アップルは8月26日(現地時間)、App Storeにおける制限を緩和することを発表した。アプリ開発者はユーザーに支払い方法の情報について直接通知できるというもので、すべてアプリにおいてApp Store外での課金が容易になる。気になるのは、実際のユーザーがこれをどう受け止めるかだ。
アプリベンダーがApp Store外での
課金手段を提供することが可能に
アップルの方針変更は、2019年に始まった集団訴訟を受けてのもの。アップルに対して訴訟を起こした米国のアプリ開発者は、iOSアプリの配布において、App Store以外の選択肢がない状態であるのに加えて、売上の30%をコミッションとして徴収するモデルを11年にもわたって(当時)継続していること、開発者登録にあたって99ドルの年会費を要求すること、最小価格などの設定があることなどを不服として訴えていた。
今回この訴訟において和解案に合意したのだが、そこではApp Store以外での支払いを可能にするという譲歩をアップルが見せているわけだ。アプリ開発者は電子メールなどを使って、ユーザーに直接支払い方法について知らせることができる。この場合、アップルが課す30%のコミッションを回避できるため、より低い金額が設定される可能性もあるし、そのほかのオファーなどの可能性も開けそうだ。もちろんその際には、ユーザーがアプリ提供者とApp Store外でのやり取りに合意している必要がある。
このほかにもアップルは、価格設定の選択肢を増やすほか、アプリの却下などのプロセスを、これまでより透明にすることなども約束している。また、米国の開発者限定ではあるが、「Small Developer Assistance Fund」として総額1億ドルの基金を立ち上げることも公表した。2015年以降に、アプリの売り上げが年100万ドルに達していない企業が対象で、App Storeエコシステムへの参加履歴に基づき、250ドルから3万ドルまでの支援が受けられるという。
アップルは昨年末に、「App Store Small Business Program」としてアプリの売上が年100万ドル未満の開発者には、コミッションを半額(15%)にするプログラムを発表している。アプリ開発者の99%が年100万ドル未満とのことだ。
シェアは2割未満でも
経済力は圧倒的なiOSアプリエコシステム
アップルがiPhoneとセットで成功させたApp Store。Symbianの時代も外部の開発者がアプリを提供する仕組みはあったし、アップルが参考にしたと言われるiモードでも同様だ。だが世界最大の市場であり、開発者もたくさんいる米国が、モバイルアプリの魅力と潜在性に気づいたことで、App Storeはモバイルアプリのエコシステムを急速に発展させた。
IDCによると、スマートフォンのシェアはAndroidが8割強、残りがiOSだが、2つのOSが持つ経済的インパクトはiOSに軍配が挙がる。SensorTowerの調査では、2021年第1四半期、世界の消費者がApp Storeに費やした額は204億ドル(約2兆2000億円)、Google Playの2倍近い。「購買力ではiOSが圧倒している」という言葉は、本連載でも過去に紹介している(「スマホアプリの世界では――やはり”ゲームしか勝たん”のか?」)。
だからこそ、アップルへの風当たりも厳しくなる。
「フォートナイト」のEpic Gamesは、30%のコミッションを回避すべく独自の決済システムを導入したところ、アップルがApp Storeから削除したことから訴訟に持ち込んだ(Google Playでも同じことになったため、グーグルに対しても提訴している)。
今回の和解は、Epic Gamesの判決待ちという状態で発表された。アップルにしてみれば、判決への影響を期待したいところだ。

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