ソフトバンクは2021年10月20日、AIを活用する人材を育成するための高校生向け学習プログラム「AIチャレンジ」を、2022年4月より提供開始することを発表。同日に実施された記者会見では、同プログラムの概要と提供する背景について説明がなされた。
ソフトバンクのCSR本部 本部長である池田昌人氏は「あらゆるモノの自動化や、シェアリングエコノミーなど今後の新しいビジネスにはAIが大切な役割をはたし、今後あらゆるシーンでAIが活用されていく」と話すが、一方で現在、日本ではAIを作る人材よりむしろ、AI活用する人材が足りないという声が多く聞かれるという。
そこで不足する日本のAI関連人材を増やしていくためには、AIに関するリテラシーを持った人材をいかに輩出していけるかが重要なポイントになってくるとのこと。日本が長きにわたって世界的な競争力を落とし続けている中、AIを通じて日本の活力を高めるためにもAIチャレンジの実施に至ったという。
池田氏によると、AIチャレンジで目指すゴールは、ExcelやWordなどを使うのと同じ感覚で、AIを活用する人材を育てることにあるとのこと。プログラムを書いてAIそのものを作る人材を育てるのではなく、AIを使って何ができるかを考え、ツールを選択・導入して企業や経済活動のPDCAを回す人材を輩出するのが目的となる。
AIチャレンジは当初高校生を対象としたプログラムからスタートさせるが、プログラムのポイントは大きく3つあるとのこと。1つは、単にツールを提供するのではなく、高校生がAIを活用した企画を立て、それをソフトバンクのグループ企業でAIに携わる人材が講評し、より実践的なフィードバックが得られる点である。
2つ目はソニーネットワークコミュニケーションズの予測系AI「Prediction One」など、高校生にも分かりやすい最新のAIツールを厳選して提供すること。そして3つ目は、AIの専門知識を持つ教員がいなくても教えることができる、教材配信プラットフォームを提供することだ。
実際のプログラムは大きく分けて「AI活用リテラシーコース」と「AI活用実践コース」の2つが用意され、学校の状況や目指す姿、教育方針でどのプログラムを実施するか選択できる。それぞれのコースは2~4つのユニットに分かれており、1~2のユニットではAIに関する基礎知識を学び、AIを活用した企画のプレゼンテーションをするなどして知識や理解を深める場となる。
さらに3~4のユニットでは実際にAIツールを活用し、AIを使った課題解決に取り組むなど、より実践的な体験ができるとのことだ。
またAIチャレンジはソフトバンク独自のプログラムというわけではなく、新学習指導要領の「情報I・II」に準じており、多くの高校で導入しやすい内容にもなっているとのこと。費用はプログラムに応じて1年契約で13万2000円~29万7000円となるが、ビジネスではなく、あくまでCSRの一環として展開していくため、ソフトバンクをはじめ協力する各社が利益を得ない価格設定とのことだ。
ソフトバンクではさらに、プログラムの学習成果発表の場として「AI企画コンテスト」の開催も予定しているとのこと。2023年2~3月頃の開催を予定しているそうで、優秀校にはソフトバンクのAI部門のメンバーとコミュニケーションが取れる、インターンシップが設けられるという。
AIチャレンジの教材アドバイザリーを務めるZOZO NEXTの取締役CAIOで、日本ディープラーニング協会 人材育成委員でもある野口竜司氏は、これまで自身で「文系AI人材になる」という本を出版し、自費で全国の中学校・高校に配布するなど、AIを分かりやすく教える取り組みを進めてきたとのこと。その経験から、今回のプログラムにおける重要なキーワードを3つ挙げている。
1つは「AIを使いこなす人材」で、AIを作るだけでは社会実装が進まないことから、今回のプログラムでも利用する人材をいかに増やすかに着目して教材化を進めているとのこと。2つ目は「引き算」で、難しい要素は詰め込まずに若い世代が知るべきことに厳選し、それ以外の要素は差し引くことで学習体験を挙げることを重視しているちおう。
そして3つ目は「AIネイティブキッズ」で、若い頃からの教育でAIを当たり前に使いこなす世代を作りたいという狙いがあるそうだ。今回のプログラムも「AIネイティブキッズ爆増のため監修した」と野口氏は話しており、AIを使いこなす若い人材を日本から多く輩出したいとしている。
またPrediction Oneを提供する、ソニーネットワークコミュニケーションズの法人サービス事業部 AI事業推進部 Prediction Oneプロジェクトリーダーである高松慎吾氏は、AIの普及を妨げる課題について「やはり専門家不足だと思う」と指摘。企業には多くのデータが蓄積されており、そこに予測型のAIを適用すれば需要や生産数の予測など多くの価値を生み出せるというが、多くの企業ではAIの専門家が足りておらず、それが導入のハードルになっていると高松氏は話す。
同社ではその課題を解決するべく、2019年にPrediction Oneの提供を開始。現在は2万社以上に利用されているというが、そのPrediction OneをAIチャレンジに提供するに至った理由として、高松氏はAI人材不足が日本の社会課題となっており、高校生という早いタイミングでAIの教育をすることに賛同したためと回答。学生には一連のプログラムによって、AIで身近な問題解決に結びつけるという視点が生まれることを期待していると、高松氏は話している。