消費電力、特にコア数とのベストマッチを考える
締めくくりは消費電力だが、まずはシンプルにシステム全体の消費電力を見ておこう。ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を用い、システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、「Prime95」のSmallFFT実行中の最大値を“SmallFFT時”として記録した。
第10世代Coreプロセッサーのうち上位2モデルについては高負荷時の値が2つあるが、高い方はPower Limitのギリギリまでブーストをかけるインテル製CPU特有の仕様によるもので、SmallFFT開始直後から1分程度しか持続しない。それを超えると“SmallFFT時(安定)”の値へと遷移する。こうしてみるとRyzen 5 3600XTと5600Xを除けば、高負荷時はおおよそ200~220Wあたりに収束している。
ここで興味深いのがコア数の多いRyzen 9 5950Xよりも、コア数の少ないRyzen 7 5800Xの方が消費電力が大きいことだが、さらにコア数の少ないRyzen 5 5600Xになると消費電力が一気に減る。これはなぜだろうか?
そこでRyzen 9 5950Xに対して、Prime95のSmallFFTをスレッド数指定で動かした時にRyzenのクロックや内部の電力関係のパラメーターがどう変化するかを試してみた。SmallFFT実行時に「2」と指定すれば2スレッドの負荷がかかるが、今のRyzen環境の場合、2スレッドがちゃんと別個の物理コアに振り分けられる。アクティブコアの数や稼働状況で絞り出されるパワーが違うならば、これで十分観測できるというわけだ。
負荷のかかり具合については「Ryzen Master」を使い、PPTやCPU Core Powerの値については「HWiNFO」を利用した。
SmallFFT中は刻々と数値が変わるため、目測でおおよその安定値を拾ったのが上のグラフだ。まずアクティブコア数が1コアから8コアまでは、コア数を増やすごとに消費電力が増えていく。だが8コア→10コアは消費電力は横ばい、12コア以降はむしろ下がる。パワーリミット(PPTおよびCPU Core Power)は8コアでほぼ天井になるのは良いとして、なぜアクティブコア数が12を超えるとパワーリミットが逆に減るのだろうか?
その答えはRyzenのTDC(Thermal Design Current)とEDC(Electrical Design Current)の“余裕”にある。次のグラフは、先のPPTやCPU Core Powerと同様に、アクティブコア数に対するTDCやEDCの“利用率”を示したものだ。Ryzen 9 5950XのTDCは95A、EDCは140Aとスケールが微妙に違うため、実測値ではなくパーセンテージで比較する。
これで分かる通り、TDCはアクティブコア数が増えるに従い徐々に増えていくが、TDCは8コアアクティブでほぼ目一杯まで枠を使い切る。10コアで完全に熱的な余力がなくなるが、これ以上アクティブコア数を増やすには各コアの仕事量(=クロック)を下げて余力を作るしかない。アクティブコア数が10コアより増えるとPPTが下がるのはこのためだ。CINEBENCH R20でRyzen 9 5950Xの伸びが悪いのも、こうしたTDC/EDCの制約に引っかかって強制的にクロックを下げられてしまうためだ。

この連載の記事
-
第464回
デジタル
Radeon RX 9070シリーズの仕上がりは想像以上だったことがゲームベンチでわかった -
第463回
デジタル
Ryzen 9 9950X3Dは順当進化。3D V-Cache搭載Ryzenの最強モデルだがクセありな部分はそのまま -
第462回
デジタル
RTX 5070の足を止めた「Radeon RX 9070 XT/ 9070」レビュー -
第461回
自作PC
新たな鉄板M.2 SSD筆頭候補確実! 約2年半ぶりに登場したWD_BLACK SN7100がスゴい! -
第460回
自作PC
Arc B570でもRTX 4060/RX 7600は超えられるのか? ゲーム10本で検証 -
第459回
自作PC
Arc B570が4万円台半ばで発売、性能はRTX 4060やRX 7600対抗の本命か【速報検証】 -
第458回
自作PC
Arc B580のRTX 4060/RX 7600超えは概ね本当、11本のゲームで検証してわかった予想以上の出来 -
第457回
自作PC
インテル新GPU、Arc B580の実力は?AI&動画エンコードは前世代より超強力に -
第456回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」は高画質設定でも最強ゲーミングCPUであることに間違いはなかった -
第455回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」が最強ゲーミングCPUであることを証明する -
第454回
デジタル
性能が最大50%引き上げられたSamsung製SSD「990 EVO Plus」は良コスパSSDの新星だ - この連載の一覧へ