編集者に聞く、メディアが取材したくなるスタートアップとは
2021年7月2日開催「YOXO Study Series広報編」レポート
2021年7月2日、横浜・関内のスタートアップ成長支援拠点「YOXO BOX」にて、セミナーイベント「YOXO Study Series 広報編 ~編集者に聞く!メディアが取材したくなるスタートアップとは~」が開催された。本セミナーでは、「メディアが取材したくなるスタートアップ」、「記事になるための広報活動」をテーマに、実際の広報担当者や雑誌編集者によるトークが繰り広げられた。講師に株式会社mikuPR(ミクピーアール)代表取締役の木本 美紅氏、ゲストに広報の桶本裕介氏、経済誌「プレジデント」前編集長の小倉健一氏、フリーランスライターの鈴木俊之氏が登壇した。
広報とは、社会と会社をつなぐ役割を担うもの
セッションの第1部では、広報活動とはどういったものなのか、株式会社mikuPR代表取締役の木本美紅氏が説明した。
木本氏は、広報について「社会と会社をつなぐ役割を担うもの」とし、ステークホルダーに活動内容を理解してもらい、認知、印象、ブランド価値を向上させる役割がある、と指摘。そして広報活動は、広報とは何かしっかり認識すること、プレスリリースを作成して配信すること、メディアとの付き合い、という3つのステップがあると述べた。
まず、広報とはいったい何なのか。企業が広報活動として行うこととしては、プレスリリースの作成と発信、そのリリースに応じた取材対応や記者会見の開催、危機管理対応といった3つの要素がある。
ただ企業の広報担当の中には「広告と広報の違いをきちんと理解できていない人が多い」(木本氏)と指摘。広告記事の場合は、有償ではあるが、媒体への掲載が担保されるとともに、掲載内容の精査や修正も可能。それに対し広報記事は、無償ではあるが、掲載判断や編集権はすべて媒体の編集部側にあり、掲載内容の精査や修正も不可能となる。「この違いをしっかり認識しなければ、最悪の場合、編集者との関係が壊れ、正しい広報活動が行えなくなる場合もあるため注意が必要だ」と木本氏は強く指摘した。
次に、プレスリリース。プレスリリースの内容としては、一般的には新商品や新サービスのお知らせ、記者会見などのイベントの告知といったものが中心となるが、会社や業界の状況などを発信するニュースレター的な内容も盛り込まれていると編集者から頼りにされやすいと指摘。また、製品の新規性をしっかり説明することや、売上などに関する数字、今後の展望なども重要な要素となる。
そのうえで、特に重要なのはタイトルだと木本氏は強調する。通常、編集者のもとには1日あたり数百通のプレスリリースが届くため、読まれないものも少なくない。そのため、編集者の目にとまるタイトルを付けて、いかに編集者に読んでもらうようにするかが重要と指摘。
また、プレスリリースは、完成後すぐに「PR Times」などのプレスリリース配信プラットフォームからの全体配信を行ってはいけないと木本氏。プレスリリースの全体配信を行ってしまうと、消費者も含めた既知の情報となってしまうため、媒体側としてはスクープ要素がなくなってしまう。そのため、プレスリリースが完成したら、プレスリリースを配信する前に、ターゲットメディアや記者に直接アポイントを取って、新商品などの情報提供や説明を行う。その後、ターゲットメディアでの記事掲載とプレスリリースの全体配信を行うことが重要だと説明した。
そして、メディアとの付き合い方としては、「取材したくなる企業になれ」と木本氏は述べた。そのためには、まずは会社のことを知ってもらう必要があるとし、マスコミ用の会社概要を作り、社長がどういった人生を歩いてきたのかといったプロフィール作成、その会社をどうしたいのかという社長の人生ストーリーなどをしっかり盛り込むことで、メディアに会社や社長のファンになってもらうことが近道だと説明。そのうえで、業界の全体像や構造を語れるプロになれば、メディアからコメントを求められることも多くなり露出が増えることにつながるという。
そのうえで「記者も人、広報も人である」とし、自分の利益にならずとも、この人に協力したいという思いで記者と向き合って信頼関係を構築することが、広報活動を成功につなげる秘訣だと述べた。
メディアへの露出につなげるには、人と人とのつながりを大事にすべし
続いて、株式会社プログリット(当時)広報の桶本裕介氏が、新聞、雑誌、テレビへの露出の手法について、長年広報に携わってきた経験をもとに説明。
露出までの流れとしては、先に木本氏が説明した流れとほぼ同じで、まずは社内で情報を収集し、それをもとにプレスリリースを作成。そして、そのプレスリリースを公にする前にメディアにアポを取って説明をし、最終的な露出へとつなげている、という。
社内での情報収集については、各部署との定期的なブリーフィングや形成層との密な意思疎通を行うことで、社内で何が起きているのか、また起きようとしているのかをキャッチすることがとても重要と指摘。そういった中から話題のネタを拾い上げ、プレスリリースに盛り込んでいるという。
そして、桶本氏がメディアと接する場合には、はじめて接する記者など、その会社や広報担当について何も知らないという場合も多くあるため、自分について知ってもらうことを重視しているという。「会社の説明をする前に自分の説明をすることが多い」と桶本氏は述べたが、「それによって自分がどういった人間なのかを知ってもらいつつアポを取ることことができ、より円滑なコミュニケーションが行える」と述べた。
メディアとのつながりをどう構築するのか。それについて桶本氏は、他社広報から紹介してもらう、勉強会や講演会に参加して名刺交換を行う、直接の取材打診などでつながりを構築する、といった例を紹介。「重要なのは人付き合いをすること」と述べ、メディアと仲良くなることがつながりの構築には欠かせないと指摘。特にニュースがなくても積極的に話をしたり情報交換したりするように心がけ、そのようにして関係を構築した後に、取材などのアポを取るというのが桶本氏が実践している方法だと紹介した。
いざアポを打診する場合には、ニュースについて詳細な部分まで把握するとともに、専門的な部分もかみ砕いて説明できるようにしておく、誰に取材できるのかといった点や提供可能な素材を決めておく、取材時に撮れる画を決めておく、といったことを心がけているそうで、それによって取材も円滑に進められるという。
また、メディアに露出した後も、SNSなどで拡散、告知したり、公式HPや各種資料への掲載を行ってより広くアピールするだけでなく、社内に共有することで社員のモチベーションを高めることも重要だと指摘しつつ、「広報は、露出を獲得したら終了ではなくて、それをきっかけに社内のモチベーションを高めたり、交流を広めていくという役割もあるため、会社にとって欠かせない存在」だと述べた。
掲載を狙う媒体を研究し、それに合った情報の提供が重要
第2部では、経済誌「プレジデント」前編集長の小倉健一氏と、フリーランスライターの鈴木俊之氏も加わり、質問に回答する形で、編集に携わる側から見た企業の露出方法についてトークが繰り広げられた。
まず、「有名な大手企業は黙っていてもニュースになり、社長インタビューの関心度も高いが、スタートアップやNPO、社団法人はどういった企画で声がかかるのか」といった質問に対し小倉氏は、「掲載したい雑誌をしっかり読んで研究することが重要」だと回答。掲載したい雑誌にそぐわない内容は取り上げられないことが多いため、その雑誌がどういった傾向で記事を作っているのか研究し、それに合わせた情報を提供することが、掲載につながる近道となる。
また、木本氏は「とにかく信頼の構築が重要なので、社長と編集者を会わせて隙間に掲載してほしいとお願いしたことがある」と述べた。紙媒体の場合には「突発的な事故などで穴があき、どうしてもページを埋めなければならないといったことが発生することもある」(小倉氏)ため、そういった場合には、編集者に覚えてもらっている広報担当に声がかかる場合があるそうで、木本氏は実際にそういったタイミングで連絡をもらったことが何度かあるという。それが常に成功するわけではないし、掲載につながるにはそれに値する内容が必要となるが、そういった人とのつながりも重要なポイントになりうるというわけだ。
次に、「小倉さんはインタビューで、プレスリリースの99.9%は読まないと回答していたが、記者やライター、編集者はどうやってネタを集めているのか」という質問が取り上げられた。これに対し小倉氏は「たとえば、独自の調査を行った内容のリリースなどは面白いことが多いので読むことが多い。ただ、読む側はどうすれば成功してどうすれば失敗するのかを知りたいので、その点の調査が甘いと面白くない。設問を一緒につくらせてほしいと思ったことはたくさんあった」と回答。
鈴木氏は「いろいろなデータを持っている会社であれば、企画に合うマニアックなデータを集めるのに協力してもらって記事を作成したことがある」と過去の事例を紹介しつつ、独自データを持っていることをアピールしておくことの重要性を紹介。
そして小倉氏は「広報活動に力を入れている企業は、うまく行っている企業が多い。そのため、社内を見回して、日本一または世界一のものを見つけて並べてみる、もう少しで世界一になるものがあれば世界一になるようにチャレンジしてみる、そういった話題づくりができれば取り上げられやすいと思う」と述べ、オンリーワンの話題づくりを行うこともひとつの方法だと紹介した。
どういった広報がよくなくて、逆にどういった広報が望ましいのか、といった質問についても、それぞれが考えを述べた。
よくない広報として木本氏は「きちんと向き合わない広報」と述べた。特に不利益な内容の問い合わせに真摯に回答しないといった広報はよくないと指摘。そして小倉氏は「メディアは自分勝手でときには暴走もするが、そういった際にどう対応するのかによって広報の価値が問われる」と述べ、木本氏同様に、真摯に向き合うことが重要だと指摘した。
対して、よい広報について小倉氏は「現場の記者は『何かを聞いたときに素早く対応してくれる』ことに好感を持つようだ。会社のブランドや、やりたいことを明確にして、末端の組織からプレスリリースまでが魅力的で、かつ、ブレのないメッセージを打ち出すことが重要」、木本氏は「スピードとフットワークの軽さ。とにかく声がかかったらすぐにレスポンスすることが重要」、鈴木氏は「媒体の違いがわからないと提案も粗くなる可能性があるので、媒体をしっかり研究して媒体にあった提案を行う」とそれぞれの考えを述べた。