SBI証券は2021年9月14日、日本電気(NEC)と共同で、国内で初めてインサイダー取引の審査業務にAIを導入し、2022年度より運用を開始すると発表した。すでに2020年度から実証を行ており、判定理由を明示したうえで高精度にインサイダー取引の疑い度合いのスコアリングを実現し、まず疑いのある取引を抽出する一次審査という業務の時間を約90%短縮できたという。
SBI証券が保有する数年分のインサイダー取引に関する取引データや重要事実データなどを学習したAIモデルを生成し、インサイダー取引の疑い度合いをスコアリングすることで審査業務を支援する。AIには、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つであり、分析結果の根拠を可視化できる説明可能なAI「異種混合学習技術」を活用している。
一定基準のもと抽出した取引データから不公正取引の疑いのある取引を絞る一次審査を効率化でき、審査担当者は詳細な審査やより深度ある調査・分析に注力できるという。人間では気づきにくいリスクをAIが検知・可視化することで、新たな観点から不公正取引の防止に寄与することも期待できる。
またNECは、今回の取り組みの成果・ノウハウを活かし、AIを活用して相場操縦など不公正取引の審査業務を支援するクラウドサービス「NEC AI 不正・リスク検知サービス for 証券」に、インサイダー取引に対応した新たなメニューを加え、2022年度より提供を開始する予定。
証券会社での業務効率化がどの程度なされるか疑問が残る
国内での不公正な株取引を監視する「証券取引等監視委員会」(略称:SESC)によれば、2020年度に行ったインサイダー取引の審査件数(https://www.fsa.go.jp/sesc/reports/n_2020/n_2020a.pdf)は年900件、また東京証券取引所などを運営する日本取引所グループによるインサイダー取引調査・審査件数(https://www.jpx.co.jp/regulation/preventing/quarterly/index.html)は年1,858件と、いずれも日々100万件を優に超える膨大な証券取引件数に対して僅少となっています。
この数字は、証券会社でインサイダー取引を未然に防止する活動を行っている効果が表れているともいえますが、この活動は人海戦術で行っていることが多いです。具体的には、システムが出力したインサイダー取引の疑義リストを、証券会社社員がチェックして最終判断をくだしています。
今回のNECとのソリューションでは、一次審査で幅広に不公正取引の可能性がある取引を抽出するのが主機能であり、一次審査の時間を90%削減でき、二次審査で担当者の調査の深化ができるとしています。
しかしAIによるリスク検知の信頼度によっては、二次審査の労力が増してしまう可能性があります。スコアが高い取引顧客には自動で警告を発するなど、審査後の業務効率化まで含めた対応ニーズがあるはずで、業務プロセスの最適化をしなければ抜本的な業務効率化にはならないかもしれません。
(ASCII FinTech記者 久我 吉史)