0歳児と3歳児の保護者をしてます盛田諒ですこんにちは。3歳児は赤ちゃんのいる暮らしに慣れ、あいさつの厶ギューをするのが朝晩の習慣になりました。0歳児はやや迷惑そうな顔をしながら愛を受けとめています。がんばってくれ。
一方、3歳児は0歳児が来てからふとんでおしっこをしたり、あれやだこれやだと言うことも増えました。0歳児が好きな気持ちと、0歳児に親をとられて寂しい気持ちとで、感情の船がぐらぐらゆれているんじゃないかと思います。
そんなときやるのは3歳児の味方になること。ふとんでおしっこをしたら「おしっこ出たね」と淡々と着替えてシーツを替える。0歳児を叩いたりしたら「コラコラ〜!」と言いながらぎゅうぎゅう抱きしめるなどやっています。
これは今に始まったものではなく、3歳児が生まれたときから同じことですね。味方になること、見守ること、それだけ意識して、あとは好きにさせています。
高山なおみさんの「十八番リレー」に、チキンソテーを作るコツは「勇気をもってほうっておく」こととありますが、それと同じです。フライパンからの音を聞きながら、たまに様子を見てやれば、もも肉はジューシーに仕上がり、子どもはまっすぐ育ってくれるものと信じています。
たとえばお手伝い。「グラスをもってくる」「牛乳をコップに注ぐ」「みかんの皮をむく」など自分がやると言ったことをやってもらい、食器を割りそうでも見守ります。今では牛乳をこぼさずコップに注げるようになり、食器は家族のぶんも(たまに)食器棚から出してくれるようになりました。
遊びの種類も増えました。危なっかしいな〜と思いながら見守っているうち、「調理道具でピタゴラ装置らしき何かを作る」「ビニールがさのテントでキャンプをする」「テーブルに毛布をかぶせて『秘密の小屋』にする」など想像もつかないアイデアを次々見せてくれるようになりました。
●勇気をもってほうっておく
チキンソテー型の子育てをやっているため、いまだにうちの中で「それはだめ」と叱ることは少ないです。
特に「外で同じことをしたら迷惑だから」というのはほぼありません。子どもの性格もあると思いますが、むしろ外でできないから家でやっているということが多いんじゃないかと思います。
たとえばおもちゃをちらかしっぱなしにしたり、食べものを手づかみしたり、ものをポイッと投げ出したり。しかし外にあたる保育園で、子どもはおもちゃの片づけをしていて、おはしもがんばって使うといいます。みんなの靴を玄関にそろえるなど気づかいもしていたり。反面おもちゃの取り合いになるといつも取られる立場になってしまうといい、なかなか気苦労も多そうです。
家でやっていることは、外でうまくできなかったことの裏返し。そう思うとむしろ「社会に出るって大変だよね……」という同情がわいてくるものです。
そして冒頭に書いたように、自分にできることが増えると親と距離ができてさみしいという気持ちからいけないことをすることも多いんだろうと思います。
親側も、子どもにできることが増えるたび「もうおむつを替えられない」「もうごはんを食べさせられない」というさみしさを抱えるもので「大きくなるってさみしいよね……」とやっぱり同情がわいてきます。育児というのは子どもが親から離れるまでを見守ることなんじゃないかとも思えます。
子どもがいけないことをしているところを見かけると、大人は「それはだめ、あれやって」とつい口を出したくなるものです。そのほうが気もラクですが、子どもが自分の気持ちをおさえることをおぼえてしまうほうが、のちのち困ったことになるんじゃないかと個人的には思います。
●親にはどんどん迷惑かけて
ただ世間というのは私のようにルーズな人間ばかりではなく、特に東京では子どもが人に迷惑をかけないかを気にしている大人が多いようです。
ベネッセが2005年に実施した調査によれば、子どもの将来に対して期待することとして「他人に迷惑をかけない人」と回答した東京の親は全体の7割超。アジア諸国の中ではずばぬけています。子育てで力を入れていることは「他者への思いやりを持つこと」が選ばれていますが、「他人に迷惑をかけない人」と直線で結ばれているようにも見えます。
このごろはウイルスのこともあって、「迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーはさらに大きくなっています。マナーや感染予防にとってはいい傾向ですが「迷惑だからやらないこと」をいたずらに増やしてしまうと、大人も子どもも気持ちをあらわす方法を忘れてしまいそうな気もします。特に、バカなことをしても許される場所というのはどんどん減っているような気がします。
たしかに人に迷惑をかけてほしくはないですが、迷惑をかけないことばかり考えるのもしんどいです。せめて家の中ではどんどん迷惑をかけてもらいたい、バカなこともどんどんしてほしいと思います。子どもが親に迷惑をかけるのは信頼してくれているからだと思えば悪い気もしません。
先日読んだ「暮しの手帖」の最新号には、「迷惑かけてもいいじゃない」という記事が載っていました。横浜にある自主幼稚園「りんごの木」主宰者・柴田愛子さんのインタビュー記事で、柴田さんは大人も子どもも「迷惑をかけ合える関係をどれだけつくっていけるかが、生きやすさにつながっていくと思うんです」と話していました。
たとえば幼稚園の親たちが集まったとき「こんな場で話してはいけないんじゃないか」と気持ちをおさえずにつらいことを話すことで、他の人たちの声が聞こえるようになるということです。個人的に子育ての悩みを誰かに話すときは大抵「バカみたいな話なんですけど」と切り出すんですが、そういうバカみたいなことを言える場所が、大人も子どもも大切なんだろうなと思いました。
●子育てとチキンソテー
長々書いてしまいましたが、これはしょせん育児日記、客観的な指標のないただの偏見です。私が言ってること、やってることが正しいわけではなく、子どもをどう注意したものかというのも日々悩みます。子どもが百人いれば百通りの正しさと間違いがあるわけで、誰かの参考になるとも思えませんが、子どもと鳥もも肉を同列に並べるやつもいるんだなあと思うと、自分の子育ては大丈夫だろうと安心できるのではないでしょうか。子どもの将来に期待することとしては、うまみがぎゅっと閉じ込められたチキンソテーのような人になってほしいと願う今日このごろです。
参考文献
高山なおみ「十八番リレー」(NHK出版)
「暮しの手帖 2021年2月-3月号」(暮しの手帖社)
田中茂樹「子どもを信じること」(さいはて社)
幼児の生活アンケート・東アジア5都市調査2005 報告書(ベネッセ)
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。3歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。
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