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アスキー編集部、在宅ワークはじめました 第20回

自宅リモートワークのためにデジタル機器を買う

2020年05月25日 14時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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40年前、21世紀は通信とコンピューターで在宅勤務が可能になると書かれていた

ソーシャル・ディスタンス安全リモートワーク環境でのお仕事のようす

 米国では「シャットインエコノミー」(Shut-in Economy)と呼んだりしている消費の変化と新しいライフスタイル。私も、ほぼ2カ月ほど自宅でリモートワークしているが、「在宅勤務」を新聞検索をしてみたら『日経新聞』1981年1月1日朝刊にでてきた。

 「21世紀へ浮沈のドラマ――成長著しい産業、成長鈍る産業」という元旦特集に“在宅勤務の増加”というくだりがある。同じ日経の1981年11月27日朝刊の「サラリーマンライフ特集――わが家でできる情報革命」にも、21世紀には「電子機器に囲まれたエレクトロニックコテージに住み、在宅勤務が可能」とあり、「書庫一杯の蔵書や何十冊もの百科事典セットに代わって、ブラウン管とプリンターがついたデータバンク端末機一台が、書斎の風景になるかも知れない」ともある。

 そんな、40年前には21世紀に“増加”するとしてそのビジョンまで描かれていた在宅勤務だが「どうもいまひとつやって来ないなぁ」というのがつい先日までの状況だった。それが2020年の4月になると、いきなり「やってくださいね」(1週間の準備期間もないけど)という政府要請がきたのはご存じのとおり。

 ということで、私が、日経新聞に書かれていた“エレクトロニクスコテージ”とはいかないもののリモートワークに合わせて導入したり役立っているデジタル機器を紹介したい。米国の調査資料(※1)では、「巣ごもり消費」の代表的なものの1つは家庭で使うITオフィス機器だそうだが、ここではもう少し視野でとらえてみよう。

AKG K240 STUDIO-Y3

耳をすっぽり覆うスタジオ・モニターヘッドホンK240 STUDIO-Y3

 自宅リモートワークでは、会社で仕事中に使うのよりも長時間にわたってヘッドホンをしている。そんなわけで、どうしても耳への負担がかかってくる。ということで、最初に購入したのが(これ自体はデジタル機器ではないのだが)スマホやPCに繋いで使うヘッドホン。むかし使っていた耳をすっぽり覆うタイプのヘッドホン(パイオニアのSE-DIR1000Cという赤外線ワイヤレスヘッドホン)がえらいラクだったのを思い出したのだ。

 探してみるとオーストリアの老舗メーカーのAKG(アーカーゲー)の「K240 STUDIO-Y3」が耳すっぽり型である。ドルビー対応のSE-DIR1000Cとは対極ともいえるモニターヘッドホンということで、忠実な音の再生をめざしてつくられている。「セミオープンタイプ」というのも耳への負担が少ないかもしれない。その分音漏れは予想されるが会社や電車の中ではないので気にすることはないでしょう。

 このAKGのヘッドホンが、そのスペックからは破格の6,230円というわけでヨドバシカメラのネット通販で購入。黒に金色のレトロなデザインは好みの分かれるところだが、個人的には限りなく満足している。なお、ヘッドホン側がミニXLR端子になっているので付属の3メートルから80センチの短いケーブルに変更して使っている。

Avegant Glyph AG101

 「ソーシャル・ディスタンス安全リモートワーク環境」と称して@MobileHackerzさんが、広々とした緑の芝生の上で使われているのを見て真似して導入してみたのが「Avegant Glyph」(アバガント・グリフ)。2016年発売とちょっと前のビデオヘッドセット(ヘッドマウントディスプレイ)だが、HDMIでPCにつないでやればそのまま外部モニターとして使える。実売価格が2万円ほどまで下がってきていることもポイントだ。

 家の中で仕事するならふつうに液晶モニタで使えばよい。ところが、ソーシャル・ディスタンスな屋外の太陽光の下でとなると液晶モニターは見えにくい。そこで、超ミニノートPC「OneMix 3S」を解像度を2560×1600でこのヘッドセットを繋いでいる。画面がきわめてハッキリ見えるし小さな文字も読める(網膜投影と書かれていることがあるが720pのDLPを採用)。冒頭の写真の屋上のガーデンチェアのスタイルでもちゃんと仕事ができている。

太陽光の下でも画面がハッキリ見えるだけなく、こんな超ミニノートPCでも前かがみになって覗き込むことなく自由なポジシンで使えてしまう。

 私のように文字を書いたりネットなどで調べものをしたり映像を見たりするのに使うには十分な操作環境といえる。VRグラスのようにひたすら視野を覆うのではないので、鼻の下から手元のキーボードや飲み物のグラスなどは見えるのでいちいち外すことも少ない。本体で3段階の輝度調整ができるが疲労低減のためにさらに輝度を落としたい人はDDC/CI非対応でも調整できるFree Monitor Managerを使うとよい。

Roland Aerophone mini AE-1

管楽器型の電子楽器エアロフォンミニはサックスまたはリコーダーの運指で超ラクチン

 通勤時間がなくなったぶんは時間もあるし、自宅にいてストレス解消も必要という人におススメなのがローランドの管楽器型の電子楽器「Aerophone mini」だ。2016年に発売された「Aerophone AE-10」はどこかウルトラ怪獣を思わせるボリューミーなデザインだったが、このAE-1は、コンパクトかつシンプルな入門機。音色は、サックス、フルート、クラリネット、トランペット、バイオリン、ソー・リード(ノコギリ波のシンセサイザー音)を選べる。お値段は3万5000円ほどだ。

 電子楽器ならヘッドホンを繋げば自分にしか聴こえないので、どんなふうに吹いても家人やご近所に迷惑をかけることもない。左手親指の“オクターブキー”で、管楽器では苦労しがちな高音まで最初からラクラク演奏できて「俺ってうまいなー」と勘違いしそうになる。

 この限りなくお気軽な楽器で楽しいのは、ほぼ「鼻歌」の世界だ。自分の好きな映画のテーマ曲、たとえばJacques Tatiの映画『Play Time』のテーマ曲なんかをあてずっぽうにやるといい。うまくフレーズを思い出せなかったら本体とスマホをBluetoothでつないでYouTubeで予告編映像を聴いて重ねてみる。いまどきMP3ファイルから楽譜を書き起こすツールなんてのもあるが、あまり本気にならず「人生は遊び時間!」(『Play Time』のコピー)とやるのがよいでしょう。

Withings Body+

スマート体重計のBody+とキュートな活動量計ウォッチのMOVE。Withingsからは血圧計も出ているのだが残念ながら国内販売されておらず。

 家から出ない生活をしていて体重が3キログラムもふえてしまった人の話をきいた。私の場合は、もともと歩くのが好きなので人気の少ないところを歩きまわっているが、それでも体調は気になる。そこで重宝しているのが、スマート体重計だ。Withingsの活動量計を愛用してきたので、同じアプリで一括管理できる同社の「Body+」を使っている(これはコロナよりだいぶ前から=実売は1万円ちょっと)。

 Withingsは、一時期ノキアに買収されていたフランスのベンチャーだ。その活動量計ウォッチは、デザインがカワイイ上にボタン電池1個で何カ月も動くのが特徴(Withings Goというモデルはまる1年以上稼働した)。Body+は、体重のほか、身体組成として「体脂肪率」、「体水分率」、「骨量」、「筋肉量」、そして「MBI」が計測される。体重計とスマートフォンの接続は、無線LANかBluetoothで接続。日本メーカー品のパターンを考えるといかにも面倒に聞こえるが迷うことなくなんとなく記録されていくところがよい。

 家族など複数人で使う場合にはどうするのか? これが体重をもとに自動的に誰が乗っているかを自動判定。同じくらいの体重の人がいる場合、乗ってから体を傾けて表示される名前で選ぶようになっている(なかなかよいセンス)。本体にも小さなデスプレイがあって、体重の数字のあとに1週間分の折れ線グラフで増減が表示されるのはよい。身体組成の数字のあとに「天気予報」が表示されるのもかわいい。同社によると、目標を設定して毎日体重をはかる人は平均して4倍以上減量に成功しているとか。

IT後進国日本のこれからを考えたい

私の自宅リモートワーク架設書斎。ポリプロピレン製の整理ケースにDoITで買ってきた板を渡してある。椅子の上の黒い座布団状のものはゲルクッション。

 「在宅勤務」について調べていてちょっと驚くくだりがあったので最後に紹介しておくことにする。在宅勤務という言葉がキーワードになったらしい、やはり1981年の『日本経済新聞』(10月28日朝刊)の「経済特集――技術革新とどう共存、押し寄せる高齢化の波」という記事に次のようなくだりがある。

 欧州諸国では「マイコン革命は雇用機会を奪うもの」という悲観論が強い。

 これに対して、通産省が学識経験者らにまとめさせた「マイクロ・エレクトロニクスの雇用に与える影響」という報告書が紹介されており、OECDに対して「ジャパンレポート」という名前で提出されたという。その内容は、次のようなものだった。

 「マイコンの普及に伴い、ソフトウエア開発技術者の大きな新しい雇用機会が生まれており、その省力化・自動化に伴う失業問題は、わが国の終身雇用制度や企業内労働組合の風土からみて心配ない」

 なんと、日本は1981年の段階ではマイコンの導入についてとても前向きに考えていたのだ! ところが、その後の日本は企業や学校教育でのパソコンの導入については欧米諸国に対して大幅に遅れることになる(冒頭の新聞記事にあんなふうにあったのにだ)。さらには、ITは省力化手段としてしかみなされず1990年代のネットとイノベーションに取り残された。つまり、復興はITを根本的に見直すことにかかっている。自宅リモートワークが、その本当に最初のささやかな一歩になるとよいのだが。

注釈

  1. https://1010data.exabel.com/covid-19/

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。平成最後の日、NHK『ゆく時代くる時代』にガジェット鑑定士として出演。著書に、『近代プログラマの夕』(ホーテンス・S・エンドウ名義、アスキー)、『計算機屋かく戦えり』など。

Twitter:@hortense667 Facebook:https://www.facebook.com/satoshi.endo.773

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