「美声」ってどういうこと?
歌手・女優の上野優華さんと、“ウワサで聞きつけた面白いもの”を試してみる新連載企画“上野優華 ウワサの〇〇試します”の第3回。今回のテーマは、「美声とは何か?」です。
美声の定義から調べてみましょう。大辞林の第三版によれば、美声は「美しい声」「よい声」ということです。難しいテーマだと思います。
声がいいと感じるかどうかは、主観に委ねられますよね。美声と言って想像されるのは、鳥の鳴くような、とか、鈴が鳴るような、と表現される、透明感と豊かな表情を持った歌声を指すでしょうか。オペラのソプラノ歌手のような声を想像する方もいるかもしれません。
また、パンクロックのシンガーのような「音楽的には美しく感じられるが、きれいという言い方は合わない、潰れていたり、割れていたりする声」という方向性の声もありますし、その感じ方も千差万別。明確に定義するのは、不可能です。
ですが、ここでは「美声という表現が似つかわしいと、多くの人が思うであろう声」という方向で考えてみましょう。
この連載に出演してもらっている上野優華さんは、キングレコード×講談社主催のボーカルオーディションにおいて、1万人を超える応募者の中からグランプリを獲得し、最近では「好きな人」という楽曲のMVがYouTubeで400万回再生に迫り、1500件を超える共感コメントが届くほどの経歴の持ち主。美声の持ち主であることが公に証明されていると言って過言でありません。個人的にもライブを拝見しましたが、まさしく深みのある美声です。
ナチュラルな歌声をコンデンサーマイクで録音
今回はご自身の楽曲『こっちをむいて(作詞/作曲:コレサワ)』を1コーラスを歌っていただきました。バラード調の楽曲で、最新のミニアルバム「今夜あたしが泣いても」に収録されています。
(三密に気をつけながら)会社の会議室を借りて機材(DAWを動かすためのパソコン、マイクの音をパソコンに入力するためのオーディオインターフェース、微細な歌声を録音できるコンデンサーマイク、反響を抑えて歌声をダイレクトに集音するためのマイクリフレクションフィルター)を設置し、簡易的なレコーディングルームにしました。
コンデンサーマイクを使うと、服の擦れた音や、机と爪がぶつかるような些細な音も録音されてしまいます。録音中は、スタッフも全員シンとして、上野優華さんの歌声だけが響きました。
オケのないアカペラで聞く上野優華さんの歌声は、まさに聞き入ってしまうような美声で、繊細にコントロールされたビブラートや、ピタリとキーが合った歌声は心に染みます。上野優華さんは普段は明るいキャラクターですが、歌っている時の真剣な表情は人が変わったようで、このギャップも彼女の魅力となっているのでしょう。
聴きながら感じたのは、そうした雰囲気作りというのも「美声である」と人に感じさせる条件であるということです。「音」のみに着目すれば視覚情報は関係ないはずですが、歌手が歌っている姿、身振り、表情が、聞き手の心情に影響することは言うまでもありません。歌の聞き手が人である以上、「雰囲気」も、美声を作る要素のひとつであると言えるでしょう。
周波数メーターに通してみる
さて、録音した歌声をDTMの周波数メーターに通してみましょう。
こちらがDAWに歌声を取り込んだもの。『こっちをむいて』の1コーラスの歌詞は以下です。
あたしが一番好きな季節と
おんなじ名前の君が好き
あなたが一番好きなあの子と
よく行く店には行きたくない
たった一人を選べないなんて
あなたはかわいそうな人ね
でもたった一人に選ばれない
あたしもかわいそうな人だわ
ねぇ「こっちだけをむいてよ」
って言いたいよ
恋をしちゃって もう選べなくて
あたしは動けないまま
どうして
たまにしかみれないその寝顔が
寂しそうに見えるのかな
今夜あたしが泣いても
夢の中にいてよ
「あたしが」で始まるAメロ、「たった一人」で始まるBメロで相手との関係性を描き、「ねぇ」からのサビで抱えていた感情を情緒的に歌い上げるという構成ですが、波形を見ると、Aメロが静か、Bメロですこしずつ芯が出てきて、サビで波形が激しく上下するという様子が分かります。
上野優華「この曲は、私が大好きなシンガーソングライターの「コレサワ」さんに提供して頂いたラブソングです。2人でLINEでやり取りしながらテーマを決めました。
一番になれない女の子の誰にも言えない切なさと涙を詰め込んでいて、私も歌ってて泣きそうになる曲です……。呟くように、囁くように。でも心の中では大泣きしてます! くらいの勢いで! を心がけて歌っています(笑)
この曲のコーラスが結構気に入ってるので、ぜひ音源を聴いてくださる際には、耳を澄ませてみてください! 」
人の声は電子楽器とは異なり、さまざまな帯域が同時に出る複雑な帯域特性を示しますが、上野優華さんの歌声は、低く深みのある音と、高音域の透き通った音が同時に出ているような不思議な印象を与えます。
上の画像は、サビのあたりをメーターに通した結果です。250Hzあたりから600〜700Hzにかけて、なだらかに山があり、さらに8000Hzから10000Hzあたりにも山がありますね。中域の強い芯の部分と、中高域の透明感がバランスよく飛び出していることが、メーターからもわかります。キーによって山になる帯域は変化しますが、中域の強さ、それに近い勢いで出ている中高域には明確な特徴があります。
帯域の特性は歌い手によって大きく異なりますが、声を作っている周波数のバランスも「美声」であると感じさせる条件でしょう。
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