上位CPUほど差が開く
それでは第3世代Ryzenの定格とEcoモードで性能にどう影響があるか検証してみよう。今回の検証環境は以下の通りだ。
検証に使ったCPUは3950X/3800X/3600Xの3種類。全てTDP95W以上なのでEcoモードにすると65W動作となるが、同じ65Wでどの程度差が出るのかに注目だ。前述の通りEcoモードはBIOS設定で有効化を行なっている。
| 検証環境 | |
|---|---|
| CPU | AMD「Ryzen 9 3950X」 (16コア/32スレッド、3.5~4.7GHz) AMD「Ryzen 7 3800X」 (8コア/16スレッド、3.9~4.5GHz) AMD「Ryzen 5 3600X」 (6コア/12スレッド、3.8~4.4GHz) |
| マザーボード | GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」 (BIOS F11) |
| メモリー | G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」×2 (DDR4-3200、8GB×4) |
| ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 2080Ti Founders Edition」 |
| ストレージ | GIGABYTE「GP-ASM2NE6200TTTD」 (NVMe M.2 SSD、2TB) |
| 電源ユニット | Silverstone「ST85F-PT」 (850W、80PLUS Platinum) |
| CPUクーラー | CRYORIG 「A80」 (簡易水冷、280mmラジエーター) |
| OS | Windows10 Pro 64bit版 (November 2019 Update) |
最初に「CINEBENCH R20」のスコアーを比べてみよう。Ryzen Master上で確認できた通り、Ecoモードを有効にするとCPUの消費電力や発熱に関連するパラメーター(PPT/TDC/EDC)が引き下げられる。軽い処理ではこれらのしきい値に達する前に処理が終わるためクロックに影響はないが、重い処理ではしきい値に早く到達するため、クロックが抑えられる。この理屈が実際のベンチでどう変わるか見てみよう。
Ecoモードを有効にすると定格時よりもスコアーは下がるが、シングルよりもマルチスレッド時のスコアーの方が、さらにコア数の多いCPUの方が下落率が高い。特にRyzen 9 3950Xのマルチスレッドのスコアーは19%も低下している。ただシングルスレッドのスコアーはマルチに比して下がっていないことから、CPU全コアを一気に使うような作業ほどEcoモードが効くようだ。Ecoモードを有効にした後は、どのCPUも65W動作になるが、TDPが同じでもクロックやコア数が違うので性能差はしっかりと出るのが大きなポイントだ。
続いて「blender」のレンダリング時間も検証しておこう。CINEBENCH R20よりも長時間コアに負荷をかけるため、CPUの電力制限のしきい値を超えやすくなることが予想できる。テストは「barbershop_interior_cpu」を1フレームだけレンダリングする時間を計測した。
定格とEcoモード時に明確な差がついたのはRyzen 9 3950Xのみ、3800Xと3600Xについては誤差程度といってよいが、傾向としてはCINEBENCH R20と同じだ。しかし、Ryzen 9 3950XのEcoモード時と定格時の比は、CINEBENCH R20のマルチスレッドスコアーの比よりも控えめだ。
次にこのblenderテスト中にシステム全体の消費電力を計測してみる。計測にはラトックシステム「BT-WATTCH1」を使用した。アイドル時はシステム起動10分後の安定値、高負荷時はblenderテスト中のピーク値(この場合安定値との差は僅差)とした。
ここでもRyzen 5 3600Xは定格時とEcoモード時の差はほとんど出ていないのに対し、Ryzen 9 3950Xは70W近く高負荷時の消費電力が低下している。そして定格のRyzen 7 3800Xの方がEcoモード時のRyzen 9 3950Xより消費電力で上回っている。3800Xの定格時TDPは105W、3950XのEcoモード時TDPは65Wなのだから当然だが、上位CPUであるほどEcoモードの効果が絶大であることがわかった。ただ3800Xでは微妙な差しかついておらず、95W→65Wに下がった3600Xでは変化していないので、実質のところ8コア以下のRyzenにおけるEcoモードは気休めにしかならない、とも言える。
続いては総合性能を見る「PCMark10」のStandardテストで比較する。グラフには総合スコアーのほかに、テストグループ別のスコアーも併記した。
まず総合スコアートップはRyzen 9 3950Xの定格時なのは当然として、同EcoモードとRyzen 7 3800Xの定格/Ecoモードはほぼ横並びとなった。CPU負荷が比較的低めのテストで構成されたEssentialsでは3800Xが強かったが、CPU負荷の高いDCC(Digital Contents Creation)では3950XがEcoモードであっても高スコアーを出している。結果DCCのスコアーが3950Xの総合スコアーを上に引き上げている感じだ。Ecoモードであっても3950Xなら、定格動作の3800Xをも上回るというのはCINEBENCH R20等でも示されていたことだ。
もうひとつ動画エンコード時の挙動も見てみよう。「Premiere Pro 2020」で編集した4K動画(再生時間は約3分半)を「Media Encoder 2020」でH.264で1パスエンコードさせる時間を比較する。ビットレートは 80Mbpsとした。
このテストでは定格とEcoモードの差はほとんどないと言ってよい。Ryzen 9 3950Xではわずか14秒しか開いていないが、そもそもMedia Encoder 2020のH.264エンコーダーではRyzen 9 3950Xの一部のコアしか使っていないため、Ecoモードにしなくても電力制限のしきい値を超えにくくなっているのが原因と考えられる。

この連載の記事
-
第473回
デジタル
Ryzen 7 9800X3Dと9700Xはどっちが良いの?! WQHDゲーミングに最適なRadeon RX 9060 XT搭載PCの最強CPUはこれだ! -
第472回
sponsored
触ってわかった! Radeon RX 9070 XT最新ドライバーでFPSゲームが爆速&高画質に進化、ストレスフリーな快適体験へ -
第471回
デジタル
8TBの大容量に爆速性能! Samsung「9100 PRO 8TB」で圧倒的なデータ処理能力を体感 -
第470回
デジタル
HEDTの王者Ryzen Threadripper 9980X/9970X、ついにゲーミング性能も大幅進化 -
第469回
デジタル
ワットパフォーマンスの大幅改善でHEDTの王者が完全体に、Zen 5世代CPU「Ryzen Threadripper 9000」シリーズをレビュー -
第467回
デジタル
Radeon RX 9060 XT 16GB、コスパの一点突破でRTX 5060 Tiに勝つ -
第466回
デジタル
Radeon RX 9060 XTは6.5万円でVRAM 16GBのお値打ちGPUになれたか? -
第465回
デジタル
遅れてやってきたPCIe5.0 SSDの大本命、リード14GB/秒超えのSamsung「9100 PRO」を実機レビュー -
第464回
デジタル
Radeon RX 9070シリーズの仕上がりは想像以上だったことがゲームベンチでわかった -
第463回
デジタル
Ryzen 9 9950X3Dは順当進化。3D V-Cache搭載Ryzenの最強モデルだがクセありな部分はそのまま -
第462回
デジタル
RTX 5070の足を止めた「Radeon RX 9070 XT/ 9070」レビュー - この連載の一覧へ






