結果を見る限りはWSL2が圧勝だが……
WSL1とWSL2の結果を、以下の表とグラフに示す。
ドライストーン、ウェットストーンは、CPU性能そのままなのでほとんど差がない。WSL1もWSL2もアプリケーション側のコードを実行しているだけなら速度は変わらないと思っていいだろう。しかし、システムコールやファイルアクセスになると、大きく差が出る。
これはWSL1では、Windowsカーネル側でLinuxカーネルのエミュレーションをしているからだ。特にカーネルの機能呼び出しを扱う「excecl」「Process Creation(spwan)」では大きな差がでる。WSL2では、仮想マシン内のLinuxカーネルのみの処理で完結するのに対して、WSL1ではLinuxカーネルが存在しておらず、カーネル機能呼び出しをNTカーネルの機能呼び出しに変換して実行している。このため、プログラムの起動に関してはまったく違った処理になり、大きな差が出たようだ。
逆に、システム機能の呼び出しでもプロセス間のパイプによるデータ転送やフォークして作られる2つのプロセス間でのパイプによるデータ転送をさせ、プロセス切り替えの効率を見るようなベンチマークは、カーネルの違いによる差はあるものの、WSL1/WLS2内で実行されるLinuxコード(カーネルではない部分での実行)があるため、差は縮まっている。
ファイルアクセスについては、WSL1がNTFS上でLinuxのファイルシステムをエミュレーションしているためか、やはり大きな差がついた。このテストは、WSL1のVolFs、WSL2のExt4上で実行している。WSL2内でコードが完結するネイティブのファイルシステムとNTFS上のエミレーション(VolFs)ではやはりファイル性能の違いは大きく、速度が10倍も違っている。
シェルの実行は、ファイルも扱えば、APIやカーネル機能呼び出しも多く、これらの影響を強く受ける。そのせいか20倍という速度の違いが出た。Linux上のアプリケーションの実行効率も、この程度の差は出そうだ。ざっと調べた感じ、可能ならWSL2に移行したほうが、速度的にも有利になりそうだ。
高い性能を持つWSL2だがNTFS側ファイルのアクセス性能は低い
次にWSL側とWin32側のファイルシステムでのアクセス性能を見てみた。
こちらはLinuxに標準搭載されているddというプログラムを使って、ファイルの読み書きをする。
使ったコマンドは以下のとおり。
●書き込みテスト
$ dd if=/dev/zero of=benchfile bs=64K count=32K conv=fdatasync
●読み出しテスト
$ dd if=benchfile of=/dev/null
※書き込みテストで出力したファイル(benchfile)を読み出しテストで利用するため、この順で起動する必要がある
WSL1は、LinuxディストリビューションがインストールされるVolFsとWin32側のNTFSにアクセスするDrvFsがある。これに対して、WSL2では、LinuxディトリビューションはネイティブファイルシステムのExt4にインストールされており、Win32側へのアクセスは、9Pというプロトコルを使ったネットワークファイル共有の仕組みを使う(便宜上、これを9PFsと表記する)。
VolFs、DrvFsともにNTFS上でLinuxのファイルシステムをエミュレーションしている。このため、ファイルへのアクセス速度は、基本的にはどちらも変わりない。しかし、WSL2は、ディストリビューションをLinuxネイティブのファイルシステムとして管理しており、ここへのアクセスは非常に高速化されている。逆に9PFsを介したWin32側へのアクセスはあまり速くない。書き込みに関しては、WSL2はWSL1の67%の速度しか出せていない。さらに読み出しに関しては、4%の速度しか出ていない。1/24以下の速度でしかないわけだ。これは大きな差だ。
このことを考えると、Linux側で大きなファイルを処理するような場合、できるだけExt4側に移し、9PFs経由でWin32側のファイルを読み書きすることはできれば避けたほうがいいだろう。なおWSL2では、Win32側からExt4へのアクセスも可能なので、必要に応じて、大きなファイルをExt4側にコピーし、あとでWin32側に書き戻すといった処理をすべきだろう。
ざっと評価した感じ、可能ならWSL2に移行したほうがよさそうだ。特にLinux側で多少でも大きな処理をするような場合には、今回見たような速度差が大きく効いてくる可能性が高い。ただし、Linux側で巨大なWin32側ファイルを直接操作するような処理はファイルアクセス速度に足を引っ張られる可能性が高いため、できれば避けた方がよさそうだ。
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