このページの本文へ

遠藤諭のプログラミング+日記 第82回

林信行・清水亮・川島優志、当時の関係者らがシリコンバレーで最も重要な失敗企業を語る

映画『GENERAL MAGIC』の解説つき追加オンライン上映が決定!

2020年09月01日 22時40分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ポケットクリスタルのスケッチ(映画公式ページより)

イノベーションを語ろうという人は絶対にこの映画を見ておくべき

 この会社がなければいま世界中の人たちが手にしているiPhoneやスマートフォンはいまの形では存在しなかったかもしれない。GENAGRAL MAGICは、1990年にアップルコンピュータが立ち上げ、1994年に伝説的なモバイル端末を登場させたテクノロジー企業の名前である。

 まだネットが広がっていなかった1990年代はじめに、親会社アップルコンピュータからほぼ同時期に競合するニュートンが発売されるも、業界初ともいわれるコンセプトIPO(製品発売前の株式公開)をはたす。しかし、その理想主義とあまりの先進性がゆえに、なだたる大企業を巻き込みながらも失速。

 映画『GENERAL MAGIC』は、歴史的なシーンも含めて撮りためられていた豊富な映像(それだけ将来を嘱望されドキュメンタリーとして記録されていた)と現在の当事者たちへのインタビューから構成される。

 テクノロジー的な意味で彼らの選択は間違っていたのか。何が足りなかったのか(映画ではGENERAL MAGICと縁の深いジャーナリストが指摘するシーンはあるが)。そして、その後のデジタルを大きく動かす人材を多く輩出することになったのはなぜなのか? それらは歴史であると同時に、たったいまの我々自身の課題としてとらえておきたいものばかりだ。

 テクノロジーを仕事にする、あるいはスタートアップに関わる人たちに、そこに自分がいることの価値と可能性を感じさせてくれる映画である。清水亮氏が、「イノベーションを語ろうという人は絶対にこの映画を見ておくべきだろう」と書いていたとおりでもある。

映画『GENERAL MAGIC』に登場する人たち(公式サイトより)。アップルの伝説的なエンジニアであるアンディ・ハーツフェルドやビル・アトキンソン、先進的なモバイル端末ポケットクリタルを提案したマーク・ポラット、後にiPodやiPhoneを作りNestを創業するトニー・ファデルや米国CTOになるミーガン・スミスなど。この映画では“悪者”のはずのジョン・スカリーの出演部分も多い。

 その映画『GENERAL MAGIC』を、角川アスキー総研では、8月下旬にオンラインにて特別上映した。上映後の質疑応答の時間にはいくつもの意見や感想がよせられ、見逃れた方からの追加上映の強い要望もあった。そこで、この映画を一緒に鑑賞してそれぞれの視点で語るにふさわしいゲストを招いて追加上映を行うこととなった。

映画『GENERAL MAGIC』(日本語字幕付き)特別上映会

第1回 10月1日(木)18:30 受付開始、19:00 上映開始
    特別座談会 ゲスト:川島優志氏、齋藤 洋氏
第2回 10月2日(金)18:30 受付開始、19:00 上映開始
    特別座談会 ゲスト:清水 亮氏
第3回 10月3日(土)15:30 受付開始、16:00上映開始
    特別座談会 ゲスト:鈴木直也氏、林 信行氏

チケット:1300円(税別)
視聴を希望される方は以下から申し込みください。
『GENERAL MAGIC』特別上映申し込みサイト

ゲストの方々のこの映画へのコメント(50音順:敬称略)


 

 映画に登場するミーガン・スミスとは、グーグルに在籍していた時、一緒に仕事をしました。ナイアンティックの力強い支援者でもありました。イングレスの命名にも実は関わっています。もし彼女がいなければ、グーグルアースも、ポケモンGOも生まれなかったかもしれません。映画の中でも実際も、彼女の使う言葉には「『魔法』がどこにあるかを考え、誰もがもつやる気や才能を引き出す」想いが溢れており、アメリカ初の女性CTOにふさわしい素晴らしいヴィジョンとパッションを持った人でした。このドキュメンタリーフィルムは、そんな彼女や、Macを作り上げたビル・アトキンソン、アンディ・ハーツフェルド、iPhoneを作ったトニー・ファデルなど、シリコンバレーのスター集団が、夢見、挑戦し、苦悩した壮絶な挫折の記録であり、残した希望の種と共に心ゆり動かされる物語です。

川島 優志(かわしま まさし)

 Niantic, Inc. アジア・パシフィック オペレーション 副社長。2013年、Googleの社内スタートアップとして発足したNiantic。Labsに参画、『Ingress』のデザイン、『ポケモンGO』の立ち上げ、アジア地域の統括を担当した。2019年に副社長に就任。


 

 World Wide Webが世界中に普及する直前の時代、General Magicは、AT&TやNTT、モトローラやソニーらと共に世界を変える製品とサービスを開発しようとしていました。私はソニーに在籍しながら日本での商品化のために奔走していましたが、本格商用化に至りませんでした。そんな当時を思い出しつつも、若手エンジニアたちが 先輩であるスターエンジニアを乗り越えて、更に大きな仕事を成し遂げる過程の物語として、若い方々にも楽しんでいただきたいと思います。

齋藤 洋(さいとう ひろし)

 当時、ソニーにて事業企画を担当。MagicLinkを用いたNTT, AT&Tとの合弁事業企画会社 NTT-FAN企画も兼務した。(写真は当時の開発者イベントのノベルティを着て)


 

 いつだって時代を変えるのは名もなき人々の情熱だった!シリコンバレー、伝説の舞台裏! 本作を初めてサンフランシスコのRoxie Theaterで見たとき、体中を衝撃が走った。陰謀によって潰された会社とプロジェクト、潰えた夢。しかし彼らは諦めなかった。クライマックスで僕は思わず涙した。小さな劇場に歓声が溢れた。知らなかったのだ。まさか革命の当事者たちがこんな思いをしていたということを。華やかなスポットライトの影で努力した多くの人々の汗と涙。裏切りと復活。この映画は様々なことを教えてくれる。壮大な夢を描き、敢えて困難な仕事に挑む勇気を与えてくれる。あらゆるビジネスマンにお勧めしたい。

清水亮(しみずりょう)

 新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、2017年にソニーCSL、WiLと共にギリア株式会社を設立、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。主な著書に「教養としてのプログラミング講座(中央公論新社)」「よくわかる人工知能(KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。


 

 この映画にでてくる殆どの人達と一緒にシリコンバレーでMagicLinkを開発してました。当時、BillとAndyは神のような存在でしたが、集まった若者たちも個性と才能にあふれる人達で、彼らと一緒に仕事できた数年間は人生でもっともエキサイティングな期間だったと思います。

 今のiPhoneのようなものを、1990年台前半の技術で作ろうとしていたので、今から思えば明らかに早すぎたのですが、その後の関係者の活躍を見ると、ビジョンは間違っていなかったことがわかります。

 この映画は、その雰囲気、高揚感と挫折、を追体験できる貴重な作品です。また、後にiPod, iPhone, Nestなどを開発した Tony Fadellの青春物語として楽しむこともできます。失敗してもまた蘇るというシリコンバレーの精神は今の日本にも必要なものだと思います。

鈴木直也(すずきなおや)

 当時、ソニーにてGeneral Magicの技術を使った製品 MagicLinkを担当。ブログ “Good Old Bits” 著者。(写真は去年、来日したMegan Smithさんと)


 

 スティーブ・ジョブズと共にMacを生み出した伝説のチームメンバーを中心にIT業界のレジェンドが集結。とてつもなく大きな夢を見せ、とてつもなく大きな失敗をして散っていった。これはそんな会社の物語。'90年代には大きな夢を語り消えた会社は他にも多いが、General Magicは格別な存在だ。

 今日、世界人口の半数以上が、思い立った瞬間に世界の情報が手に入る魔法のクリスタルをポケットに忍ばせているが、そのビジョンをいち早く描いたのも同社なら、そのクリスタルを世に広めたのも同社で育ち輩出された人材だ。間接的ではあったがGeneral Magicは世界を変えたのだ。

 私もこれから何か凄いことが起きそうだという熱気が溢れていたタイミングで同社を訪れ、映画の出演者らにも直接会った。映画を観て当時の興奮が蘇ってきた。彼らが夢に没頭する姿や、諦めずに続ける姿勢は22世紀をつくる若者にも観てもらいたい。

林 信行(はやし のぶゆき)

 テクノロジージャーナリスト/コンサルタント。1990年から社会の風景を変えそうなテクノロジーの最新トレンドを取材し発信。General Magic社も取材しニュース記事などを通して紹介している。



■映画 「GENERAL MAGIC」
■上映時間:およそ90分
■監督:サラ・ケルーシュ、マット・モード
■プロデューサー:マイケル・スターン、レイノルド・ディシルバ、ジョン・ジャナンドレア
■製作:Spellbound Productions II
■配給:株式会社角川アスキー総合研究所
■仕様:英語音声・日本語字幕
■受賞:ナパバレー映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞
モンタナ国際映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞
ロサンゼルス映画賞:最優秀ドキュメンタリー賞
ウィリアムズバーグ独立映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞
アーバイン国際映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞、最優秀トレイラー賞
フェニックス映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞
サンタクルス映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞
Copyright(c) 2019 Spellbound Productions II LLC All rights reserved.

※学生や企業の若いスタッフに映画『GENERAL MAGIC』をより気軽に鑑賞していただける学校内・企業内向けのオンライン上映・セミナーが可能です(お問合せは seminar@lab-kadokawa.com まで)。

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン