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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第74回

給付金申請、マイナンバーカード求めて役所が混雑 政府が使ってほしいのはカードなのか

2020年05月11日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 役所の窓口が混んでいる。

 東京都内の区役所では通常、時期にもよるが、それほど待たされずに手続きができる。

 しかしゴールデンウィーク明けの2020年5月7日午後、東京都墨田区役所の待合いスペースは人であふれ、普段は置かれていないイスも並べられていた。

 長時間待たされているのだろうか、文庫本を読みふける人やノートPCで仕事をしている人もいる。

 区役所を訪れる人たちの目的は、おもにマイナンバーカード関連の手続きだという。

 新型コロナウイルス感染症で世界中の経済活動がほぼストップしている中、政府は日本に住む人全員を対象に10万円を配布する。

 この給付金をオンラインで申請するには、マイナンバーカードが必要になる。

 同日付のNHKの報道によれば、東京都港区役所の窓口では一時、4時間待ちの混雑が生じたという。マイナンバーカードのパスワードがわからないといった問い合わせが多いと報じている。

 そもそもオンラインで給付金の申請を受け付けるのは、窓口で人が密集するのを避けるためではなかったか。

 なぜ、こうもねじれた事態が起きているのだろうか。

●通知カードはマイナンバーカードではない

 今回の記事を執筆するうえで、行政から受け取ったカードが手元にどれだけあるのか確認した。

 他にもあると思われるが、すぐに出てきたのは運転免許証、保険証、印鑑登録証、そしてマイナンバーの通知カードだ。それぞれに異なる番号が付されている。

 いずれも番号が付与されている目的は、氏名や住所とひもづけて個人を識別するためだ。

 マイナンバーの通知カードには、12桁の個人番号が書いてある。筆者は制度が始まってからしばらくの間、通知カードをマイナンバーカードだと勘違いしていた。

 通知カードは紙製だがマイナンバーカードはプラスチック製で、申請しないともらえない。マイナンバーカードには、ICチップと顔写真もついている。

●行政の利便性は向上したが

 通知カードは2015年10月以降に、全国民を対象に配布された。

 個人に番号が付与されたのは、「行政の効率化」と「国民の利便性の向上」が目的だとされる。

 だが、あらためてこの制度の詳細を確認すると、国民ではなく行政の「利便性の向上」のためマイナンバーが付与されたとしか考えられない。

 1月24日付の時事通信の報道によれば、1月15日の時点のマイナンバーカードの普及率は14.9%。番号の通知が始まってから4年以上が経過しても、それほど普及が進んでいないことがわかる。

 一方で、行政機関は税金や健康保険などの各種手続きで、人々のマイナンバーをどんどん活用しているようだ。

 税金だけを見ても、国税庁が所管する税もあれば、都道府県や市町村が所管する税もある。

 印鑑登録カードや運転免許証、保険証などにもそれぞれ別の番号がふられているのは、行政が縦割りだからだ。

 マイナンバー導入以前、税金や国民健康保険、国民年金など複数の行政機関が関わる手続きでは、各役所は氏名と住所などから個人を識別していたという。

 行政機関で働く人たちの業務負担は重く、手続きにかかる時間も長くなる。

 こうした課題を解消する目的で登場したのが、マイナンバーだ。

 氏名や住所に加えて、全国民に番号がふられていれば、複数の行政機関が関わる手続きは効率化できる。

 例えば、仕事場がある東京都新宿区の税務署に確定申告の書類を提出し、自宅があるさいたま市役所で国民健康保険の手続きをした人が、同一人物かどうかを確認する手間は減る。

 税務署側の立場に立つと、報酬を支払った企業と受け取った個人を結び付ける作業も簡単になった。

●納税者側のメリットは

 一方、番号をふられた納税者側には何かメリットがあるだろうか。内閣府のウェブサイトでは次のような利点が挙げられている。

● コンビニで住民票や印鑑登録証明書などの書類を受け取ることができる
● 確定申告がオンラインでできる
● 行政の窓口に行かなくても、一部の申請をオンラインでできる
● 身分証明書として使える

 役所の窓口に出向く機会が少しは減りそうだが、「国民の利便性の向上」とまで言えるだろうか。マイナンバーの導入で利便性がより向上したのは、行政側だろう。

 納税者にとっては、マイナンバーは利便性の向上を実感しにくい制度だ。マイナンバーカードの普及が難航した原因もそこにあるのだろう。

●オンライン申請は必要か

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う10万円の一律給付で、多くの人がマイナンバーカードの取得に動いているようだ。

 オンラインで給付金の申請をするには、マイナンバーカードが必要だからだ。

 だが、ここでちょっと立ち止まって考えたい。

 2020年5月時点の日本では、マイナンバーカードを持っていない人が多数を占めるはずだ。

 これからマイナンバーカードを取得するには、顔写真を撮影し、オンラインや郵送でカードの発行を申請する。

 マイナンバーカードが手元に届くには、平時でも1ヵ月程度かかるという。そのうえで、オンラインで10万円の給付を申請することになる。

 オンライン申請をするには、かなりの手数がかかることがわかる。

 しかし、今回の申請方法はオンラインだけではない。

 給付の対象者には今後、市区町村から申請書が郵送で届く。申請書に振込先口座などの必要事項を記入し、振込口座や本人を確認できる書類とともに送り返す。

 コンビニに運転免許証や預金通帳をコピーしに行く手間は生じそうだが、いちからマイナンバーカードを申請するより早そうだ。

●ハードル下げる動きが加速?

 今後想定しておきたいのは、マイナンバーを使ったオンライン申請のハードルを下げる制度改正の動きだ。

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