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クラウドネイティブなアーキテクチャで実現した柔軟なスケーラビリティ

DWHから“データクラウド”へ、日本に本格進出するSnowflakeの特徴

2020年12月09日 07時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 クラウドデータプラットフォームを提供するSnowflake(スノーフレイク)は2020年11月25日、国内報道陣を対象にしたメディアラウンドテーブルを開催し、日本市場における戦略を明らかにした。

 同社 最高売上責任者のクリス・デグナン氏は、「日本では2019年9月から事業を展開してきたが、この1年間で30社を超える顧客に導入していただいた。今後も日本企業がオンプレミスからクラウドへと移行するトランスフォーメーションを我々のデータクラウドで支援していきたい」と語り、日本市場へのコミットをより深めていく姿勢を強調した。

Snowflakeがクラウドで提供するデータ分析基盤。リリース当初はクラウドネイティブなデータウェアハウスサービスだったが、現在はサービスの適用範囲を拡大し「データクラウド」を名乗る

Snowflake 最高売上責任者のクリス・デグナン(Chris Degnan)氏、日本法人 カントリーマネージャーの東條英俊氏

急成長の理由は“DWHにおけるクラウドネイティブなスケーラビリティ”

 Snowflakeは2012年、Oracle出身の創業者たちが米国で立ち上げた会社だ。当初はAWSクラウド上にDWHを構築し、マネージドサービスとして提供する“Dataware-as-a-Service”としてスタートした。約3年に渡る約3年に渡る資金調達と開発期間を経て2015年から一般向けにサービス提供を開始、それ以後は完全にクラウドネイティブなデータプラットフォームとして成長を続け、2017年には欧州、つづけてオーストラリアとグローバル展開を果たした。

 日本法人は2019年9月に設立し、カントリーマネージャーには米Microsoft出身の東條英俊氏が就任している。また、創業当初はAWSのみのサポートだったが、現在はMicrosoft Azure、Google Cloudにも対応している。

 今年9月にはニューヨーク証券取引所にIPOを果たし、上場初日に株価が2倍(120ドル右254ドル)に急伸。時価総額が700億ドル(約7兆3500億円)を超え、ソフトウェア企業のIPOとしては過去最大の取引高を記録したニュースは記憶に新しい。グローバルで2000人超の従業員と3000社超の顧客を抱える。

Snowflakeのこれまで。2020年9月のIPOではソフトウェア企業としては史上最高となる取引高を記録し、現在の時価総額は770億ドルを超えると言われている

 創業8年目にしてこれほどの急成長を果たした最大の要因には、DWHという“オンプレミス”と“レガシー”のイメージが強いデータストア技術を、スケーラブルで柔軟性の高いクラウドネイティブのマネージドサービスへと生まれ変わらせた技術力が挙げられる。

 前述したようにSnowflakeはもともとAWS上で構築されたデータウェアハウスからスタートしている。同社のアーキテクチャは「ストレージ」「マルチクラスタコンピュート」「クラウドサービス」の3層で構成されているが、AWSクラウドを前提としているので、最初からこの3層がそれぞれ独立してスケーリングできる点が大きな特徴となっている。

Snowflakeの基本的なアーキテクチャ構成。1つの共有ストレージ(Amazon S3など)に複数の仮想ウェアハウスが並列にアクセス、処理を実行する。また、マネジメントやセキュリティの提供はサービスレイヤが担当する。これらのレイヤがすべて独立してスケーリングするのが最大の特徴だ

 ストレージには「Amazon S3」などのオブジェクトストレージ(クラウドストレージ)を使用し、共有データリポジトリとしてクエリに関連するデータ/データベースが保存される。オブジェクトストレージをベースとしているので、たとえばテンポラリデータのサイズが大きくなったとしてもメモリ不足や容量不足に陥ることがない。また、リレーショナルデータ(構造化データ)だけでなく、JSONやXMLなどの半構造化データ、さらにテックプレビューではあるがPDFや画像、音声などの非構造化データもサポートする。

 そして、Snowflake最大の差別化要因ともいえるのが、コンピューティングレイヤでクエリ処理やDML操作を実行する「仮想ウェアハウス(Virtual Warehouses)」の存在である。

 仮想ウェアハウスは、Amazon EC2などクラウドベンダのコンピューティングリソースクラスタによって構成されており、いわばSnowflake用に抽象化されたリソースインスタンスの集合体といえる。1つの仮想化ウェアハウスは、1つのコンピューティングクラスタとして1つのクエリを実行する。個々の仮想化ウェアハウスはそれぞれ独立しており、実質上、無制限に仮想ウェアハウスを構築し、共有ストレージレイヤにアクセスすることが可能だ。

 こうした仕組みが“マルチクラスタ”コンピュートと呼ばれる理由で、仮想化ウェアハウス間でクエリが共有されることはなく、複数のクエリが並列で同時実行可能なので、パフォーマンスの劣化を抑えることができる。また、仮想ウェアハウスはEC2インスタンスのようにオンデマンドでの作成/破棄ができ、サイズの選択肢も多く、さらに実行するクエリがないときは停止状態(課金されない)にしておくことが可能だ。

 オンデマンドで実行/停止されるコンピューティングレイヤとは対象的に、サービスレイヤは常時稼働しており、ストレージ/コンピュートの管理やセキュリティサービスの提供、メタデータ管理など、プラットフォーム全体の運用/管理を担当する。

 このように、Snowflakeでは最初のリリースからクラウドネイティブなアーキテクチャを採用しているため、ストレージやコンピューティング(仮想ウェアハウス)のスケーリングには事実上、制限がない。また、AWSやGoogle Cloudをベースとしたマネージドサービスとして利用できるので、ユーザーの運用管理負荷は非常に小さいものとなる。ビジネスで扱うデータ量が劇的に増大している企業にとって、「無制限のスケール」と「運用負荷の軽減」を同時に実現するデータプラットフォームの魅力は大きい。

 カントリーマネージャーの東條氏は、「経営者がデータ活用に期待するポイントには、データにもとづくより正確で迅速な意思決定、増大するデータのコスト削減、データによる顧客体験の向上とそれによる商機拡大が挙げられる。Snowflakeのプラットフォームはそうした顧客のニーズに応えながら進化してきた」と語る。データ/データベースのサイズが肥大化するたびに、サーバ増強などバックエンドの拡張やチューニングをユーザ自身が行う必要はもうない――。それがSnowflake導入の最大のメリットだとしている。

現在の企業経営者がデータ活用に期待するポイント=迅速な意思決定、コスト削減、顧客体験の向上

ユーザー企業のインテージグループが採用の理由を語る

 Snowflakeの顧客には、Capital OneやAdobe、Akamai、Sonyなど巨大なデータをクラウド上で扱うエンタープライズが多く、業種業界も多岐に渡る。このことは、Snowflakeが多種多様なユースケースとデータタイプに対応していることを示している。日本企業では日産、サイバーエージェント、デンソーなどがSnowflakeを利用しており、加えてNTTデータやサーバーワークス、クラスメッド、ISIDなど、クラウド導入に強いサービスベンダがパートナー企業として名を連ねている。

07_Snowflakeの顧客はすでに3000社を超える。Capital OneやAdobe、Sonyなどビッグデータをビジネスの動力源とし、クラウドをネイティブに利用している企業が目立つ。日本国内では進出から1年で約30社が利用

 ラウンドテーブルにはSnowflake採用顧客の1社であるインテージテクノスフィア 代表取締役社長 饗庭忍氏が出席し、インテージグループにおけるSnowflakeの活用事例を紹介した。

インテージテクノスフィア 代表取締役社長の饗庭忍氏

 アジア最大のマーケティングリサーチ企業であるインテージグループ全体のITを支えるインテージテクノスフィアでは、リサーチシステムのコアエンジンにSnowflakeを採用している。饗庭氏はその理由を次のように語り、現在はSnowflakeをコアにしたパネル分析データシステムの2012年運用開始に向けて準備しているところだと紹介した。

 「さまざまなデータプラットフォームを検討したが、当社のリサーチシステムが要求するデータの粒度やボリューム、複雑な分析、パフォーマンスといった課題にもっとも最適な解を提供したのがSnowflakeだった。他社と比較して、高いパフォーマンスやコストが3分の2以下であること、システム管理工数が大幅削減できて既存クラウドとシームレスに接続できる点も大きなポイントだ」(饗場氏)

インテージがSnowflakeを選んだ理由。膨大なマーケティングデータの高速処理と分析を行うプラットフォームとしてSnowflakeが最適だったとしている

 Snowflakeは日本市場における取り組みとして、すでに日本語による情報発信や日本語ユーザインタフェース/ドキュメントの整備、国内コミュニティ(Snowvillage)の立ち上げなどに着手している。さらに今後は、技術者トレーニングクラスや日本語によるテクニカルサポートなどにも取り組む予定だと述べた。パブリッククラウドへとデータが急速に集約されていくトレンドにおいて、クラウドネイティブなスケーリングとマネージドサービスによる容易な運用を謳うSnowflakeのサービスが、レガシーがまだ多く残る日本市場でどうシェアを拡大していくかが注目される。

Snowflakeの日本における取り組み。日本語テクニカルサポートは2021年の始動をめざす

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