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「現場社員100人と議論して決めた」2022~2024年度の3カ年成長戦略を中川社長が説明

シスコが「今後3年間」の中期ビジネス戦略を発表した理由

2021年11月12日 07時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズ 日本法人(以下、シスコ)は2021年11月4日、2022会計年度(2021年8月~2022年7月期)の事業戦略説明会を開催した。今年2月に社長に就任した中川いち朗氏が、シスコの現状とこれから3カ年(2022~2024年度)にわたる戦略を説明した。

シスコが新たに掲げる3カ年成長戦略

シスコシステムズ 代表執行役員 社長の中川いち朗氏

全社100%リモートワークで乗り切ったこの1年

 中川氏は最初に、2021年度の振り返りを行った。1年を通じてコロナ禍によって従来とは全く異なる事業環境が強いられる中、シスコは全社で100%リモートワークを続けた。

 「もちろん当社だけでなく、日本全体のテレワークが加速し、コロナ前は26%だったものが緊急事態宣言後は67%まで上昇した。その中で第3四半期の折り返しで社長に就任した。周りからは大変なタイミングだと言われたが、変化の時こそチャンスだと思う。シスコは5Gネットワークと企業向けネットワークの双方で豊富な実績を持つ唯一の企業として、顧客企業の価値創造をしていく」

 また、2021年の春から夏にかけて行ったCM動画や交通広告を使ったブランドキャンペーンや、1年遅れで開催された東京オリンピック/パラリンピックでのネットワーク機器のオフィシャルスポンサー活動も成功し、「一般消費者への企業認知は大きく向上した」という認識を示す。「残念ながら無観客での開催だったが、史上最もデジタル化した大会として、IoT技術やデータ分析によるアスリート支援、ダイバーシティ推進、サイバーセキュリティ人材の育成など、さまざまな取り組みでも成果を挙げた」。

シスコは世界6位の「ソフトウェア企業」

 次に中川氏は、同社のビジネスポートフォリオ変革について説明した。

 シスコと言えばネットワークルーター、スイッチといったネットワーク機器(ハードウェア)のトップ企業というイメージがあるが、近年では総売上に占めるソフトウェア、サービスの比率が急上昇している。2017年には20%だったソフトウェア売上比率は、2021年度に目標値の30%に到達。サービス事業と合わせると53%に達している。しかも、ソフトウェアの売上に占めるサブスクリプションの割合は、2021年度で79%と非常に高い。ハードウェアの売り切りモデルから、サービスを継続的に提供するビジネスモデルの割合が増えている。

 「特にソフトウェア部門はネットワーク管理、マルチクラウド管理、コラボレーションといったところで事業拡大している。驚かれるかもしれないが、シスコのソフトウェア部門の売り上げは年間約150億ドルで、世界6位の規模がある。日本でもグローバルと同様のビジネス変革が進んでいる」

この数年間でシスコのビジネスモデルも大きく変化を遂げた

現場社員100人が経営と議論して決めた“中期戦略”

 続いて、シスコジャパンの重点戦略について、導入事例を交えて説明した。

 2021年度は「日本企業のデジタル変革」「日本社会のデジタイゼーション」「営業/サービスモデル変革」「パートナーとの価値共創」という4つの戦略の柱を据えて取り組んだ。この戦略に沿って実現した企業への導入事例として中川氏は、損保ジャパンがビデオ会議システム「Webexミーティング」を導入し、リアル営業とビデオ営業のハイブリッドワーク環境を実現したケース、楽天モバイルのネットワーク基盤を自動化したケース、デンソーが工場ネットワークの大規模導入を行ったケースを紹介した。また、NTTコミュニケーションズ、NEC、LINE WORKSなどパートナーとの協業も実現している。

昨年度掲げた重点戦略4つと、それぞれの主な成果

 「就任直後に立てた戦略フレームワークが、これまでのビジネス成果で正しい方向を示していると確信した。今後はこの4つの戦略分野の取り組みを続け、さらにテクノロジープラットフォームと人材、企業文化を下支えにして伸ばしていく。そして、2022~2024年度の3カ年戦略に発展させ、長期的な視野で投資を継続する」

 外資系のテクノロジー企業で、3年先までの長期戦略を具体的に示すことは珍しいが、それだけにシスコの事業ドメインと現在の戦略がフィットして、成長軌道に乗せるビジョンとして理にかなっているということだろう。実際、この戦略を決めるにあたり、シスコ社内で役員と現場部門のリーダー100名でプロジェクトを作り、議論を重ねたという。「トップダウンとボトムアップで決定された戦略だ」と中川氏は自信を見せる。

 業界別では「製造」「金融」「流通サービス」「公共」の4分野に注力する。推進体制は、産業別の専任技術開発チームを立ち上げ、先行事例の開発やエコシステムパートナーとのソリューションにあたる。

 「具体的な事例を通じて顧客にビジネス成果を実感してもらえるように、業界別ソリューションを整備する。また、顧客へのアプローチ先も、情報システム部門から事業部門へ変える必要がある。そのために5Gのショーケースやイノベーションセンターなどの活用や、シスコ自身の事例も紹介する」

 次に、シスコがグローバルで取り組む社会のデジタル化に向けた投資プログラムである「カントリーデジタイゼーション アクセラレーション(CDA)」について説明した。これはすでに世界40カ国で1000件以上のプロジェクトが動いており、各国が直面する課題をデジタル化によって解決し、経済成長を促すことが目的である。

 日本では「スマートシティ」「公共サービス」「教育(GIGAスクール)」「テレワーク」などのテーマを中心に取り組んできた。さらにこれを「地球温暖化対策」「高齢化対応」など、より大きな問題の解決に向けた「CDA2.0」へとバージョンアップし、追加投資を実施する。具体的には「スマートモビリティ」「無人店舗」「公共サービスのクラウド導入」などを支援していくとしている。

長期戦略を支えるフルスタックのネットワーク技術

 4つの重点戦略の基盤を担うプラットフォームは、以前より提供している「Cisco Digital Network Architecture (DNA)」が中心となる。これは在宅、オフィス、リモートのどの環境でもセキュアに企業ネットワークにアクセスし、データセンターからマルチクラウドまで、セキュアに利用できる環境を提供する。いわば、プラットフォーム自体が環境に合わせて変化することをコンセプトにしている。

変化に即応できるプラットフォームとして「Cisco DNA」の導入を推進する

 「コロナ禍での働き方の激変やプロセスの変更により、システムは導入時には予想がつかなかった利用形態が発生している。その結果、セキュリティのリスクやネットワークのトラフィック量にも大きな影響が発生している。変化に即応し、導入したシステムを最適化し、機能を最大限生かせるネットワークでなければいけない」

 DNAの導入拡大にはこのコンセプトを理解したパートナーの存在が不可欠だ。すでに2020年度からパートナーとの開発チームを発足しており、2年間で事業規模を2倍に成長させている。2022年度は開発チームを拡大し、マネージドサービスプロバイダーチームとして再編、サービスプロバイダー以外のパートナーも支援する。

 またハイブリッドワークにおいては、Webexを中核としてクラウド上でビジネスコミュニケーションを安全で効率的に行うための機能追加を進めている。2020年以降、800もの新機能を採用しているという。また企業が従来から持っているコールセンター、オフィス電話、ビデオ会議端末などとの連携も柔軟に行える。「Webexはビデオ会議だけでなく、オンライン商談やパートナー企業とのセミナー、株主総会、社員トレーニングなどさまざまなビジネスアプリケーションに変化し、広がっている。今後もイノベーションを起こしていく」(中川氏)。

 そして、これらのネットワーク戦略の前提となるのがセキュリティだ。シスコではゼロトラストセキュリティを実現するプラットフォームである「Cisco SASE」で、ネットワークと一体で強固なセキュリティ管理体制を実現する。

 「35年以上のネットワーク管理ノウハウをベースに、最新のインテリジェンスによるセキュリティ監視と対策手段を用意する。また、DXの推進には柔軟なネットワークの拡張も必要だが、ビジネスの観点からシステムを俯瞰的、かつ一元的に把握できるフルスタックの可視化と運用体制を提供できるのも、シスコだけの強みだ」(中川氏)

「Cisco SASE」やフルスタックのオブザーバビリティ(可監視性)も紹介

 中川氏は最後に、2022年度の幹部体制を発表した。「新卒で入社したキャリア20年以上の社員が、経営チームの1/3を占めるようになっている。現在、シスコのグローバルの中で日本のビジネスは米国、英国、ドイツに次いで4番目だが、内部昇格を中心に新世代にアップグレードした新体制で、3年後には米国に次ぐポジションを目指したい」と語った。

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