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X570 AORUS MASTERと新旧比較 ホントにファンレスで大丈夫なの?

静音化&ストレージ周りが強化されたAMD Ryzen対応マザー「X570S AORUS MASTER」の実力を試す

文●加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

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 Socket AM4用チップセットの最上位に位置する「X570」は2019年、PCI Express Gen4に対応した第3世代Ryzen(3000シリーズ)に合わせて市場に投入された。だが発売から2年も経過すると、X570マザーより後発のB550マザーの方が細かいところで優れる“ねじれ”も起こってくる。

 例えばUSB 3.2 Gen2x2(20Gbps)やHDMI2.1といった新しいインターフェースはX570マザーでは基本的に搭載されない。個々の部材のチョイスや回路設計にしても、当時は存在しなかったさまざまなノウハウが後発のマザーに込められていることもある。要するに今のX570マザーは本来の動作には問題はないが、ハイエンドを名乗るわりには付加価値・付加機能的な部分で陳腐化が進んでしまっている。

 こういう状況の中、主要なマザーボードメーカーは突如として「X570S」を冠したマザーを出してきた。結論からいえばX570Sという新チップセットは存在せず、既存のX570と同じものだ。X570マザーで標準装備だったチップセット冷却ファンを、X570Sではヒートシンクだけで冷却するようになった。

 既存のX570マザーでもBIOSなどでチップセット冷却ファンを静音化できる製品もあるが、ファンレス運用するなら、ファンの入る部分もヒートシンクで埋めないと冷却力的にマイナスなのは自明の理。ファンありで運用するとしてもファン吸気口の半分程度がビデオカードで覆われることもあるなど、X570マザーのチップセット冷却ファンはいろいろな意味で中途半端な部分がある。それを潔くファンレス運用に振ったのがX570Sマザーというわけだ。

 もちろんX570SマザーはX570マザー誕生から2年あまりの間に登場したさまざまな知見・設計・機能を組み込み、より完成度を高めた製品が中心になる。AGESA 1.2.0.0以降に実装されたUSB周りの不具合解消も最初からX570Sマザーには組み込まれている。

 今回は注目のX570Sマザーの中から、GIGABYTE製「X570S AORUS MASTER」を試す機会に恵まれた。前身である「X570 AORUS MASTER」とどう変わったのか、簡単ではあるがレビューしてみたい。

GIGABYTE「X570S AORUS MASTER」は、「X570 AORUS MASTER」をベースに、より完成度を高めた一枚。X570S世代には最上位“XTREME”がまだ出ていないため、6月下旬時点ではX570S世代のハイエンドモデルである

マザー裏は先代X570 AORUS MASTERと同様にバックプレートで覆われている。うっすらとAORUSのシンボルがあるのが見えるだろうか?

先代の要素をほぼ継承しつつ装備を見直す

 X570S AORUS MASTERと前モデル(X570 AORUS MASTER)の違いは下表の通りだ。CPUの電源回路がよりリッチ(14フェーズ→16フェーズ)になったほか、M.2スロットが先代より1基増えた合計4基に増加。さらにバックパネルのUSB Type-CはUSB3.2 Gen2 x2(20Gbps)対応、無線LANもWi-Fi 6E(本邦では電波法の関係で当面はWi-Fi 6動作だが)にグレードアップされるなど、新世代マザーに相応しい装備を手に入れた。

 さらにファン用の4ピンコネクターは10基(3基増加)、M.2スロットのヒートシンクも大型化&両面実装SSDに対する冷却力強化など、細かい部分の使い勝手も向上している。またマザー設計の完成度が向上したことで、DDR4メモリーの最大クロックが4000MHz(OC)から5400MHz(OC)に向上したという(伝聞形なのはまだ正式な情報がウェブに上がっていないため)。

X570S AORUS MASTERとX570 AORUS MASTERのスペックの比較。赤字部分は変更された箇所(クリックで拡大)

2019年に発売されたX570 AORUS MASTERのレイアウト

X570S AORUS MASTERのレイアウト。ファン用コネクターが図の上および右辺に追加されている

X570S AORUS MASTERのマニュアルより、同マザーのブロック図を抜粋。4基のM.2スロットのうち、CPUに一番近い1基はCPU直結、それ以外の3基はチップセット直結だが、3基のうち1基はPCI Express x4スロット(CPUから一番遠いスロット)と排他利用であることが示されている

CPUに14フェーズ+SoCに2フェーズ(ともに70A Power Stage)の電源回路を冷却するFins-Array II冷却システムを搭載。細かいフィンで構成されたヒートシンクは前世代から採用されているが、X570S AORUS MASTERの場合フィンの形状がより複雑になっている

Fins-Array IIが黒いのは単なるデザインではなく、表面にナノカーボンがコーティングされているため。これにより熱放散がより速やかに行なわれ、コーティングなしよりも10%温度が低下するという

フィンの形状そのものも単なる板ではなく、CPUやGPUクーラーに使われているような“空気の通り道”を各所に設けた形状となっている。これも熱交換効率を向上させる工夫だ

フィンの下に隠れている8mm径のヒートパイプもヒートシンクとの隙間をより減らした「Direct-Touch Heatpipe II」が採用され、効率良く熱を伝達できるようになっている

M.2スロットはCPU直結(右端)で1基、チップセット直結で3基構成となり、全スロットに対しSSDの裏面用のサーマルパッドも追加された。2TB以上の大容量SSDを使いたい人にはうれしい装備。CPU直結のM.2用ヒートシンクを外さないと、マザー中央のネジ穴が露出しない設計になっているのが残念だ

「M.2 Thermal Guard III」と名付けられたCPUに一番近いM.2スロット専用ヒートシンク。チップセット側より肉厚になっているほか、空気の流れをよくするための大きなフィンを搭載。ただ背が高いのでこのヒートシンクを利用する場合は、CPUクーラーは大型空冷より簡易水冷を選択した方が無難だ

チップセット直結のM.2スロット用ヒートシンクは高さ制限が厳しいため3スロット分が合体した巨大なもの。これを固定するネジの片方はネジが穴から抜けない構造になっているが、逆側は普通に外れる。こういう工夫をするなら、両方とも抜けない構造にすべきだ

金属で補強されたメモリースロットのほか、オンボードの電源&リセットボタン、POSTコードLED、フロントUSB Type-C用のType-Eヘッダーも見える

GIGABYTEの資料より抜粋。X570S AORUS MASTERのメモリーは最大で5400MHzまで対応する。オーバークロック扱いなので実際に動作するかは個体差と運次第だが、X570 AORUS MASTERが4000MHzだったことを考えると、より回路の完成度が高まったと考えられる

オンボードのリセットボタンはBIOSで切り替えることで「リセット」「RGB LEDの強制オン・オフ」「BIOS設定へ直接入る」「BIOSセーフモードで起動」ボタンとして機能する

リセットボタンの機能設定はこんな感じで切り替える。バラック組みでいろいろ設定をいじりたい人にはうれしい機能といえる

 一方、X570 AORUS MASTERから機能が削られた部分もいくつか存在する。まず有線LANはRealtek 2.5GbE+Intel GbEのデュアルLAN構成から、Intel 2.5GbE(i225V)のみの構成にグレードダウン。さらに長年同社製マザーの構成要素として親しまれてきたデュアルBIOSが消滅した。

 デュアルBIOSに関してはこのX570S AORUS MASTERだけでなく、今期のGIGABYTE製X570SマザーすべてがデュアルBIOS非搭載となったため、なんらかの決断が入ったと推測される。筆者もメリットをあまり感じていなかった部分なので、消滅するのもむべなるかなといったところだ。

今やミドルクラスマザーでも採用されている一体型バックパネル。X570S AORUS MASTERのUSB Type-CはUSB 3.2 Gen2×2になったが、2系統あった有線LANは1系統に削られてしまった

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