MACユニットを高速に回すことに特化
さてそのEthos-Nシリーズの基本構成であるが、内部そのものは非常に単純である。Inference(推論)向けであり、かつ幅広い用途に使われることを考慮してか非常に簡単である。端的に言えばMACユニットをどれだけ高速に回すかしか考えていない。
扱うのもINT 8のみという割り切った構成である。ただし7nmプロセスで2.5mm2程度のダイサイズで、かつ3TOPS/Wをターゲットにするという、シンプルにしてぶん回すだけではやや難しい性能ターゲットとなっている。これを実現するためにEthos-Nシリーズは以下の4つの原則を掲げている。
- 固定スケジューリング
- 畳み込みの効率化
- 帯域削減
- プログラマビリティー/スケーラビリティー
まず固定スケジューリングだが、エリアサイズ削減(余分な回路を入れて回路規模を大きくしない)と消費電力削減のために、動的なスケジューリングはComputation Engine側で一切実行しない。
その一方で、疎行列で計算を省くといった工夫はない。このあたりは、そうしたメカニズムを入れることでむしろ機構が複雑化することを避けたのだと思われる。さらに固定スケジューリングでは、高速化してもあまり意味がないという話もある
次の「畳み込みの効率化」であるが、畳み込みはデータに重み(Weights)をかけて、その結果を合算する形になる。やっていることは単純だが、なにしろ扱うべきデータ量が多いし重みの数も非常に多く、結果外付けのDRAMに格納しておくことになる。
これは部品点数の点でも消費電力の点でも不利なため、内蔵のSRAMに、特に重みは圧縮して格納することで、畳み込みの計算の際に外部DRAMアクセスの必要を排除し、効果的に演算ができるようにしたというものだ。
ちなみに入力画像(IFMS:Input Feature Maps)が大きい場合、当然入力領域を分割して複数のCompute Engineで処理することになるが、畳み込みの計算の処理そのものは複数のCompute Engineはまたがない(それをやるとむしろオーバーヘッドが大きくなると判断したのだろう)。
ただ畳み込みの計算を終わらせて出力(OFMS:Output Feature Maps)を作成する際には、再び複数のCompute Engineの結果をまとめて処理する形になる。
帯域削減は上でも触れたが、外付けのDRAMを接続するとそれだけで消費電力が倍近くなる。
そこで内蔵SRAMを搭載することでDRAMの必要性を排除するわけだが、ただSRAMでも容量が大きくなれば消費電力はそれなりにかかるし、回路規模が大きくなるからエリアサイズ増大に直結してコストが上がることになる。
これを避けるためには、無駄な容量を使わないように工夫する必要がある。そこでSRAMへのWeightやFeature Mapの格納はすべて圧縮するようにした。もちろんこうなるとCompute Engineの側に圧縮/伸張エンジンが必要になるのだが、これによる消費電力増や回路規模増大を加味しても、SRAMの必要容量を減らせることのメリットの方が大きいと判断されたわけだ。
また、これはハードウェアというよりはソフトウェア側の話になるが、プルーニング(ネットワークそのものの圧縮)をすることでメモリーを削減している。
加えて言えば、SRAMベースであるからアクセス時間が正確に見積りできる。これを利用して、コンパイラの段階で各々の処理で必要となる帯域をきちんと見積って最適化を図ることで、帯域を削減できる余地があるとする。

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