デジタルの世界に行く前の大きな川が渡れない
だが、齋藤会長は、その状況が手放しでは喜べないと警鐘を鳴らす。
「オンラインが使えるか、使えないかで、生活の便利さや、楽しさに大きな違いが生まれている。便利なオンライン社会が作られても、使えない人がいたり、使いやすい環境が提供されていなければ、その価値は発揮できない」からだ。
齋藤会長は、その状況を、生活者と便利なオンライン社会の間に、「大きな川」があると比喩する。
「オンラインで実現する便利な社会に行くには、大きな川を渡る必要がある。この川を渡ることができれば、便利で、ワクワクした世界がやってくる。だが、渡れないと不便な生活を強いられることになる」
齋藤会長が例にあげたのが、高齢者を対象に行われたワクチン接種のネット予約である。
「私の母も、この川に妨げられた。一人では川を渡れずに家族が支援したことで、はじめてアクセスでき、オンラインで予約を取ることができた。一人のままでは、川を渡れず、いまだにワクチンを打っていなかったかもしれない」とし、「オンラインを使えないことが、基本的な生活を脅かすことになりかねない事象である。オンラインによる便利な社会と自由に行き来ができることが、ますます重要になる」と指摘した。
「橋」の役割を果たす、この川を渡るツールは、いくつも用意されている。
スマホやタブレット、AIスピーカーのほか、ネットワークに接続されたテレビも、川を渡る「橋」だ。いまでは白物家電にもネットワーク機能が搭載されており、様々な機能が便利に利用ができる。なかでも、この川を渡るのには一番の道具であり、最も橋の幅が広いのがパソコンであると、齋藤会長は位置づける。
「UI/UXの点で最も優れ、大量のデータを送信でき、迅速な処理ができるのがパソコン。外出が制限される生活でも、パソコンがあれば、離れて暮らしている家族や友人ともつながり、1人じゃない生活を支援できる。そして、パソコンを使うことで、オンラインによるワクワクをもっと体験してもらえる」と語る。
しかし、パソコンが持つ課題がある。
それは、高齢者にとって使い方が「難しい」ということだ。
齋藤会長も「これは、40年間に渡って、常に向き合ってきた課題である」としながら、「パソコンは難しく、いまから覚えるのは無理だという声があるのも事実だ。しかも、高齢者のワクチン接種予約の状況を見ても、デジタル苦手さんが想像以上に多いことがわかった。40年の節目を迎えた今年、パソコンは難しいという概念を取り払うための努力を、新たにスタートしたい」と語る。
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