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濃密な国際交流授業を完全オンラインで実現するWith The World

世界中の子どもたちが対話しながら社会課題に取り組むプラットフォーム構築を目指す

連載
このスタートアップに聞きたい

 海外とのコミュニケーションは、言語の違い以上に文化的な差異から誤解を生みやすい。グローバルで活躍する人材育成には、さまざまな国や地域の人と直接知り合い、意見を交わす経験を積むことが大切だ。

 株式会社With The Worldは、世界中の学校をオンラインでつなぐ国際交流プログラム事業を展開している。中学・高校・大学向けのオンライン授業に加え、この春からは、小学生を対象に自宅からオンラインで国際交流できる個人向けプログラム「Chat Time」もスタート。コロナ禍によって従来からの価値観が転換されている現在、同社代表の五十嵐 駿太氏に話を伺った。

全10回のオンライン授業で国際交流を体験

 With The Worldが提供する中学・高校生向けのオンライン国際交流授業は、日本と海外の学校の同級生のクラスをSkypeでつなぎ、両国の抱える課題についてディスカッションするというレベルの高い内容となっている。プログラムは全10回構成で、各国4人ずつの学生がチームを組み、興味のあるテーマについて関連したNPOにインタビュー調査をし、仮説を立て、課題を解決するためのアイデアを発表する、という内容だ。

 生徒同士のコミュニケーションは英語で行ない、各チームにはWith The Worldのインターン生がアシスタントとして通訳をサポートするが、基本的には生徒同士が主体で議論を進めていく。言葉が通じなくても子どもたちはすぐに仲良くなるが、プロジェクトを遂行するのは簡単ではない。

 「海外の生徒と共同作業を進めていく過程で、きちんと確認や復唱をしなかったり、ミーティングの最初にゴールを決めなかったりすると、お互いに認識のズレがどんどん広がっていきます。そのズレがどのチームでも起きて、すごく苦労をします。ですが、その認識のズレを解消する方法を身に付けておくことは、将来、海外と仕事をするときに必ず役に立ちます」と五十嵐氏。

 プログラムを体験した日本の生徒からは、「インドネシア人のコミュニケーション能力の高さと明るさに助けられた」という感想が得られたという。日本人はシャイなので、始めのうちは発言が少ない。インドネシアの生徒は英語が苦手でも積極的に発言し、レスポンスがうまい。つたない英語でも伝わった感覚がうれしくなり、徐々に発言量が増えて、チームビルティングがうまくいく。対して、日本の生徒はプランニングがうまく、プロジェクトの進行を引っ張っていける。インドネシアの生徒へのインタビューでは、「日本人からタイムマネジメントを学んだ」との感想が返ってきたそうだ。

海外の同級生とチームを組み、ディスカッションしながら社会課題に取り組む「オンライン国際交流授業」

カリキュラム、機材、現地とのやりとりをパッケージで提供

 通常展開されているような国際交流授業は、学校と学校が直接連携する形が主流で、両校の教師が連絡を取り合って授業を準備しなくてはならない。コミュニケーションの負担に加えて、カリキュラムの作成、機材やソフトウェアなどの環境の設定なども現場の教師の大きな負担になっていた。

 With The Worldのプログラムでは、ヘッドセットなどの必要な機材とカリキュラムなどは同社が提供するので、学校側はネットに接続するPC環境があれば、すぐに導入できる。また、相手国の学校とのやりとりには現地語でアプローチができる海外在住メンバーが介在することで、学校側に負担をかけず授業を進められる。さらに、海外の語学学校やNGOと連携して、オンライン授業の相手国を訪問して、現地の社会課題を体感できる海外スタディツアーもWith The Worldでは提供している。

 現在は、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、カンボジアの4ヵ国で展開。昨年度は、新渡戸文化学園の中学校と関西学院高等部で実施され、2020年度は新型コロナの影響で一学期の実施は見送られたものの、9月以降には新たに兵庫県内の私立校2件と県立高校でも導入される予定だ。さらに、来年度は大学での実施を目指している。

 少子化が進むなか、学校が生き残るにはグローバル化やブランディングが不可欠だ。With The Worldでは、保護者向けの授業風景の撮影、文部科学省に提出する書類、プレスリリースやPVの作成なども請け負っており、そういったサポートの評価も高い。

オンライン授業の相手国を訪問する「海外スタディツアー」

自宅から世界中の子どもたちとつながれる「Chat Time」サービス

 今年は新型コロナの影響で、多くの学校で海外研修や修学旅行が中止になってしまった。そこでWith The Worldでは、在宅や教室で海外研修旅行を体験できる「オンラインスタディツアー」をフィリピンと共同で作っているところだそう。映像だけでなく、現地の人のインタビューや料理体験などができるプログラムとして、1日または2日のバージョンで提供していく予定だ。

 またこの春からは、休校措置を受けて自宅待機をしている小学生向けに、国際交流教室「Chat Time」サービスを開始。毎週土曜日にベトナム、インド、インドネシア、ロシア、日本、タイの6ヵ国の子どもが参加して、ディスカッションをする「国際交流クラス」を開いている。

 加えて、日本の小学生向けには、「準備クラス」として火曜日と木曜日に英会話の講座も開催。一般的な英会話レッスンと異なり、土曜日のディスカッションで話したいこと、聞きたいことを聞き、そのための英会話を学ぶという実践的なスタイルだ。各授業は約40分で、毎回500円のワンコインで参加できる手軽さも魅力。土曜日の国際交流クラスには、日本人が約20名、海外からは20~30名が集まり、毎回50名前後が参加しているそうだ。

「Chat Time」サービスは、Web会議ツール「Zoom」で実施

世界の教室がつながるプラットフォームへ

 株式会社With The Worldは、2018年4月に代表の五十嵐氏が設立。起業のきっかけは、大学生のときに世界の貧困や教育問題に関心を持ち、約5ヵ月間、テニスコーチとして東南アジアの各地を回り、子どもたちと交流したこと。この体験から、日本の若者に国際社会の課題を直接知る機会をもってもらうため、世界各地の学校をつなぐプロジェクトを考案する。まずは事業立ち上げのノウハウを学ぶために、株式会社パソナに就職し、営業と6つの新規事業開発に携わった。事業立ち上げのなかで、さまざまな国々の人と交渉した人脈や経験が現在の事業で非常に役に立っているそうだ。

 最後に、五十嵐氏に今後の展開を聞いた。

 「今はインドネシア、ミャンマー、フィリピン、カンボジアの4ヵ国ですが、さらに海外のネットワークを増やしていきたい。また来年には、3ヵ国以上の学校を同時につないでディスカッションする授業を実施したいと考えています」

 目標は、すべての国の教室がオンラインでつながること。海外の社会問題について、すぐに現地の子どもたちと交流しながら勉強し合えるプラットフォームの構築を目指している。

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