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成果が感じられなかった「働き方改革」が“コロナ以後”に変わる可能性も

全社的な在宅勤務「最初の7ステップ」、デルが実践ふまえ提案

2020年05月07日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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在宅勤務の経験が、実感の得られなかった「働き方改革」を変える可能性も

 広域営業統括本部 中部営業部兼西日本営業部長である木村佳博氏は、コロナ以前の「働き方改革」施策についてより詳細なデータを示した。

 IT投資動向調査によると、コロナ以前における「働き方改革」施策は、「時間外労働の上限設定」(52.1%)、「ペーパーレス化の推進」(38.2%)、「ノー残業デーの徹底」(30.2%)が上位3つと、まずは社内ルールや制度の見直しを目的にスタートする企業が多かった。そして、そうした「働き方改革」を経ても、半数近くの実感は「何も変わっていない」(44.7%)というものだった。

中堅企業IT投資動向調査より、“コロナ以前”の「働き方改革」関連調査結果

 木村氏は、コロナ以前は「生産性向上」や、従業員の「モチベーション向上」「心身の健康」「定着」などを目的とした「働き方改革」施策だったものが、今回のような事態を経験したことで「一変したのではないか」と推測している。テレワーク/在宅勤務の導入が、事業継続に直結する形で緊急に推進される事態となったからだ。これを「働き方改革」の一環ととらえるかどうかはさておき、テレワーク/在宅勤務の実践経験は、多くの企業に「何かが変わった」と感じさせるだけのインパクトを持つだろう。

 「これまで『テレワーク/在宅勤務でも仕事ができるのか?』と疑問に思っていた企業が、今回『やってみたらできた』経験は大きいと思う。新型コロナの終息後も、元どおりに戻るのではなく『やれる部分はテレワークでやろう』となる企業が出てくると考えている」(木村氏)

全社規模でのテレワークで取り組むべき「最初の7ステップ」を提案

 前述したとおり、デルテクノロジーズでは3月初旬から全社規模での在宅勤務を開始している。木村氏は、自社の実践で突き当たった“壁”や経験則もふまえつつ策定したという、全社規模のテレワーク/在宅勤務導入に向けたIT導入の「7ステップ」を紹介した。デバイス/通信/コミュニケーション/セキュリティの4つに大別される。

全社規模でのテレワークを実現するための「最初の7ステップ」

 まず「デバイス」=モバイルPCの準備では、機密を含む紙資料の印刷や自宅保管が推奨されないことから外付けモニターの有無により業務効率に差が出ること、個人の自宅PCを業務利用する場合はセキュリティリスクを下げるためにOSの刷新(Windows 10導入)が必須であること、Web会議向けにヘッドセットの利用が推奨されることなどを挙げた。

 なお木村氏は、テレワーク環境に適したPCや周辺機器のセット商品「テレワーク・デイ パッケージ」を3月から提供しており、月額レンタル型のDFS(Dell Financial Services)パッケージや導入サポート、保守サポートも用意していると紹介した。

デバイス=モバイルPCの準備におけるポイント

 「通信」=Wi-Fi(インターネット接続)については、デルでも若手従業員を中心に「自宅に通信環境がない(固定インターネット回線を引いていない)」という声が上がったという。デルでは、これに対応するためにモバイルWi-Fiルーターを配布しており、ソフトフォン(Avaya)や社内業務システム、クラウド業務ツール、さらにWeb会議ツール(Zoom)を、業務上大きな支障なく使えていると説明した。

 一方で、VPNについては、以前から導入している企業が多いものの「全社員がアクセスする前提でサイジングされていない」企業が多いと指摘する。さらに、同時接続数や帯域幅の増強にはコストもかかり、すぐに実施できるものではない。デル自身もそうした問題があったため、「運用プロセスの変更でピーク時を平準化している」と木村氏は説明した。

 「まず、常時VPNアクセスできるユーザーは、業務上それが必須であるユーザーだけに限定する。また、個々の業務アプリにVPN接続が必要かどうか判断できないユーザーも多いので、VPN不要なアプリのリストを作る。さらに、日報の記入など利用時間帯が集中しがちなものについては、部門ごとに時間帯を分けてVPN利用を分散させる」(木村氏)

既存のVPN環境は、全社員がテレワークを行う前提でサイジングされていない点が課題

 「コミュニケーション」のツールに関しては、すでにさまざまなツールが市場に存在するものの、木村氏は「最低限必要なものは“3つ”」であり、それに絞り込むことでコストを抑制できると語る。その3つとは「Web会議」「グループチャットツール」「メッセンジャー」だ。

 「Web会議ツールを使えば、社内のミーティングや朝会、顧客の打ち合わせまで対応できる。グループチャットツールは、メールだとスレッドに分散してしまう情報を一元化するために必須であり、デル社内でも非常に活用されている。メッセンジャーは、Web会議やグループチャットのツールに統合されているものも多い。いずれにせよ、テレワークでも『コミュニケーションを密にすること』が重要だ」(木村氏)

多様なコミュニケーションツールがあるものの、3つのツールがあれば最低限のコミュニケーション環境が整えられると説明

 残る3つのステップは、いずれもより高度なセキュリティの実現を目指すものであり、ここまでの4ステップと比べると中長期的な取り組みとなる。

 まずは「リモートデスクトップ(Windows RDS)」の活用だ。リモートワーク/在宅勤務の環境において、情報漏洩対策としてVDI(Virtual Desktop Infrastructure)の採用を検討する企業は多い。「ただし、VDIは大きなコストがかかるため、RDSがあらためて見直されている」と木村氏は説明する。VDIと比べて、RDSは「現実的な」コストと工期で実現できるからだという。

 また「NAS/ファイルサーバー」の統合整備も重要だという。RDSやVDIでユーザープロファイル(ユーザーの個人環境)を格納する必要があるほか、これまで部門ごとで勝手に作られていたいわゆる“野良NAS”のようなものもすべて1箇所に統合することで、効率よくセキュアな環境が構築できる。

 最後の「シンクライアント」は、上述したRDSまたはVDIの環境を構築したうえでの話となるが、在宅勤務側のローカル環境には一切データを残させない仕組みだ。木村氏は、こうしたセキュリティ面のメリットに加えて、「在宅勤務の場合、モバイルPCが故障したからといってIT管理者が訪問するわけにはいかない」ので、端末管理不要のシンクライアントが有益だと述べた。

 なおテレワーク/在宅勤務を実施するとPC周りのITトラブルが増え、しかもふだんは現場部門でサポートしてくれていた人もいないために「IT部門総出でヘルプデスク対応することになる」ケースも多いという。こうした課題を解消するために、デルでは他社製PCを含めたヘルプデスクの一次対応を請け負う「PCマルチベンダサポートプログラム」を、2020年7月末まで無償提供すると発表した。Windowsや「Microsoft Office」の一般操作や標準機能、インターネット接続などのトラブルに対応するという。

Windows PCやOffice周りのヘルプデスク対応をデルが請け負う「PCマルチベンダサポートプログラム」を提供開始

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