このページの本文へ

外資系IT企業で活躍するビジネスパーソンは何を体験してきたか

ビジネスで「伝わる英語」の正体とは?クロスリバー越川氏とマイクロソフト音居氏が語るビジネス英語スキルの現在

2020年10月16日 11時30分更新

文● 三浦優子 編集●ASCII STARTUP

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

英語力向上は、多くのビジネスパーソンの課題ではないだろうか。今回は、英語力が高く、そのスキルを仕事に発揮している2人のビジネスパーソン、クロスリバー 代表取締役社長の越川慎司氏、日本マイクロソフトに勤務する音居圭氏に、ビジネスで役立つ英語力とはどんなものか、それを身につけるためにどんなことをしてきたのかを聞いた。

 英語力向上は、多くのビジネスパーソンの課題ではないだろうか。英語が堪能な人を横目に、「自分にも英語力があれば……」と臍(ほぞ)をかむ思いをした人は多いだろう。そこで今回は、英語力が高く、そのスキルを仕事に発揮している2人のビジネスパーソン、クロスリバー 代表取締役社長の越川慎司氏、日本マイクロソフトに勤務する音居圭氏に、ビジネスで役立つ英語力とはどんなものか、それを身につけるためにどんなことをしてきたのかを語ってもらった(聞き手=三浦優子)。

日本マイクロソフト 音居 圭氏(左)、クロスリバー 代表取締役社長 越川 慎司氏(右)

越川 慎司氏
 新卒で通信会社に入社し、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。日本マイクロソフト 業務執行役員としてPowerPointやTeamsなどOfficeビジネスの責任者等を務めた後、2017年に株式会社クロスリバーを設立。クロスリバーでは、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践し、623社のリモートワークを支援。メディア出演、講演多数、受講者満足度は平均94%、自発的に行動を起こす受講者が続出。著書11冊「トップ5%社員の習慣」「ずるい資料作成術」「超・時短術」「テレワーク入門BOOK」Amazon等で発売中。その多くが重版となりベストセラーに。

音居 圭氏
 2011年に立命館大学へ入学。しかし1年後に中退し、2年間の宣教活動を経て2015年に渡米。4年間の留学期間中に、留学支援事業を行う留学アシスタント株式会社を学生中に起業。2018年にユタ州にあるBrigham Young UniversityのInformation Systemsを専攻で卒業。現在は2019年1月より日本マイクロソフトにてAzureクラウドサービスのアプリケーション開発技術営業に従事する傍ら、留学支援事業の代表取締役社長を続けながら、留学の情報をYouTube(留学チャンネル)中心に発信中。「留学が当たり前な世界を創る」をミッションとして、すでに100名以上の留学生を輩出。

英語だけできていても駄目なんです!

――今回、ビジネスの現場で英語を使って仕事をしているお二人に、仕事で役立つ英語力をどのように身につけたのか、英語力は仕事の質をどのように上げていくのか、率直に語って頂きたいと思います。まず、自己紹介からお願いします。

越川氏(以下、敬称略):越川です。マイクロソフト出身です。2017年に独立し、クロスリバーという会社をやっています。クロスリバーでは新しい働き方を実践するためのコンサルティングを行っています。現在、世界4拠点に39人のメンバーがいます。全員が週休三日、完全リモートワークを実践し、複業でないと入れない会社を経営しています。

音居氏(以下、敬称略):音居です。現在は日本マイクロソフトの社員です。Azureのアプリ開発を支援する部署に所属しています。

 私の英語習得の経緯はちょっと特殊で。日本の大学を1年で辞めてしまい、その後2年間、宣教活動をしていました。その際、アメリカ人と一緒に住んでいたので英語を使う機会が多かったです。その後、留学して米国で4年間大学生活を送りました。

 学生時代、インターンとしてブルームバーグで働きました。今、日本マイクロソフトで働いている時よりもずっと英語を使う機会が多かったですね。学生時代に起業もしていまして、留学支援ビジネスをやっています。

――お二人とも外資系企業で働いた経験を持っているということですね。素朴な疑問ですが、外資系企業で働くためには「英語力」は不可欠なのでしょうか?

音居:私の今の業務に関していえば、日本のお客様と仕事をすることが多いので英語を使う機会はあまり多くないので、不可欠というわけではないですが、あればさまざまな場面で有利になるのも確かです。

越川:外資系企業だからといって毎日英語を使って仕事をするわけではないですからね。日本法人は日本のお客様と仕事をするわけですから、当然、英語よりも日本語を使う機会が多い社員が多いです。ただ、部署によっては本社をはじめ他の国とのやり取りが多く、英語によるコミュニケーションが必要になることもあります。

――やはり外資系企業だと、英語ができると有利ですか。

音居:英語に限らず、仕事をしていく上で強みは1つでも多いほうが優位じゃないですか。例えば、マイクロソフトのような外資系企業の本社で仕事をしたい、役職に就きたいという目標があるなら、英語という武器を1個持っていた方が優位になる。さらに、単にしゃべることができるレベルから1段上にいって、ビジネスの現場で役立つ英語力を持っていればそれは強い武器になると思うんです。武器が増えていけばライバルが減りますよね。

越川:外資系企業で長いこと働いていると、「英語力はあるけれど、仕事力はどうなんだ?」という人も正直います。英語が堪能だと「この人、すごく仕事ができそうだ!」というバイアスがかかってしまうんですけど、英語力だけで仕事ができるわけではありませんから。

 英語は、ビジネスで人を動かすためのツールなんです。そういう意味では、ビジネスで使える英語を話せるようになるためには、前提として、「母国語できちんとしゃべって交渉するコミュニケーション力」が不可欠です。この本質をきちんとちゃんと理解しておかないと、いくら英語が堪能になっても「相手を動かす」ことはできないんです。

 しかし、学校で教えているのは「伝える英語」で、「伝わる英語」ではない。「伝わる英語力」を身につけることで、ビジネスの現場で力になっていくと思います。

音居:越川さんが仰ったとおり、「英語ができる=仕事ができる」は確かに違うなと思いますが、だからといって私は英語を軽視してほしくないですね。ビジネス英語を習得するというコストからもたらされるリターンは、他の大抵のスキルよりもはるかに大きい気がします。具体的に私の経験を言うと、英語ができる人しかなれないポジションに就けたり、ビジネスの市場が広がったり、知り得なかった情報、人、チャンスに出会えたりと私が享受してきたリターンは計り知れません。たかが英語、されど英語だと感じています。

音居氏「英語習得への投資がもたらしたリターンは計り知れません」

多くの現場を経験して伝わる英語力は育つ

――伝わる英語力というのは、ビジネス現場で英語を話す経験をされた方だからこそ出てきたキーワードだと思いました。その力を身につけるために、どんな学習をすればいいのでしょうか。

音居:大前提の基礎として、英語でのコミュニケーションに単語は不可欠な要素だと思います。よく文章の中に3つ以上の分からない英単語があった場合、その文章自体が分からなくなると言います。経験をして学ぶのはもちろん大事ですが、常に英単語のアップデートをコツコツしておくのは大事だと思います。私の英単語の勉強方法はよく売られている市販のTOEFL 4000単語集みたいなやつを買ってきて、発音記号を見ながら、ひたすらCDを聞いて、耳で覚えました。なので、スペルは苦手です。ただスペルはちょっと間違ってもWordが直してくれるじゃないですか(笑)。

 あとは、ひたすら現場でアウトプットして、伝わる英語にしていくしかないと思います。なぜなら、伝わる英語はただ流暢に話すだけでは不十分で、どう話すのか、どういう内容で話すのかなど非常に多くの要素が関係してきます。このどう話す、どういう内容で話すというところは、話し相手の文化や性格、背景を理解しているかで大きく変わってきます。考えてみたらわかりますが、同じ日本語を流暢に話す日本人同士でも、好き嫌いがありますよね? いろいろな理由はあると思いますが、日本語が上手い上手くないでは決めてないと思います。どう話すか、どういう内容を話すかで決めているはずです。

 そして、こういう文化、背景はどう頑張っても教科書で学べません。やはり現場でアウトプットし続けて学ぶしかありません。私が留学を支援しているのもこの理由です。現場経験に勝るものはありません。

越川:確かに、現地に行って初めて知ることはたくさんありますね。マイクロソフトに入社する前の話ですが、私は日本で仕事をしていたとき、TOEICで700点を取ったのを機に、渡米してしまったんです。

――え? それは思い切ったことをしましたね。

越川:TOEICで700点も取ったのだから、どうにかなるだろうと。ところが米国に行って話してみると、自分の英語がまったく通じない。それでもなんとか、シスコ・システムズに買収される前のWebExに入りビジネスができ、Zoomを作る前のエリック・ヤン(Zoom創業者)たちと一緒に仕事をしたりして、走りながら英語力を身に着けていった感じです。きちんとしたビジネス英語が使えるまでに4年はかかりましたね。

音居:ビジネスで使える英語が身につくまでに4年かかったという感覚は、私も一緒です。現地にいて英語を話しているうちに、日常の会話とは違うビジネス英語があると実感できたのは、やはり最低でも2年以上現地にいて、日常的に英語を話していたからこそだと思います。

――音居さんは在学中に留学支援を行なう会社を起業していますね。YouTubeでも留学チャンネルという留学情報を発信するコンテンツを発信していますが、どういう志があるのでしょうか。

音居:今活躍している日本の経営者、例えばソフトバンクの孫さんや楽天の三木谷さんなどが留学をして得た知見を活かしたように、今こそ私はすべての人が留学をするべきだと思っています。

 私自身、留学に行ったことで、英語の習得はもちろん、日本の中で常識に思っていたことが世界では常識ではないことが分かったり、日本では学べなかった技術を学べたりなど数えきれない程のリターンを受け、自分自身や社会にその知見を還元することができました。

 これほどのリターンがあるにも関わらず、留学したら就職に不利だとか、お金持ちしか行けないのではないかとか、様々な誤解もあって、留学がまだまだ主流でないのが現実です。私はYouTubeや事業を通して、このような誤解を解いて、より多くの方が海外に出ていける「留学が当たり前な世界を創りたい」と思っています。

伝えるのではなく「伝わる」英語力を身につけるには?

――先ほど、越川さんから「伝える英語」と「伝わる英語」は違うという話がありました。おそらく、ビジネスを真摯に進めていくために必要なものこそ、「伝わる英語」ではないかと思うのですが。

越川:私自身が最も「伝わる英語」が身についたと思うのは、マイクロソフトに在籍していた後半です。年に地球を4周以上したというくらい海外を飛び回っていた時です。日本のお客様からお叱りや要望を受けて、米国本社に「こういう変更をしてほしい」と要求するのですが、単純に要望するだけでは対応してくれません。そこで、仲間を作るんですよ。他の国で同じように困っている仲間を見つけて、「同じように困っているお客様が各国にこれだけいるんだから、この部分をこう変えて欲しい」と交渉するんです。

 仲間を見つけるのも各国それぞれ思惑がありますから、そこら辺を見極めてお互いに譲歩する部分を踏まえて交渉しながら話を進めていくわけです。それができなければ、本社に対してリクエストを出してもなかなか対応してもらえません。実現するために必死になって交渉するために話すわけです。

越川氏「交渉のために海外を飛びまわる環境で、伝わる英語が身につきました」

――必死になって相手に交渉することで、「伝わる英語」が一番身についたというのは納得します。

越川:いまは機械翻訳の精度がかなり向上していて、英語ドキュメントを読んだり、単純に連絡をするだけの英語メールを書いたりすることは難しくなくなりました。英語ネイティブではない日本人が生産性を落とさずに仕事をするために翻訳AIのテクノロジーは有用ですので大いに活用しつつ、今後はより、ビジネスで相手と交渉するための伝わる英語を習得することに重きをおいていくべきだと考えます。そのためには、英語で交渉せざるを得ない環境に身をおいて、経験を積み重ねていく必要があります。音居さんが啓発しているように、状況が許せば学生のうちに留学を経験するといいですね。

音居:私自身、アメリカの大学で4年間留学しましたが、もともと学費が格安+奨学金を学校からたくさんいただいたのもあって、合計90万円しかかかっていません。留学はお金持ちだけの特権ではなく、誰にでも開かれた選択肢であることをもっと知ってほしいです。

――お話を聞いていると、単語を覚える、TOEICで高い点を取るといった英語力を磨く努力も当然必要。しかし、ビジネスで使える英語を話すためには、普通に勉強をしただけでは身につかない、交渉もできる伝わる英語を意識して習得することや、そのうえでの経験も大切ということがよくわかりました。本日はありがとうございました!

カテゴリートップへ

時短英語学習
セミナーレポート
体験レビュー