自動運転向けAI技術で創薬効率化など、ヘルスケア×AIピッチ開催
豊洲の港から「第1回定例会」レポート
2020年9月16日、NTTデータが開催するオープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」の第1回定例会がオンラインで開催された。NTTデータは、最先端の技術を持つ世界のベンチャー企業、大手企業・金融機関・公共機関、NTTデータの3者を掛け合わせ、互いに「Win-Win-Win」の関係で新規事業を創出するオープンイノベーションの実現に取り組んでいる。「豊洲の港から」では、ビジネス創出のきっかけづくりとして、毎月テーマを決めて定例会を開催。今回は「ヘルスケア×AI」をテーマに、エヌビディア合同会社による講演と、NTTデータにおけるヘルスケア×AIの事例紹介、スタートアップ5社によるピッチが実施された。
ヘルスケア領域でのAIスタートアップの動向
エヌビディア合同会社の山田 泰永氏による講演「ヘルスケア領域でのAIスタートアップの動向」では、医療・ヘルスケア領域におけるAI活用とスタートアップ支援の取り組みを紹介した。
NVIDEAのGPUは、現代のAIやディープラーニング分野を支える標準的な技術だ。同社では、GPUの計算能力を世の中に役立つ具体的な手法につなげるため、開発環境の充実、開発者エコシステムの構築を目指しており、その一環として、スタートアップ開発者の支援に取り組んでいる。
医療・ヘルスケア領域では、センシングによる未病・先制医療、画像解析による診断支援、創薬やロボットによる手術支援、リハビリや介護支援などへのAI活用が期待されている。NVIDEAでは、これらを実装していくための基盤として、機器内の組み込みから、院内、ナショナル医療クラウドまであらゆる階層をGPUの高速演算で処理する体制を整えている。
さらに、あらゆる産業へのAIの活用を促進するために、AIスタートアップ企業と技術パートナー企業を支援する「INCEPTIONプログラム」を運営。国内だけでも100社以上のスタートアップを支援・連携している。プログラムの参加企業は、イベント・マーケティング露出、ユーザー・パートナー企業とのマッチング、ディープラーニング学習、ハードウェアの割引、技術相談・支援などを受けられるのがメリットだ。
スマートフォンによる遠隔・非接触でのバイタルデータ取得の実証
続いて、Binah.ai VP Sales Japanの平尾 充啓氏と、NTTデータ 第二公共事業本部 ヘルスケア事業部 畠山 正克氏が登壇し、NTTデータにおけるヘルスケア×AIの事例として、昨年度のオープンイノベーションコンテストで最優秀賞を受賞したBinah.ai(ビナー)と取り組みを紹介した。
現在、NTTデータでは、Health Data Bankへのデータ取得機能の追加に向けて、Binah.aiの非接触型バイタルデータ取得技術を活用して、スマートフォンによる遠隔・非接触のバイタルデータ取得の実証実験を行なっている。
Binah.aiの非接触型バイタルデータ取得技術は、スマホのカメラで顔を撮影するだけで、心拍数や酸素飽和数(SpO2)、呼吸数、ストレスレベル、血圧などのバイタルサインを測定する技術。Binahアプリはカメラを搭載しているスマホ、タブレット、PCに対応し、インターネットに接続せずに実行できるといった特徴をもつ。
NTTデータでは、企業向けに健康管理支援サービス「Heath Data Bank」を提供しているが、コロナ禍ではリモートワークが進んでおり、従業員の健康管理が難しくなってきている。そこで、Binahでリモートワーク中の従業員のバイタルデータを取得し、Heath Data Bankと連携させることで、従業員の不調の早期発見などに役立てる実証事業を8月より実施している。実証実験後はHeath Data Bankの機能として追加される予定だ。
後半のスタートアップピッチには、株式会社Sportip、エニシア株式会社、株式会社Elix、株式会社ヒューマノーム研究所、株式会社エクサウィザーズの5社が登壇。
動作のリアルタイム解析で個人の体に合ったトレーニングをサポート
株式会社Sportipは、AI×動作指導の筑波大学発ベンチャー。スポーツ、フィットネス、リハビリといった動きをともなうシーンで個人の体や目的に合わせた指導をするためのAIを開発している。同社が独自開発したAIは、スマホのカメラであらゆる動きをリアルタイム解析する技術で、三次元動作分析システム「VICON」と同等の高い精度を実現。
現在は、オフラインでのトレーニング解析と記録・管理をサポートする「Sportip Pro」をフィットネスジム、整体・整骨院、スポーツチーム、病院、介護施設にBtoBで提供している。さらに、オンラインでトレーニングをアシストする「Sportip Meet」を10月にはリリース予定だ。
勤務医の超過労働を改善するカルテ要約支援AIシステム「SATOMI」
エニシア株式会社は、カルテの要約支援ソフトを開発。大病院では、勤務医の超過労働が深刻化している。その原因のひとつは、診断書やカルテなどの書類作成に時間がかかることにある。次の診療方法を決めるための書類や論文をまとめるには、過去の診療記録をすべて参照する必要があるためだ。「SATOMI」は、カルテの記録時に要約と構造化データを作成することで、経緯把握を効率化し、文書作成にかかる負担を軽減する。SATOMIの導入により、1日当たりの医療事務作業時間を約3分の1まで短縮が見込まれる。また、構造化データを作成することで、医療ビッグデータとして創薬や医療行政、生命保険などへの活用も期待できそうだ。
自動運転で培ったAI技術で創薬を効率化
株式会社Elixは、AI創薬/材料開発、画像認識を中心に事業を展開するAIスタートアップ。もともとは自動運転向けの画像認識AIを開発しており、その応用として、6月には新型コロナ感染症対策として人の密集度を把握するAIソリューションを開発。創薬分野では、既存薬から新型コロナウイルス感染症の治療薬候補を複数同定したと発表。特性予測AIモデルを用いて、既存薬のデータセットから治療薬候補を見つけることができれば、創薬にかかる時間とコストの大幅な削減が期待される。この8月からアステラス製薬との共同研究でAI創薬のアルゴリズム開発に取り組んでいる。
AIとテクノロジーを用いた健康社会の実現
株式会社ヒューマノーム研究所は、IT/ITC技術で人に関するあらゆるデータを計測し、生命科学や医療知見を用いて解析することで、健康社会の実現を目指している会社だ。具体的なプロジェクトとしては、世の中の最新情報を共有する「ヒューマノーム・レポート」、人に関するデータを収集する「ヒューマノーム・ラボ」、得られたデータを解析する「ヒューマノーム・AI」の3つを軸に活動している。これまでの事業事例として、2019年に山形県の湯野浜温泉の協力のもと「湯野浜ヒューマノーム・ラボ」を実施。25名にウェアラブル機器を装着してもらい、各分野の専門家と協業して、44種類のデータを取得。また、女性特有のがん患者向けSNS「Peer Ring」のユーザー100名に3ヵ月間のデータ計測を行ない、未来のがん患者の生活をサポートするためのデータ解析・AIモデルの構築に取り組んでいる。将来は、得られたデータをAIで解析し、個人の健康状態を早期に医療機関や勤め先企業、食品配送センターへ通知することで、健康をコントロールする社会の実現を目指す。
AIの企画から開発、社会実装までワンストップでサポート
株式会社エクサウィザーズは、介護・医療・HR/金融・ロボットなど多様な領域でAIプロダクトの開発と実用化に取り組んでいる。同社の強みは、技術開発だけでなく、課題設定、社会実装、現場での利活用までワンストップで提供できる点だ。MedTech事業では、脳卒中患者の遠隔リハビリをサポートするデジタルヘルスプロダクトを北原病院グループと共同開発し、試験導入を開始。メンタルヘルス領域では、認知行動モデルを取り入れたワークやチャット相談ができるアプリを現在開発中だ。製薬企業向けには、2019年5月から第一三共株式会社との協業で「低分子領域におけるデータ駆動型創薬の実現に向けた共同開発にも取り組んでいる。