4歳のとき初めて劇場で見た映画版ドラえもんは「のび太と竜の騎士」でした。3歳児くんの保護者をしてます盛田諒ですこんにちは。子どもの映画版ドラえもんデビューとなる「のび太の新恐竜」を一緒に見てきました。「家族deだんらんシネマ」と言って家族3人が横並びの席で見られたのはよかったのですが、映画でのび太が激烈なマッチョ志向になっていることに親として衝撃を受けました。これも時代か……。
※この記事には映画「のび太の新恐竜」のネタバレが含まれています。
●マッチョなのび太
「のび太の新恐竜」は、40年前に劇場公開されたドラえもん映画作品シリーズ第1作「のび太の恐竜」(1980)をもとにした完全新作。のび太が見つけた恐竜の卵の化石から、羽毛の生えた双子の恐竜キューとミューが生まれ、ドラえもんや友だちと一緒に2匹の恐竜を6600万年前に返しに行くという新しいストーリーになっています。
軸としては「のび太の恐竜」と同じなんですが、「強くなければ生きられない、自分を変えるんだ、世界を変えるんだ、厳しい世界をサバイブするんだ」的な話に変わっています。
のび太はうまく飛べない恐竜キューを「他の子は飛べるじゃないか!」ときびしく叱って、熱血指導します。自分では逆上がりの練習を必死にがんばります。終盤ではなんとのび太が世界を変えて、恐竜の歴史を塗り替えることにもなっています。「いやアンタ歴史の改変を許さないはずのタイムパトロールは何をやっとるんだ」という気持ちになりましたが、いまどき世界を変えるほうがロマンチックってことなんでしょう。のび太が熱血精神で逆上がりができるようになることも、やっぱりいまどきのロマンチックな成長譚なんだろうと思います。
実際、感想を見ると直球で泣いたという人が多く、「泣いたわ〜。子供もちろん、いま環境変化の中、進化に苦しむ大人にも、おすすめです」と書いている人もいました。
脚本を書いたのはヒットメーカーである川村元気さん。インタビューを読んでみると、物語のテーマは多様性だと言っていて、多様性ってのは生物がサバイブするための必須条件と話していました。むちゃくちゃラディカルな適応説やなあと思いつつ、全体的にマッチョ志向になったのはそういう今風のテーマがあったからってことで納得しました。
ただ私、多様性ってのは「でかい顔してるやつもなあ、知らんうちに誰かに助けてもらって生きとんのや」ってことだと思ってたんですよね。この世界は上下の別なく生き物のつながりでできてるんだっていう。「環境の変化に適応できるものだけが生き残れるのだ」っていうビジネス的な話とは違うイメージだったので、そんなもんかな〜と思うところもあったのです。
ビジネスっていえば、自分のことしか考えない人間たちが、金もうけのために遠くの国の資源を乱獲し、嫌な仕事を押しつけて、いい思いをしつづけた結果、この世界はムチャクチャになったわけじゃないですか。それも数百年前の戦争で決まった支配関係をひきずったままで。その上、数十年前に見なかったことにしてきた環境問題もバンッバン深刻化してきて、「自分のことしか考えない人間ばっかりだったらこの世界は良くなるどころか終わるぞ、もっと周りのことを考えなあかんよ」っていうのが、多様性が大事といわれる理由のひとつだと思ってるのです。
「のび太の恐竜」に出てきた悪役の恐竜ハンターと同じですよ。あの人らは恐竜を乱獲し、金持ちのペットとして売りさばいて世界のバランスをくずしてしまった。だからタイムパトロールは恐竜ハンターを逮捕したし、のび太はピー助を元の世界に戻すことが正しいんだと思ったわけで。「あっちの世界を知りたいという好奇心を持つことはいいけど、自分勝手に手を出して世界のバランスをくずしてはいけないぞ」ってのが、のび太の恐竜の大事なメッセージだったと思うんですよね。
この「相手の世界を尊重して手を出さない」っていうテーマは、自分の力で恐竜の化石を見つけようとするのび太にあえて口を出さず、「失敗してもいいさ」と影から見守っていたドラえもんにも、恐竜の時代に手出しをしないでピー助から離れていったのび太にも重ねられると思うんです。そうして相手を思いやる気持ちを持てるようになり、世界を広く見られるようになることで、「ああのび太も成長したなあ」って感じる話だったと思うんですよね、「のび太の恐竜」は。
かたや「のび太の新恐竜」で、飛べないキューに向かって「何をしてるんだよ!みんなそんなバタバタ羽を動かしてないだろ!」と怒鳴り声をあげるのび太を見ていると、育児に追いつめられた親を見ているようで胸が痛むんです。「この道しかない」とばかりに逆上がりの練習をくりかえすのび太を見ると「いやいや逆上がりなんてできなくたって死ぬわけじゃないし思いつめなくてもいいよ、世界は学校より広いんだから」と言いたくなってしまう。いや自分の力で逆上がりができるようになるのはすばらしいことだけど、その世界がすべてだとは思わないでほしいなあと。
●40年前のラストが好きだ
「アンタも考えが古いなー」と言われそうですが、私はやっぱりピー助と遊んでいたボールが月に重なっていく「のび太の恐竜」のラストが好きなんですよね。現代でも恐竜のいた時代と同じ月が見えるんだ、遠くに感じている世界も実はすべてつながっている、ふたつの世界は愛でつながっているんだと思わせる文学的なラストが。子どもがどっちの「恐竜」を好きになってもかまわないんですが、「ピューイ」とピー助のマネをしているのを見ると目尻が下がるのが正直なところです。
(9月4日の連載は休みました)
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。3歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。
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