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フェムトパートナーズ株式会社 General Partner 磯崎哲也氏 講演「スタートアップエコシステムの変遷とこれから」

「アクセラレーションプログラムFASTAR 2nd DemoDay」レポート

連載
アクセラレーションプログラムFASTAR

 独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)は2021年2月24日、「アクセラレーションプログラムFASTAR 2nd DemoDay」をオンラインにて開催した。中小機構が実施するアクセラレーションプログラム「FASTAR」は、IPOやM&Aのスケールアップを目指すベンチャーや中小企業のより速い成長を目的としたもの。プログラムの実施期間は6ヵ月または1年間で、採択企業には専門家が伴走し、事業計画の策定支援、デモデイでの投資家や事業会社とのマッチング機会を提供する。今回のデモデイでは、「FASTAR」の第1・2期(2019年度)に参加した14社の企業がプログラムの成果をピッチ形式で発表した。本記事では、ピッチに先立ち実施されたフェムトパートナーズ株式会社 General Partner磯崎 哲也氏による特別講演「スタートアップエコシステムの変遷とこれから」をレポートする。

フェムトパートナーズ株式会社 ゼネラルパートナー General Partner 磯崎哲也氏。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。公認会計士・システム監査技術者。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システムなどの経営コンサルタント、インターネット産業のアナリスト等として勤務。その後、カブドットコム証券の社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任

エクイティ・ファイナンスと銀行融資との違い

 この数十年間にスタートアップの世界は様変わりしてきた。平成元年と平成30年の世界の企業価値ランキングを比較すると、以前は上位の大半が日本企業だったのが、平成30年以降はGAFAを始めとするシリコンバレーのテック企業に占められている。この原因は、エクイティ・ファイナンス力の差が極めて大きいのではないか、と磯崎氏は考察する。

 エクイティ・ファイナンス(株式の発行による資金調達)は、銀行からの融資とは真逆の性質をもつ。銀行は借金を返済すればお互いの関係性は切れてしまうが、エクイティ・ファイナンスは、株式=会社そのものの権利を切り売りするもので、いわば株主は会社の一部とも言える。そのため、エクイティ・ファイナンスにはまわりの人や会社を巻き込んでいく力があり、これが企業として成長するためのインセンティブになっている。

 デメリットとして、異物を取り込むとビジネスへの悪影響を及ぼす危険があること、原則として後戻りができないので、安易な増資は危険を伴う。シリコンバレーに比べて経験値の少ない日本でエクイティ・ファイナンスに取り組む場合、創業時からの資本政策が極めて大切だ。

日本のスタートアップ生態系の変化

 日本におけるベンチャー投資はここ数年伸びてきているが、それでも米国との差はまだ大きい。とくにシード・アーリー期の投資は、エンジェルの力が大きいが、米国は数兆円のエンジェル投資があるのに対して、日本では数十億円規模に留まっている。エンジェル投資家の多くは元ベンチャーの経営者であり、つまり成功したスタートアップが排出されなければ、エンジェルも増えない、というのがスタートアップエコシステムの原理だ。

 生態系の変化には時間はかかるが、ここ10年で確実に日本のスタートアップへの投資環境は変化している。2012年の統計によると、国内の1億円以上のエクイティ・ファイナンスはわずか5件ほどしかなかったが、2017年には10億円以上の投資が50件に増えている。この間に、メルカリなどのユニコーンが生まれ、トップ企業には5年で100倍規模のお金が流れ込むようになった。

 米国のスタートアップのEXITはM&Aが95%を占めるが、1980年代は米国でもIPOが主流であり、現在のスタートアップエコシステムが構築されるまで30年ほどかかっている。

 また独立系VCが多数派であるのも米国の特徴だが、日本も徐々にその傾向が現れており、近年はシード・アーリー期へ投資するVCが少しずつ生まれてきてはいる。ただし、その創業期への投資額は少額であり、資金力の少なさがスピードを阻害している。

 これまで日本のVCは個人や事業会社からの資金が中心で、機関投資家の巨額の資金はベンチャーに投資されてこなかった。日本ベンチャーキャピタル協会と機関投資家の勉強会が初開催されたのも、わずか一昨年前のこと。しかし最近では、日本のVCの国際的にも高いパフォーマンスが海外の機関投資家からも注目され、100億円超のファンドも次々に生まれるようになってきている。

IPOファイナンスのトレンド

 最近のトレンドとしては、メルカリやFreee、プレイドがグローバルオファリングを活用したIPOで、目の超えた海外機関投資家から資金を調達している。フェムトパートナーズの出資するプレイド株式会社の上場では、オファリングの77%を海外の機関投資家が持つことになった。これは、これまでの上場時の短期的な利ざやを狙った個人の投資家中心から、上場後の長期的な企業成長を見据えた世界の有名な機関投資家からの支援が得られる時代になっていることを意味する。

 日本のVCは世界から高い評価を得つつあり、IPOのトレンドも変わってきている。今後はますます大きなスタートアップ生態系の変化が待ち受けており、これまでの常識とはかけ離れた大きなチャンスが広がっているので、思い切ったビジョンにチャレンジして、そのために必要な資金調達に耐えられる資本政策に留意してほしい、とまとめた。

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