NECの画像認識技術を応用 スマホで撮るだけの個体識別サービス「GAZIRU」
RFIDタグやQRコードに代わるタグ不要の個体識別の新技術
株式会社GAZIRUは、「ストラクチャード・スピンイン (SSI)」というシリコンバレー発の投資モデルを活用し、NECで開発された画像認識技術を幅広い領域へ展開するために2020年4月に設立されたスタートアップ。直近ではスマホカメラで簡単に個体識別ができる「GAZIRU個体識別サービス」を7月にリリースしたばかり。株式会社GAZIRU代表取締役の福澤 茂和氏に、「GAZIRU個体識別サービス」の特徴と今後の展開について伺った。
商品そのものの写真を使った個体識別技術を
ブランド品鑑定に応用
インターネット上にはモノに関する膨大なデータがあり、そのデータの正しさもある程度は担保されるようになりつつある。「GAZIRU個体識別サービス」は、こうしたデータをリアルなモノと紐付けて利活用するための技術だ。
福澤氏らのチームは、NEC内で画像認識技術を活用した事業開発に取り組んできた。しかし。対象としてきた顧客は大手メーカーが中心。これまでNECでの活動においてカバーできていなかった他の業界や中小企業へと市場を広げるために、新事業開発部門が独立する形で設立されたのが株式会社GAZIRUだ。なお、NECの顧客向けのサービスについては、NEC事業として継続されている。
独立後、株式会社GAZIRUがまず着目したのが、二次流通ブランド品の鑑定だ。高価な商品は、複数の鑑定士が数十時間もかけて鑑定する場合もある。さらに業者が変わるごとに、鑑定をし直さなくてはならない。これに対し、GAZIRU社による商品そのものの写真を使った個体識別技術があれば、一度鑑定して正規品である証明がなされることで再鑑定が不要になり、大幅なコストダウンになる。また、鑑定士がいなくても簡単に正規品かどうかのチェックができれば、偽造品の撲滅にもつながりそうだ。
RFIDタグやQRコードなしに、写真を撮るだけで個体識別を実現
そもそも同社の個体識別サービスは、人間の眼では区別できない素材表面のざらつきや微細凹凸、テクスチャから高速に個体を識別できる。同じ見た目であっても、カメラを通した画像だけで識別ができ、RFIDタグやQRコードを貼らなくてもスマホから写真を撮るだけでタグを貼ったような効能が期待できる。正規品かどうかをどこで識別しているかが見ただけではわからないので、偽造品の製造自体が防げるというわけだ。
世の中のあらゆる製品の画像をクラウドに保管するとなると、膨大なデータ量になりそうだが、特徴量データはかなり圧縮されているそうだ。福澤氏によると、GAZIRU個体識別サービスでは、1cm以下の小領域を撮影した画像で安定的に照合でき、1秒間に1万個の中から1個を識別できる。
高級ブランド鑑定以外の応用としては、GAZIRU個体識別サービスと連動する機能を持つ道具や工具、ツールの開発を考えているそうだ。たとえば、トルクレンチの内側にカメラとライトを埋め込み、ボルトを締める際に撮影して製品に取り付けるボルト1個1 個を個体識別する、といった工具だ。
画像認識の課題は、撮影の際のピンボケや照明変動に弱いこと。その点、レンチの内部は完全な閉空間であり、ボルトの頭部との距離も一定なので、画質を担保しやすい。導入されれば、点検修理時に、「誰が、何時何分に、何キロの力で締めたか」といった作業ログ情報をボルトの頭部とともに記録・管理できる。各ボルトの作業ログ情報を蓄積してそのデータを分析することで、増し締めの際には、どこのボルトが緩みやすいか、といったことも把握できるようになる。
上述した「GAZIRU個体識別サービス」と、スマートフォンやPCから利用できるアプリケーションをベースに、中古ブランド品の鑑定サービスの実証事業のほか、10月からは国内化粧品メーカーと連携し、一次流通の個体管理についても実証事業を開始するという。今後は、商品の流通管理以外の用途も模索しており、新しいパートナーを求めているそうだ。
「私たちはこの技術の展開先として流通業界での商品の個体管理を本格的に開始したところですが、それ以外にも適用できるシーンは多々あると考えています。私たちがまだ気づいていない技術のメリットを活かした使い方がまだまだあるはずです。アイデアがある方々にGAZIRU個体識別サービスをより一層活用してもらえるよう、私たちのパートナーとして一緒に新規サービスやアプリケーションの開発を進めていきたいと思います」
株式会社GAZIRUは、SSIの仕組みを活用して、グローバル・カタリスト・パートナーズ・ジャパン (GCPJ) のファンドから100%出資を受けているため、NEC以外の企業とも自由に協業が可能だ。今後はオープンイノベーションを含めて、画像認識を活用したタグ不要の個体識別技術を普及させていきたい、とのこと。