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自宅でラボグレードの検査を可能にするBisuが目指す健康のあり方

Bisu 共同創設者&CEO Daniel Maggs氏に聞く

連載
このスタートアップに聞きたい

 自宅に居ながら身体の健康管理ができるヘルスケアサービスが世界で注目を集めている。中でも個人向けの検査・診断サービスは、技術の進歩で検査できる項目が増え、専門施設やクリニックでしかできなかった高い精度の診断も可能にしている。検査・診断のハードルを下げ、信頼性の高いデータを得られることは、定期的な健康診断よりも健康を取り戻す行動変容につながりやすく、効果が期待されている。世界では数多くの企業が参入し、大型の資金調達を成功させるケースも増えている。

 日本と米デラウェア州を拠点とするヘルスケア・ハードウェアスタートアップのBisu(ビース)も、今年10月にシードラウンドで総額3.5億円を調達し、まずは米国でコンシューマ向けのサービス展開に向けて大きく動き出そうとしている。数多くの競合がしのぎを削る中でBisuのどのような点が支援を集めているのか。共同創設者&CEO Daniel Maggs氏に詳しく話を伺った。

Bisu, Inc.共同創設者&CEO Daniel Maggs氏

簡単で精度の高い検査技術を独自に開発

 Bisuは2015年の設立から、自宅で行えるラボグレードの尿・唾液検査サービス「Bisu Body Coach」(ビースボディコーチ)を開発している。使い捨ての検査スティックで尿や唾液を採取し、卓上型のデジタルデバイスに挿し込むと、約2分で検査結果がスマホアプリで確認できる。

 技術のポイントの一つは検査スティックの開発だ。化学や医療分野で普及すると言われてきたマイクロ流体技術の「ラボ・オン・チップ」(Lab-on-a-chip 略称: LOC / LoC)を元に独自開発した「マイクロ流体チップ」が検査スティックの中に入っており、その先端に付いている吸収パッドは化学反応を起こさず検体を採取できる。量もわずか数滴あればいいので、通常の尿検査より簡単で失敗しにくく、清潔で繰り返し検査できるのがポイントだ。紙ケースの本体とプラ製の検体チップは、廃棄する時に分別できる作りにしている。毎日測定することも可能だが、週に一度で必要なデータが得られるという。

 測定はデバイス先端に搭載された9層ものチップによる分光測定法で、数滴の尿を当てればほぼリアルタイムに測定され、アプリに反映される。既存の家庭用検査の倍以上にあたる20項目以上を検出でき、検査スティックを使い分けて家族や複数で使用できるようにした。LoCの技術領域は30年前からあるがさまざまな課題から商品化が難しく、Bisuも4台目の試作でようやく量産の目処が立ったという。関連技術の特許も出願中だ。

「私たちは、健康管理は診療の前後が大切で『予防は治療に勝る』と考えています。前例の無い『臨床グレードのウェルネス』と呼べる医療現場レベルの測定技術を家庭でも実現しようとしており、かなりの投資と時間をかけて開発を進めてきました。製造でも高いクオリティが求められることから、ハード面ではダイキャスト加工で100年の歴史を持つ日本の会社と製造ラインづくりに取り組んでおり、並行して海外でベータテストを実施しています」 

 ディープテックともいえるBisuの技術は高く評価され、アシックス・ベンチャーズやSOSV(名門アクセラレーターHAXを運営するVCファンド)らから、総額3.5億円を調達している。さらに、アシックスと多方面で協業を開始することを発表している。

行動変容につながるサービスデザインが重要

 ヘルスケアビジネスでは高い技術力もさることながら、毎日使うアプリの作り込みも重要だとMaggs氏は言う。

 「一度使いはじめたら続けたくなるようなサービスにするには、毎回正確なデータを測定できる信頼基盤とあわせてアプリデザインも重要です。ユーザーに最適化されたサービス体験を提供するため、この数年間はPMF(プロダクトマーケットフィット)の検証に力を入れ、アプリの仕様を調整してきました」

 アプリ上では水分やビタミン、ミネラルなどの重要な栄養素に関するフィードバックを得られるほか、年齢、体重、運動量、睡眠時間、月経周期に加え、行動パターンなどのデータを保存でき、個人で設定した健康目標に基づいた健康改善のアドバイスが表示される。食生活やアレルギーの有無に応じて、おすすめの食材を提案したり、摂取しているサプリメントに合わせて分量を調整する機能も用意されている。データに関してはウェアラブル機器や他のアプリとのAPI連携も予定している。

 「接種している栄養素や量がわかるだけでなく、具体的なアクションにつなげるようサービスを計画しています。例えば、食事を撮影してカロリーを分析する機能などを使ったミールプランニングなどが考えられますが、野菜を食べろとか運動しろとか強制するのではなく、できるだけユーザーの負担にならないような形で提案できる方法を考えています。

 事前のリサーチでは、SNSではなく信頼できる人たちに自分のカラダについて知ってもらい、アドバイスを受けたいという要望が高いことがわかったので、家族や医師、栄養士、トレーナーらと情報を共有し、健康相談ができるチャット機能や意見交換ができるコミュニティを運営することを検討しています」

 ここまで話を聞くと、Bisuのサービスは既存の健康診断をなくそうとしているように思われるが、むしろ、健康診断での基準を元に問題がある点を改善し、次の検査結果を良くするサイクルを提案してようとしている。Bisuがターゲットにするのは身体機能の維持や高めることに関心度の高いユーザで、米国だけで約9000万人の需要が見込まれているという。日本のような皆保険制度や健康診断の取り組みは海外ではレアであり、だからこそHealthTechのサービスへの期待が高い。

 「ほとんどの人はよほどのことがなければ根本的な行動変容はおこしません。本当に変化を促すのであれば、体質やライフスタイルを把握して、目標にあわせてできる範囲で健康に向けてやさしく調整できる体験を提供したい。そう考えると、健康のために何かしたいというのもありますが、自身のパフォーマンスをもっと出せるように中から美しくなろう、という提案の方があっているかもしれません」

目指すのはどこでも検査ができる無人病院の設置

 Bisuでは他にもさまざまなビジネス展開を進めている。今回、資金調達とあわせて発表されたアシックスとの連携では、運動パフォーマンスの維持・向上のサポートを目指し、トレーニング強度や効果の測定、ホルモンバランスの状態がわかる検査ツールの開発を計画している。Maggs氏は「以前からスポーツ・フィットネス領域でもサービスが評価されていました。アシックスは投資家でもありますが、私たちの立場を理解し、尊重してくれることから協業につながりました」と説明し、他の企業とも協業関係は広げていきたいと話す。

 計画では、まず2022年に欧米市場で商品販売を開始し、日本では2023年の販売開始を予定している。そして、日本ではその前にペットの健康管理ができる尿検査サービスを先行して導入する。開発過程でのリサーチによると、日本、台湾、韓国などのアジア市場はペットの健康管理に関心が高く、すでにテストを始めている。

 「技術はまだまだ改良の余地があり、細かいところでは、検査できる栄養素の項目を増やしたり、使い捨ての検査スティックを生分解できる植物性プラにするなどいろいろ考えています。赤ちゃん用のおむつに応用したり、尿以外に唾液、汗なども検査できるので、感染症の予防や疾病の予兆も知ることができるようになるかもしれません。測定の後につながるサービスを提供するパートナーも増やしたいですし、当社の技術をライセンス連携し、多様な取り組みをしたいと考えています」

 そして、Maggs氏が将来目指しているのが無人病院を作ることだ。

 「いろいろな検査ができ、その場で医師とリモートで相談できる無人のブースを作り、どこでも気軽に自身の健康状態がわかるようにしたい。駅構内や商業施設、学校など設置はどこでもできるので、世界中でニーズがあるはずなので、ぜひみなさんと一緒に協力して実現したいです」

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