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最新ユーザー事例探求 第55回

予算や決算のデータと事業内容の情報を一元化、市民や民間事業者にもわかりやすく共有する取り組み

国も注目する柏崎市「デジタル予算書」、行政を中から変えるDXの先行事例

2021年03月02日 08時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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BIツールの「MotionBoard」でさまざまな行政情報を可視化

 システムの検討は2018年にスタートした。システム開発会社のオプテージと柏崎市が、デジタル予算書にふさわしいシステムについて検討を重ね、データを可視化する基盤としてウイングアーク1stの「MotionBoard」を採用することに決めた。オプテージでは、MotionBoardを使った行政情報の可視化でさまざまな実績を持つ。

開発プロジェクトでは、オプテージがコンサルティングと設計を、ウイングアーク1stが製品提供と開発を担当

 ウイングアーク1stで公共部門を担当する宮尾敏郎氏は、「行政の予算は、事業の明細の集合体という意味合いのデータです。MotionBoardはその明細のデータを集めて一覧にしたり、チャートにして表現することを得意とするBIプラットフォームです。その点で、行政の予算書とは相性がいいと思いました」と話す。

ウイングアーク1st Data Empowerment事業部 Enterprise統括部 公共企画営業部の宮尾敏郎氏

 実際の開発経緯について、柏崎市財務部 財政管理課 財政係主査の板谷大良氏は次のように説明する。

 「まずは平成30年(2018年)秋に、MotionBoardを使ったトライアルのシステムを作り、庁内職員や議員に対してデモを行いました。市議の皆さんはすでに議会でiPadを使っていることもあって、高い評価をいただきました。重い紙の予算書を持ち歩かなくてもよくなるので、デジタル化された予算書がiPadで見られるというのは大歓迎だったのだと思います」(板谷氏)

 高評価が得られたことで、2019年度には導入計画をスタート。システム利活用の方法や、デジタル予算書で公開する情報収集のルールを決めていった。翌2020年度には開発を本格化させ、7~8月に要件定義を固め、職員に対する操作マニュアルも作成した。

 2020年10月からは、例年どおり2021年度の予算要求が始まったが、このタイミングで庁内各部署へのデジタル予算書公開と運用を開始。そして2021年2月には、市民に対する一般公開もスタートさせた。

紙資料のデジタル化にとどまらない「行政の情報共有プラットフォーム」目指す

 市の予算関連業務は(1)総合計画の策定、(2)予算化、(3)実施状況の評価という、大きく3つのプロセスで構成されている。従来は、この予算や決算の部分だけが静的なデータ(PDFファイル)として公開されており、前後の計画の策定と評価は市役所内部の業務として行われていた。

 「単に事業のタイトルと金額だけを示しても、何のことかわかりません。計画の情報から、何をする事業なのか、その実施結果がどうなったのかを示すことが必要だと思いました」(若月氏)

 ただし、もともと市役所内でも予算と決算、実施状況の評価はすべてバラバラに管理されており、統合されていないという問題もあった。財政データは財務会計システムに記録されているが、事業計画や実施後の評価については各部署がWordやExcelのドキュメントとして保存しており、その書き方もバラバラだったという。

 そこで今回は、これらの情報を統合/一元化することで、正確で迅速な行政運営を目指している。具体的には、新たに作った「行政情報統合データベース」に財政データと事業計画や評価のドキュメントを集めて、予算の金額と事業の内容/評価を一元的に管理している。既存の財務会計システムには手を加えずデータ連携を行い、事業計画や実施評価のコンテンツは、各担当部署が新システムに直接入力することにした。

各事業の予算や決算の情報と、事業の実施状況や実施後評価などの情報を一元化したデータベースを構築し、さまざまな視点から参照できる仕組みに

システムの全体像。財務会計システムと連携し、担当部門から情報追加が可能な「行政情報統合データベース」を構築し、MotionBoardで可視化している

 ただし、ここでは各担当部署に少なからず戸惑いも生まれたという。これまでの事業計画と評価の資料は、いわば庁内向けの「内部資料」として作成すればよかった。しかし、このデジタル予算書では「市民への説明資料」として、よりわかりやすい表現をする必要がある。

 特に大きな課題となったのが、写真やイラスト、地図情報など、ビジュアルな情報要素を追加しなければならないことだったという。これは、市民にわかりやすい“開かれた予算書”を実現するために、若月氏、板谷氏らの開発チームがルールとして決めたことだった。システムの開発が進み、各担当部署へ入力を依頼すると、どんな写真やイラストを入れればよいのかという質問が多く挙がった。

 「文章やビジュアルについては、これまで以上に“見せ方”を考えてもらう必要がありました。基本的に事業を示す情報としては写真が望ましいと思いましたが、どうしてもそれが難しい場合は、イメージイラストを入れることにしています。ビジュアル要素については、予算書の公開前に、庁内の広報部などを巻き込んで全件をチェックしました。最終的には市長の確認も経て、2月12日の公開にこぎ着けました」(若月氏)

 2月の公開時点では、2021年度の当初予算だけがシステムに登録されており、まだ各事業の進捗や評価といった情報は入っていない。年度が変わって事業が進むにつれて、そうした情報が順次データベースに登録され、デジタル予算書上で公開されていくことになる。これにより「予算の計画/実行/評価」をひととおり取り込んだデータベースが完成することになる。

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