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KDDIが2030年の生活を見据えた応用研究拠点「KDDI research atelier」を公開

2020年12月18日 09時00分更新

文● 佐野正弘 編集●ASCII

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ニューノーマル時代に向けて
新たな価値観を提案する「KDDI research atelier」

 KDDIとKDDI総合研究所は12月17日、2030年を見据えた新たなライフスタイルを提案する調査・応用研究の拠点として、「KDDI research atelier」を設立したことを発表。同日にはその説明会が実施され、KDDI research atelier内で進められている実証実験の内容などが披露された。

KDDIが東京・虎ノ門に開設した「KDDI research atelier」は、2030年を見据えた応用研究の拠点となる

 KDDIの研究拠点となるKDDI総合研究所は、前身の1つである国際電信電話(KDD)が1953年に発足した研究部から続くものであり、現在は埼玉県ふじみ野市に拠点を構え、先端技術や基礎技術などの研究に取り組んでいるという。だが同研究所の代表取締役所長である中村 元氏によると、これまで同研究所の研究成果を活用するという点には課題があったとのこと。

 そこでKDDI研究所の技術に加えてパートナー企業などの技術などを活用しながら、デザインやコミュニケーションなどさまざまな要素を融合して新しいライフスタイルを提案する場として設立されたのがKDDI research atelierになるという。

 またKDDIの代表取締役社長である高橋 誠氏はビデオメッセージで、KDDI research atelierがKDDIの打ち出す次世代の未来構想「KDDI Accelerate 5.0」を推進して社会や生活の中長期的な課題を解消する場であると話している。KDDI Accelerate 5.0とはニューノーマル時代に向け、日本政府が提唱しているフィジカル空間とサイバー空間を融合指させる「Society 5.0」の実現を加速させる、KDDIの取り組みを示すものだ。

ビデオメッセージで登場したKDDIの高橋社長。KDDI research atelierは同社が掲げる「KDDI Accelerate 5.0」の実現に向けた取り組みになるという

 その実現のため、KDDIでは5Gを中心とした7つのテクノロジーに注力した取り組みを進めている。KDDIの執行役員 技術統括本部技術企画副本部長である前田大輔氏によると、このうちIoTなどを活用し、フィジカル空間からサイバー空間にデータを収集する取り組みは4G時代から進んでおり、サイバー空間のデータからAIなどを活用して予測し、フィジカル空間に成果を反映する取り組みはまだこれからの分野になるという。

 またKDDIとしても、5Gのネットワークだけを整備してもSociety 5.0は実現できない考えており、その上で提供される「プラットフォーム」「ビジネス」などレイヤーの環境整備も大切だと前田氏は説明。中でもビジネスレイヤーに関して、KDDIはこれまで東京・虎ノ門に「KDDI DIGITAL GATE」を設立したり、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進する法人部門を移したりして拡大を進めてきたが、今回そこにKDDI research atelierが加わることで、3拠点を連携したオープンイノベーションを進めていきたいとしている。

KDDIは東京・虎ノ門に「KDDI DIGITAL GATE」と法人部門の拠点を構えており、KDDI research atelierの開設で3つの拠点を活用したビジネス開発の強化を図るとしている

 KDDI総合研究所の取締役 執行役員副所長 兼 KDDI research atelierセンター長である木村寛明氏は、KDDI research atelierの内容と取り組みについて説明。KDDI研究所には約300名が所属しており、そのうち約80名弱がKDDI research atelierに勤務し、beyond 5Gや6Gの時代を見据えた2030年に向け、中長期的課題解決に向けた取り組みを進めることになるという。

 その実現のためKDDI research atelierでは、まず既に先進的な生活をしている人からヒアリングをすることで課題やニーズを抽出。続いてそれを基にライフスタイルの仮説を立てて議論をし、KDDI Accelerate 5.0で掲げる7つのテクノロジーを活用してそれを実現する手段を実際に検証し、結果を共有していきたいとしている。

KDDI research atelierの具体的な取り組み。先進的な生活をしている人からの聞き取りで課題を抽出し、それを基に仮説を立てて7つのテクノロジーによる実現手段を検証していくという

 またKDDI research atelierでは、既に9つのライフスタイルの仮説を立てており、その実現手段を検証して議論を進めているとのこと。その事例の1つとなる「購買の変化」を挙げると、KDDI総合研究所のアンケートから家の中を整理したいというニーズがある一方、ロボットによる配送を利用したいというニーズも高いことから、ロボット配達で家の整理から解放されるという、新たな購買スタイルの可能性を抽出したという。

 それを受けてKDDI research atelierでは小型のコンビニエンスストアを作り、遠隔制御ロボットでそこから商品をピックアップし、宅配ロボットで配達するという技術検証を実施。それを社員に試してもらうことで受け入れられるかを検証することで、2030年にロボットによる配送が当たり前となる社会基盤の構築を目指したいとしている。

「購買の変化」の検証事例。被験者が自宅から、スマートフォンでコンビニエンスストアの画面を見て、欲しい商品を注文する

するとコンビニエンスストアの遠隔操作ロボット(右)が店内の商品をピックアップし、配送用のロボット(左)に乗せて被験者まで届けてくれる

ちなみにこちらは遠隔操作ロボットを操作している様子

 またPREVENT社と連携して実施している「健康作りの変化」をテーマとした検証では、たとえば塩分量を測定するのに尿を取る必要があるなどサービス利用者にかかる負担がいくつかあることから、食卓にカメラを設置して食事から塩分を自動解析するなど、ICT技術を活用してコストを抑えながら負担を減らす実証を進めているという。

「健康作りの変化」では、天井に取り付けたカメラの映像から食卓の食事を解析し、塩分量を自動で測定する仕組みなどを検証

 「趣味や遊び方の変化」のテーマでは、例えば自宅にいながらゴルフのスキル上達ができる仕組みを実現するため、AIによるコーチングや自由視点映像によるフォームの確認などを実施。それに加えて自宅内でも安心して利用できるよう、元映像をプライバシーに配慮した形に加工した上でクラウドに送信する技術の活用なども進めているとのことだ。

「趣味や遊び方の変化」の検証では、ゴルフを事例に映像によるコーチングや自由視点映像によるフォーム確認などを実施

 さらに「働き方の変化」のテーマでは、1人でもグローバルに活躍できるという新しい働き方の実現のため、ジョブマッチングの仕組みや、遠隔でもクリエイティブな作業ができるよう「音のVR」技術を用いた場を共有できる環境の提案、そして自分とは違った生活をする人をフィールドワークで調査するエスノグラフィの活用などによる検証なども実施しているという。

「働き方の変化」では、KDDI総合研究所が持つ「音のVR」の技術を使い、映像中の会議中の人にフォーカスすることで、その人の声だけにフォーカスした聞き取りが可能になる実証実験などを実施

 木村氏はそれら具体的な取り組みだけでなく、KDDI research atelierの今後の活動方針についても言及している。その1つとなるのは、さまざまな制約から解き放たれたいと考えている先進的な生活者と連携し、共同で調査や研究、そして研究拠点だけでなく実際のフィールド上での実証などに取り組むことだという。

 またもう1つ、客観性のある意見を取り入れるため、社外からプロデューサーを呼んでプロジェクトを進めたいとの方針も示している。そのプロデューサーの1人として東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授の森川博之氏が就任するとのことで、森川氏は「10年後には5Gを通して制約がなくなり、ステークスホルダーが増え、顧客にサービスする時新たな価値を作り出す」とし、KDDI research atelierが新しい価値を生み出すドライバーとなってほしいと話していた。

KDDI research atelierの社外プロデューサーの1人となる東京大学の森川教授。「ラボ」や「研究所」ではなく、「アトリエ」と名付けたことが、ステークスホルダーをつないで価値を作る思いを反映しているとして評価していた

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