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面と向かって言いにくければLINEで話し合えばいい

カップルの対話をうながすサービス「ふたり会議」に込められた想い

2020年10月14日 11時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ 写真●曽根田元

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 読者の皆はパートナーとしっかり対話できているだろうか? そんな考えから生まれたカップル向け対話サービスが、「ふたり会議」だ。ユーザーインターフェイスはLINE、バックエンドにはBtoCサービスとしては珍しくkintoneが使われている。ふたり会議をリリースした株式会社すきだよの代表のあつた ゆかさんにサービスの概要とコンセプト、システム開発を手がけたジョイゾーの星野智久さんにkintoneでのWebサービス開発を聞いた。

すきだよ代表のあつたゆかさん

すべてのカップルがずっと仲良くいられるために生まれた「ふたり会議」

 「夫のことが大好きで、ずっと仲良くしていたい」。ふたり会議は代表あつたさんのそんな想いからスタートしている。日本では年間60万組が結婚する一方で、20万組が離婚しているそうだ。その多くは価値観、人生観、性格の不一致だと言われる。しかしそれらがすべて一致するカップルなんているだろうか。あつたさんは、カップルがもっと対話を深めることで悲しい結末を避けられるのではないかと考えている。

「カップルの半数は、ふわっとした話しかできていないんです。結婚やこどもについて話し合うカップルは、3割くらいと言われています。結婚式の相談はするけれど、結婚後の性生活、子ども、仕事など将来についてきちんと話ができているカップルは多くありません」(あつたさん)

 こうした課題を解決すべく生まれたふたり会議は、LINEを通じて対話をうながすプラットフォームだ。LINEというインターフェイスとふたり会議というサービスを間に挟むことで、本音を言いやすくする効果を狙っている。

「家事や性、子どもなどのテンプレートから、話し合いたいトピックを選びます。お互いの収入をオープンにしたいか、子どもができたあとも仕事を続けたいかなど、設問に答えるだけでお互いの価値観が一致している部分、違っている部分が可視化されます。テンプレートづくりに当たってはTwitterを参考にしました。炎上した話題を参考にしたり、夫婦関係で悩んでいる方のなつぶやきを参考にしたり、1万人近いフォロワーさんにネタを出してもらったりしました。妊活や産後については専門知識を持つNPO法人に監修してもらっています」(あつたさん)

アプリは不要。LINE上で気軽に価値観を共有できる「ふたり会議」

 文字だと本音を言いやすいというのは、よく聞く話。筆者も妻と言い合いになると、しばらく時間をおいて意見を文字にまとめて仲直りのメッセージを送る。面と向かっては言いにくくても、文字にまとめる段階で自分の考えを整理できるし、対面だと言い合いになりそうなこともおちついて意見を書けるものだ。こんなことをここに曝露してしまったことも、あとで妻にメッセージで謝っておくことにする。

 もちろん、テンプレートにしたがって意見を出し合って、価値観が完全に一致することなんてめったにない。人というのはひとりひとりが違う性格、価値観を持っていて、違うから一緒にいて楽しいのだ。ふたり会議では話し合うことで、お互いが寄り添える答にたどりつくことをサポートしてくれる。

 たとえば結婚式をしたい、したくないで意見が分かれた場合、なぜ結婚式をしたくないのか、結婚式のどの部分がいやなのかを深堀りできる。

 大勢の人を集めて派手に祝いたくないということであれば、親族だけを集めた挙式や記念写真だけを残すフォトウェディングなどの選択肢を探ることができる。いかにもな披露宴の雰囲気が苦手なら、ガーデンウェディングや友人だけを集めたカジュアルなパーティでもいいかもしれない。いずれにしろ、お互いの意見を言い合うことでより良い選択肢が見つかるだろう。

価値観は違って当たり前 ふたりらしい答えを見つけることが重要

フロントはLINE、バックエンドはkintoneとAWSでスピード開発

 このふたり会議、最初はブラウザベースのWebサービスとしてリリースされた。そこでも多くの人に使ってもらえたが、継続性という課題が見えていた。診断系コンテンツのノリで気楽に使ってもらえる反面、ワンショットで終わってしまい、他の多くのことを話し合うところまで広がりにくかったという。

「ワンショットで終わってしまうというWeb版の課題を解決するためにスマートフォンアプリ化も考えました。でも、スマートフォンに同居できるアプリは有限ですし、新しいアプリをインストールしてもらうのはハードルが高いと考えました。それに比べてLINEはすでにインストールされていることが多く、プラットフォームとしてのポテンシャルがあると思っています」(あつたさん)

 独自にアプリを開発することにくらべて、既存プラットフォームに乗っかる方が開発コストや開発期間も圧縮できる。ともだち登録から始められるというのも、使い始めるための心理的ハードルを下げるだろう。それに加えて、データを蓄積するバックエンドにはkintoneを選択。機能の作り込みはAWSを使った。システム開発を担当したのは、kintoneにもAWSにも明るいジョイゾーだ。同社ではLINEのチャットボットを開発しており、LINEとAWSの連携に関する知見もあった。開発を担当したジョイゾーの星野 智久さんは、データベースにkintoneを使った経緯について次のように語った。

「kintoneをデータベースとして使えば、データを閲覧するためのメンテナンス画面などを別途用意する必要がありません。さらにあつたさん自身がkintoneに詳しかったので、開発スタート時点でフロント、kintone、AWSによるバックエンドと明確な切り分けができたのもよかったですね」(星野さん)

ジョイゾーの星野 智久さん

 担当を切り分けられたので、開発もスムーズだったという。必要な機能をAPIとして定義し、AWSで開発。フロント側、kintone側からコールしてもらい、フィードバックを受けながら機能を作り込んでいった。この辺りはkintoneとAWSを組み合わせた開発経験が活きてくるところだ。また、kintoneは本来B2B向けのシステムだが、星野さんが言う通りデータベースを閲覧するための仕組みを別途用意しなくても済む、システム運用者に高いITスキルがなくてもデータの集計や分析が容易であるなど、BtoCシステムでうれしい特徴を備えている。データベースを作れば、もうツールはできあがっているのだ。

「文言の修正程度であれば、システムの変更をエンジニアに依頼することなくkintoneで該当箇所を修正するだけで済みます。ちょっとした変更のたびにジョイゾーに依頼しなくても使える、そんなシステムのバックエンドとしてkintoneは適しています」(星野さん)

 LINE+kintone+AWSという組みあわせで、開発はスピーディに進んだ。2020年1月にプロジェクトをキックオフ、3月から4月にかけてジョイゾーがバックエンドを開発し、すきだよにフロントエンジニアがジョインするのを待って6月にフロントエンドを開発、7月にはサービスリリースされた。

ユーザーの趣味嗜好を分析し、今後はテンプレートやコンテンツを拡充

 LINE上で新たなスタートを切ったふたり会議、ユーザー側にも運営側にも大きな変化があった。ユーザーはふたり会議をともだち登録し、パートナーを誘うことでサービス利用がスタートする。Web版ではパートナーに色々なデータを入力してもらう手間がハードルとなっていたが、LINEではすでにともだちになっているのでそうした必要はなくなった。

「運営側としては、Web版のときにはどのような回答がやりとりされているのか把握できていませんでした。新しいシステムではkintoneにデータが蓄積されて簡単に集計できるので、ターゲットユーザーの趣味嗜好がわかるようになりました。これらのデータは、今後のサービス拡大に役立ちます」(あつたさん)

 ふたり会議は、どんなカップルでも抱えていそうな課題テンプレートを無料で利用できる。それらに加えて今後は、妊活や介護など結婚後も継続して話し合っていけるプラットフォームとしてテンプレートを充実させ、手頃な価格のサブスクリプションサービスに育てていきたいとあつたさんは語る。

「パートナー間の知識ギャップを埋めるお手伝いをしたいんです。たとえば妊活については女性ばかりが学んでいるのが現状ですが、男性にも学んでもらえる動画コンテンツを用意するなど、家族間でリテラシーを共通化していきたいですね」(あつたさん)

 好きな人とずっと仲良くしていてもらいたいというのが、あつたさんの強い願いだ。そのためには、対話を通じてお互いを良く知り、互いに寄り添っていくことが大切だ。取材の最後にあつたさんがカップルに向けて語った言葉に、その想いが集約されていた。

「パートナーの機嫌が悪くなるとケーキを買ってくるという方がいますが、根本的な解決にならない場合が多いです。スイーツを選ぶ時間があったら、対話したほうがいい。パートナーともっと話し合う習慣をつくれるようにがんばります」(あつたさん)

 面と向かって言いにくければ、その話し合いをふたり会議が手伝ってくれる。

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