このページの本文へ

半年のアップデートについてPM長尾氏に聞いた

地味ながらユーザーを引きつけるkintoneアップデートの舞台裏

2020年09月02日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 毎月のアップデートを着実にこなし、使いにくかった部分がどんどん改良されているkintone。地味ながら使い勝手を確実に向上させているkintoneのこの半年のアップデートについてプロダクトマネージャーの長尾洋也氏に振り返ってもらった。

サイボウズ kintone プロダクトマネージャー 長尾洋也氏

ユーザーの使い方に寄り添い、学びやすさを意識する

 3月のアップデートでは、記載されたリンクに対して別タブで開くか、同一タブで開くかのデフォルトの挙動をアプリ開発側で指定できるようになった。これにより、ユーザーは別タブを参照しながら入力できるようになり、ユーザービリティは向上した。

 また、ラベルフィールドの入力欄を広げた。こちらも地味なアップデートだが、これはフォームに補足説明や注意書きを入れるユーザーの使い方に応えたもの。「誤解されやすいところに説明入れるのは効果も大きいし、ユーザーが迷わないように業務システムにコメントを入れるって、とてもkintoneらしい工夫。製品側でもきちんとカバーしたいと思いました」と長尾氏は語る。

 4月のアップデートではテーブルをドラッグ&ドロップで作成できるようになった。kintoneはドラッグ&ドロップでアプリが作れるのが売りだが、今までテーブルだけはドラッグ&ドロップで作れなかったという。アップデートによってテーブルのパーツが一覧に追加され、フォームに出すパーツはすべて画面左にある一覧から選べるようになった。テーブルの名称変更も右上の設定アイコンから行なえるようになった。6月のアップデートではテーブルの列を削除する「SetFieldShown」のAPIも新たに追加され、カスタマイズしてもアップデートで壊れないようになっているという。

テーブルもドラッグ&ドロップで作成可能に

 また、5月にはプロセス管理設定の「アクション名」と「実行後のステータス」の順序を変更 した。プロセス管理とは、特定のステータスと条件を満たす場合にアクションを実行するという機能だが、今までは順番が「実行後のステータス」と「アクション名」だったため、プロセス全体を説明するのが難しかったという。

 両者に共通しているのは、学びやすさや説明のしやすさだという。必ずしもプログラムを知らない現場の担当者が学習するのに迷わず、人にも教えやすくというkintoneならではのアップデートだ。「プログラマーだったら『慣れ』とか言いがちですが、kintoneに慣れていない人でも学びやすくなることを目指しました。できることは増えないけど、学びやすくなる点を重視しています」と長尾氏は語る。

 6月版は「保存するときのエラーを詳細に出すようにした」というアップデートが施された。以前は入力値のエラーがあったときも「エラー」と表示されるだけで、詳細がぱっと見でわからなかったという。「入力まわりのトラブルや使いにくさはユーザーの不評につながります。そういうきっかけになるところを確実につぶしています」(長尾氏)

アプリやスペースの復旧機能はあえて「ハードな選択肢」を

 5月のアップデートの目玉は、ユーザーが誤って削除してしまったアプリ/スペースを復旧できる機能。「取り消し」にあたるもので、14日以内であれば削除する前に戻せるという。「アプリやスペースのデータをまるごと消してしまうのは致命傷なので、過去にも何回か戻せないか?という問い合わせはありました。でも、基本的には消えちゃったら、どうしようもなかったので、サービスとしてなんらか手を入れたいなと思っていました」と長尾氏は振り返る。

アプリの復旧が可能に

 ユーザーの誤削除への対応ということで、機能の実装に関しては社内でもいろいろな議論があった。一言で誤削除と言っても、異なるアプリを消してしまうという事象ではなく、本人が確信して削除する場合は防ぎようがないからだ。「消す前にアプリの名前を入力させるとか、パスワードを入れさせるとか、いろんな選択肢があったのですが、削除を面倒にして、間違った操作を防ぐだけではダメ。だから、『消せるけど元に戻せる』という一番作るのが大変なハードな選択肢をとりました」と長尾氏は語る。

 アプリ/スペースを復旧可能にするためには、削除操作によってユーザーからアプリやスペースを見えなくすればよい。どこからも消した風に見せ、実際の削除処理はあとから行なえばよいのだ。しかし、クラウド上にあるアプリやスペースをAPIや「あらゆる角度から見えなくする」のは、APIやアクセス権設定など他方に手を入れる必要があり、意外と大変だったという。

リモート開発体制の苦労とメリット、気になるコメント機能

 開発体制についても聞いてみた。コロナ禍以降、サイボウズも開発はリモート体制に移行している。リモートだからといってプロジェクトの進み具合に大きな問題はないが、対面で培ってきたメンバーの意思統一には難しさを感じているようだ。「メンバーで同じ画面を見ながら、新機能の重要さをみんなで確認したり、困難なプロジェクトを完遂したときに得られる一体感は減っているかもしれません」と長尾氏は語る。

 クラウドサービスとしては歴史の長いkintoneの場合、画面遷移や機能の実装が複雑になることが多い。これに対して、今までは対面で紙を使って説明していたが、リモートだとこの仕様説明が難しいという。一方で、拠点によらず、コミュニケーションがフラットになったのはメリットだという。「今までは東京メンバー同士の雑談から合意が形成されてしまうみたいな課題がありましたが、リモートになった今は他拠点の人が参加しにくいということがなくなった気がします」と長尾氏は語る。

 個人的に最近、気になっているのはコメント機能のアップデートだ。kintoneはデータベース、アプリ開発、コミュニケーションが三位一体で提供されているユニークなクラウドサービスだが、正直コミュニケーションを担うコメント機能はまだまだ機能面で不足している。リッチテキスト機能もまだまだだし、画像も貼れないため、別途チャットツールで補っているユーザーは多い。

 これに対して長尾氏は、「完全に作り手側の都合なのですが、ユーザーインターフェイスのコアな部分に手を入れる必要があり、通常のチャットと違って、kintoneの場合はチャットのデータがアプリに紐付くため、尻込みしている状態」と吐露する。以前の記事で書いたとおり、kintoneのアップデートは複数の要件の中から実現性や優先度の高いものにしぼっていくというプロセスの中で進めているため、コメント機能やスペースのアップデートはまだ機が熟していないらしい。とはいえ、毎月のアップデートで開発能力も向上しており、過去に実現できなかった要件の"リベンジマッチ”も行なわれているので、キリントーンのように首を長くしてアップデートを待ちたい。

■関連サイト

カテゴリートップへ