業務を変えるkintoneユーザー事例 第89回
残業をなくし他の作業時間を確保した健生会
kintoneへの乗り換えは、しっかりとした要件定義が重要というのが反省点
2020年09月16日 09時00分更新
2020年5月20日、kintoneのユーザーイベント「kintone hive Osaka Vol.8」が開催された。新型コロナウイルスの影響でオンライン配信となったが、kintoneの導入を成功させた5社が登壇。今回は3番手の社会医療法人 健生会の中尾典隆氏によるセッション「鍼灸治療所の基幹システムをkintoneで作ってみた ~No カスタマイズ Only プラグイン~」のレポートを紹介する。
データベースを扱っていた職員の退社でメンテナンスができなくなり
社会医療法人 健生会は奈良県北部の大和高田市を中心に桜井市、河合町、生駒市に展開する医療法人。病院を中心として診療所が5ヵ所、老人保健施設、介護施設、そして今回紹介する鍼灸治療所などを構えている。
プレゼンターの中尾典隆氏は健生会のシステム管理課で働いている。もともと、系列の土庫(どんご)病院に入所しており、2018年の組織改編で健生会のシステム管理課に所属が変わった。それに伴い、業務範囲が広がったそう。
あるとき、グループウェアの更新を検討しているとき、あるベンダーからサイボウズOfficeとkintoneを提案された。その時は、グループウェアにしか興味がなかったので、費用がかかるなら不要、と断ったという。しかし、その後、サイボウズのセミナーを受けてkintoneに興味を持ち、ライトコースを契約して共有しているExcelファイルをkintoneに移行したりしていた。そんな中、直属の上司となった事務局長から、ミッションが与えられた。
「それまでの業務内容は維持管理メンテナンスがメインなので、プラスの収益を上げる部署ではありません。修理などをして支出を減らすことで貢献しています。しかし、事業部長は他のスタッフにももっと評価して欲しいと思っていて、システムで患者と職員を幸せにしろ、と指示されました。ふわっとした内容なので、どうしたらいいのかなと思いましたが、各部署に出向いて問題点を確認するように言われ、あれ、これkintoneがうってつけじゃないか? と考えました」(中尾氏)
中尾氏は早速、鍼灸治療所を訪ねて「困っていることありませんか」と聞いてみると、いろいろな問題を抱えていることが判明した。元々、職員がデータベースソフトのAccessで作っていた仕組みがあったのだが、その職員が退社し、メンテナンスできる人がいなくなってしまった。そのため、Accessの仕組みをExcelに分割して、無理矢理運用を続けていたという。
「このExcelも使っているうちに暗雲が立ちこめてきました。無理矢理Excel化したので、複雑な外部リンクを貼っていたのです。その結果、またメンテナンスできなくなってきました」(中尾氏)
とは言え、そのシステムがないと仕事にならないので無理矢理運用し、レセプトのような月単位の業務を行なう度に残業が発生していた。
そんな状況を見た中尾氏は、曲がりなりにもExcelで運用できていたなら、kintoneでもできるはず、と中尾氏は考えた。まずは、鍼灸治療所の運用フローを確認することに着手。患者が来院したら、新患登録をして、施術を受け、会計して、領収書を出し、1日の業務が終わったら経理に報告するために入金伝票を作成する。この流れをアプリで構築したのだ。
カスタマイズはJavaScriptを使わずプラグインで行なった
まずは、新患登録する際に使う「患者マスタ」と「保険登録」アプリを作成。施術した鍼灸師を記録するために鍼灸師情報を登録する「鍼灸師マスタ」アプリも作成。外来ではなく訪問もあるので、「往療先」アプリも作った。健康保健で鍼灸治療を受ける際は同意書が必要になるので「同意書管理」アプリと、同意書を書いてくれる先生の情報が必要なので「医師マスター」アプリを作成。これらすべてを束ねて「実績登録」アプリに登録し、帳票出力プラグインの「Repotone U」を使って、Excelで領収書や入金伝票を出するシステムフリーを構築したのだ。
「実績登録」アプリは、患者IDを入れると、実施者や往療先、保健情報などをルックアップで引っ張ってくるようにした。そして、会計内容を入力することで、必要な領収書や伝票を出せるようになっていた。システムとしては問題なく動作していたのだが、「これは失敗でした」と中尾氏。現場から、使いにくいという声が多く上がってきたのだ。
同じ患者の情報を入力するのに、ルックアップのために3回も同じIDを入力するのは面倒だからだ。さらには、会計金額の入力もやめたいと言われたそう。そこで、中尾氏はリメイクすることにした。
「ルックアップを減らすために、「患者マスタ」から実績に必要な情報を「保険登録」アプリに引っ張り、「実績登録」アプリには「保険登録」アプリだけルックアップするようにしました。よく確認したら、同意書の情報は日々の入力には関係ないのでルックアップから外しました」(中尾氏)
リメイクしたシステムでは、患者IDの入力は1回だけになった。加えて、診療内容をチェックするだけで、金額が反映されるようにした。標準機能では、チェックボックスを関数で扱えないため、TISの「評価スコア計算プラグイン」を利用した。実費か保健か、初診かどうか、外来か訪問か、鍼かマッサージかを選ぶと、金額が自動的に入力されるようになったのだ。
次に、毎月行なうレセプト(診療報酬明細書)を作成する業務もkintoneアプリ化した。「実績登録」と「患者マスタ」、そしてルックアップから外した「同意書管理」アプリの情報を集約して、「月報」や「レセプト」を作成し、「Repotone U」で帳票化している。
その際、保険の種類や被保険者、負担割合などで出力内容を変えなければならないのだが、これをすべて「保健登録」アプリに入れておくのは手間がかかりすぎる。そこで、グレープシティの集計・加工プラグイン「krewData」を利用し抽出することにした。
Excelでの運用をkintone化した効果は絶大。しかしまだまだ未完成
Excelで無理矢理運用していた仕組みをkintone化することで、ミスが減ったとか、データ化されているから見やすい、見やすいから修正もしやすいといった声が寄せられるようになった。
「元々、残業代が問題になっていましたが、残業を減らすだけでは100点ではありません。残業を減らした上で、さらに業務時間内に空き時間ができることで、他の作業ができるようになった、と言われ、すごいうれしかったです」(中尾氏)
通常であればレセプト業務は月末に締めて翌月10日くらいまでかかるそうだが、今年の4月分は5月1日に作業が終了した。めざましい導入効果だ。
よく、kintoneアプリを作る際、いきなり100%を目指すのではなく70%くらいで作ってスモールスタートすると成功しやすいと言われる。しかし、中尾氏は最初枝葉の部分を含めて70%の感覚で作ってしまい、根幹の部分で使い勝手が悪くなってしまった。そのため、作り直しが発生したのだ。「これからは、しっかりと要件定義しなければいけないなと思いました」と中尾氏は反省する。
鍼灸治療所の基幹システムができたといっても、まだまだ完成ではない。現場からの要望で、機能を追加する予定もある。例えば、コミュニケーション機能。せっかくコメント欄があるのに、ほとんど使えていないので、活用していきたいとのこと。
鍼灸治療所だけでなく、他の部署にもkintoneの活用を広げたいと考えている。図書の管理やイベント管理、季節ごとのイベント管理などの仕組み作りを進める予定だ。健生会では、kintone hiveのような事例報告会を行っているそうだが、毎年参加者や発表者などの情報をCD-Rに焼いて次の担当者に渡していた。ここもkintone化していくという。
「僕が全部作って管理するのではなく、現場の人に参加してもらって、現場の人が管理できるような形で構築できればなと思っています」と中尾氏は締めた。
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