎ(笑)。よくステーキを焼く人は別にしても、筆者みたいにステーキを焼くのは年に数回という人は、なかなかタイミングがわかりません。
さらに焼く時のフライパンの温度も200度くらいが良いらしく、これまた、経験が少ないとわかりにくい。テフロン加工のフライパンは耐熱温度が260度なので、フライパンをダメにしてしまいそうで、つい低めで焼いて肉が硬くなってしまうこともあるのではないでしょうか。そんなときも、非接触温度計があれば、ピッタリの温度でおいしくステーキを焼くことができます。
ちなみに、筆者が大好きなお好み焼きですが、中が生焼けだとお腹を壊すので、フライパンの温度を保つために非接触温度計があるとおいしく焼けます。そんな庶民的な料理にも強い味方!
また、すっかり日本にも浸透したワインですが、我が家にはワイン専用のセラーがなく、冷蔵庫の野菜室で冷やしています。一般的な冷蔵庫の野菜室の温度が3度〜8度なので、ワインにはやや低めです。冷蔵庫から出してしばらくしてから飲むのですが、そのタイミングを測るときも活用しています。スーパーのワインでも、なんか美味しくなった気がするから不思議です。
体温計と温度計の違い
本記事の冒頭でも述べたように、最近は見かけることが多くなった非接触温度計。筆者のようにDIYや料理で使うには便利ですが、体温を測るために購入するなら注意が必要です。
実は、体温計は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に準じているものなので、明示されている製品を購入するのがベスト。
筆者が使っている温度計は、マイナス50度〜600度が測れるタイプで、体温を測るにはレンジが広すぎで、正確に測れません。さらに非接触温度計は体温ではなく、皮膚の温度を測定するので、外気や汗などに影響を受けて低めに表示されることを覚えておくといいでしょう。
また、工業用の非接触温度計では、測定部分がわかるようにレーザーが使用されていることも多く、顔で温度を測るとレーザーが目に入る危険があるので厳禁です。
ネットショッピングなどで購入するときは、用途に合わせて購入していただくことをお勧めします。
人間の目には見えない赤外線。温度測定だけでなく、マジックに使えば、すぐに観客の選んだカードなどもわかるのかもしれません。しかし、そんなトリックが生まれると、マジシャンのスキルも必要なくなってしまう諸刃の剣。やっぱり、マジックの世界では「昔ながらの……」というものが、いいのかもしれません。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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