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地方でも成長を続けるカギはコミュニティを通じた学びとつながり

コミュニティから多くのものを取り入れ続ける影浦さんの生き方に学ぶ

2021年01月22日 07時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 地方コミュニティは、熱意ある人に支えられている。これは地方で勉強会に参加する人ならみんな肌で感じていることだろう。JAWS-UG愛媛立ち上げからのメンバーである影浦義丈さんも、熱意を持ってコミュニティを支えるひとりだ。「コミュニティ活動から振り返る自分の働き方の変化」というセッションで、10年以上にわたる勉強会やコミュニティとの関わりを振り返った。そこからは、地方にいながら新しい物を取り入れ続けた歴史を垣間見ることができた。

2009年、セキュリティみかんをきっかけにコミュニティに関わり始める

 影浦さんは愛媛県にある株式会社HBソフトスタジオの代表取締役であるとともに、岐阜県にあるマンゴシード株式会社で取締役CTOを務めるマルチワーカーだ。いまは半分愛媛、半分岐阜で過ごす生活だという。マルチワーカーであるとともに、マルチコミュニティプレイヤーでもある。サイバーセキュリティシンポジウム道後、Agile459、JAWS-UG愛媛、JAWS-UG岐阜、JAWS-UG徳島、四国クラウドお遍路実行委員会、さくらクラブ愛媛、TwilioJP愛媛、kintone café 愛媛、SORACOM UG Shikoku、JP_Stripesと、参加しているコミュニティを列挙するだけで原稿を数行稼げるほど。しかもその多くにコアメンバーとして関わっている。

「いろいろなコミュニティに関わらせていただいています。その結果、別のコミュニティに行っても『またお前か』という状況になっています」(影浦さん)

 これは「地方勉強会あるある」だ。筆者も地方の勉強会を取材していて「あら、こちらでも」ということがよくある。コミュニティ活動に理解があり、積極的に支えていこうという人の母数が少ないのでしかたない。とはいえ、影浦さんほど多くのコミュニティに属して積極的に活動している人はさすがに少ないのではないだろうか。そんな影浦さんとコミュニティとの出会いは、2009年に遡る。当時は愛媛にコミュニティがなく、勉強会を開催している他の地方のことを「いいなあ」と思いながら見ていたというので、その頃からコミュニティ活動への興味、意欲はあったということだろう。

「2009年、地元のメーリングリストで勉強会を主催してくれる人を探しているという話が流れてきて、これだ!と思い手を挙げました。それからしばらく、セキュリティみかん(正式名称:愛媛情報セキュリティ勉強会)の運営に携わりました。ガチガチのセキュリティ勉強会で自分では登壇できず、東京などから人を呼んで話をしてもらっていました」(影浦さん)

 メーリングリストって懐かしい! TwitterやFacebookの日本語対応が2008年なので、2009年はまだmixiかブログ、メーリングリストが人と繋がる場だった。そんなことを懐かしむような時代からコミュニティ活動に傾倒していたのだから、影浦さんは生粋のコミュニティ好きと言って過言ではないだろう。

Agile459を皮切りに次々とコミュニティに参加、JAWS-UG愛媛立ち上げへ

 コミュニティとのつきあい方を変える転機となったのは、Agile459への参加だった。それまでは言葉としてしかわからなかったアジャイルに触れることができ、これからの開発スタイルはこうあるべきだと大きな衝撃を受けたという。2012年のことだった。

「さっそくアジャイルを会社に持ち込みました。HBソフトスタジオは自分の会社なので、やろうと言い出せばやれます。もっとも社員から見れば、社長がどこかで話を聞いてきて、突然『これからはアジャイルだ』と言い出したのですから、迷惑だったでしょうね(笑)」(影浦さん)

 迷惑だったかもしれないが、地方にいながら新しいスタイルを取り入れて働ける場所というのは、それはそれで羨ましいものだ。そしてその後、コミュニティ活動を通じていろいろな人、いろいろな働き方に出会う中で、影浦さんはリモートワークを知った。

「さっそくリモートワークを会社に持ち込みました。これからはリモートワークだ、と。会社としてリモートワークを取り入れるにはどうすればいいのか、そこからのスタートでした」(影浦さん)

 うん。やっぱり迷惑かもしれないよ社長。でも働き方の選択肢が広がったのは、今年の惨状を見ていればいいことだとしか思えない。リモートワークをするためにどうすればいいかを早くから考えて対策していたのは、結果的にはプラスになったことだろう。

 そしていよいよ。2013年に影浦さんはJAWS-UGに本格的に関わり始める。AWSには前年から触れていたが、当時四国には徳島県と高知県にしか支部がなかった。空白地帯である愛媛県とうどん県でも支部を立ち上げようという話になり、当時無職だった沖さんとともに2014年2月、JAWS-UG愛媛を立ち上げたとのこと。

 あれ、さらりと語られたけど、こんな昔からうどん県って名乗っていたんだっけ。と調べてみたら、香川県観光協会が「香川県はうどん県に改名しました」と宣言したのは2011年とのこと。へえ……と、脱線してしまった。影浦さんの歴史だけではなく、付随して色々な歴史を振り返ってしまう。とにもかくにも影浦さんはこうしてAWSにハマっていき……あ、もう次の展開は見えた。

「会社にクラウドを持ち込みました。これからは、クラウドだ!」(影浦さん)

 やっぱり、そうなる(笑)。しかしこの施策が大ハマり。元々サーバー側の仕事を多く取り扱っていたこともあり、HBソフトスタジオとクラウドとの親和性は高かった。結果的に、中四国で最初のAWSコンサルティングパートナーに認定されることになる。

 その後、2018年にマンゴシードの社長から仕事を手伝って欲しいと言われ、マルチワーカーに。このときも片岡 幸人さんというマルチワーカーの先輩がJAWS-UG高知にいたので、一歩踏み出すことができたという。週の半分を岐阜で過ごすので、強制的にリモートワーカーにもなった。さらに2020年には新型コロナウイルスの爆発的感染という状況からHBソフトスタジオはフルリモートワークに移行している。

地方コミュニティの価値は、小さな事例と、人とのつながりにある

 ここまで見てきてわかる通り、影浦さんは勉強会でインプットし、実際の業務に取り入れ、勉強会でアウトプットというサイクルを回してきた。勉強会で得たもの、知った知識を業務現場に落とし込み、その体験をまた勉強会でアウトプットすることで人とのつながりを広げてきた。

「コミュニティに影響を受けたどころではありません。勉強会・コミュニティドリブンで会社が動いていました。コミュニティに参加していなければマルチワークなんてしていなかったし、勉強会に参加していなければ今の自分も会社もなかったでしょう」(影浦さん)

 それだけ大きな影響を受けてきた影浦さんが、セッション最後にコミュニティに参加する理由を2つにまとめてくれた。1つめは、事例を聞けるということ。それも地方での事例を聞けることだ。

 「大きな事例はニュースで見ることができますが、規模感などが違い、簡単に自分ごとに置き換えられません。その点、地方コミュニティで聞く事例は、自分たちの身近な話に落とし込めます」(影浦さん)

 これはメディア側にも責任がある話だが、目立つ話題、大きな話題を優先的に取り上げる傾向にあり、地方での小さな成果を取り上げるのは難しい。筆者はできるだけ地方の小さな勉強会やその成果を取材したいと思っているが、首都圏の話題の方が取材しやすく話題にもなりやすいというのは否めない。

 2つめに挙げたのは、人とのつながりをつくれること。しかしこの点に関しては、コロナ渦の2020年は危機的だという。物理的に集まることが難しく、オンライン勉強会が増えたことが大きく影響している。地元の人が登壇している、小規模ながら実際に集まれるという点が、地方コミュニティの魅力だった。身近な事例を地元で共有することで、興味を持った人とつながっていける。オンライン勉強会が主流になると、都会の勉強会にも参加できるようになるので、地方勉強会に遠くから人を招いて話をしてもらう意義さえも薄れてしまう。しかしクラウドお遍路2020で、新しい勉強会スタイルの模索は既に始まっている。

「今回のクラウドお遍路のようにサテライト会場を用意するなど、これからも人とのつながりを大切にしながら、コミュニティ活動をがんばっていきたいと思います」(影浦さん)

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