スタートアップが知るべき「商標」のイロハ
「YOXO Study Seriesスタートアップのための知財戦略」レポート
横浜市関内のベンチャー企業成長支援拠点「YOXO BOX」では、スタートアップを支援するセミナーや交流会などを毎週開催している。2020年1月10日は、スタートアップ向けの勉強会「YOXO Study Seriesスタートアップのための知財戦略」を開催。株式会社メルカリ 会長室政策企画マネージャーの上村 篤氏、横浜萬国特許事務所 代表弁理士/中小企業診断士の東谷 勉氏、特許庁企画調査課から進士千尋氏と関口 嗣畝子氏を招き、商標の取り方、商標を活用したブランディングやトラブル対策について解説した。
シンプルな商標で浸透・ブランドの確立を狙う
スタートアップがユーザーに会社や製品名を覚えてもらうには、ブランドやサービスの名称やロゴをうまく活用することが重要だ。トークセッション「STARTUPs×商標」では、LINEとメルカリの名称やロゴの商標登録実務に携わった上村氏から、サービス名称やロゴを決める際の考え方や商標を権利化する際の注意点を解説した。
上村氏は、2012年にLINE株式会社の前身であるNHN Japan株式会社に入社し、知財部のマネージャーとしてLINEのサービス拡大にともなうさまざまなサービスの商標権の取得や侵害の排除実務に関わった。
また、上村氏は、2017年にメルカリに入社。現在のメルカリのロゴは、2018年にリニューアルされたものだ。従来よりもシンプルなデザインになった。ロゴアイコンは数百種類のデザイン案から選ばれ、ボツになったデザイン案は、ウェブで公開されている(リンク:メルカリデザイン)。
商標登録は、出願から登録が完了するまで約1年かかる。ロゴのリニューアルで注意したいのは、登録が完了する前に、他人がロゴを無断で使用したアプリやウェブサイトを作られる危険が発生する点だ。ロゴの切り替えのタイミングにロゴを無断使用したアプリやウェブサイトが出てしまうと、対応に苦労することになる。トラブルを防ぐため、早期審査を活用して、できるだけ早く新しい商標を取ることをアドバイスした。
スタートアップの商標トラブルを防ぐには
続いて弁理士の東谷氏は、スタートアップのよくある商標に関する失敗と知っておくべきことを過去の相談事例を挙げながら紹介した。
スタートアップは、社名や製品名の商標を取らないままで営業していることが少なくない。しかし、スタートアップは、サービスをローンチして、知名度が上がったあとで訴えられるケースが非常に多いそうだ。そうなると、すでにリリースしている商品名やパッケージの変更を余儀なくされ、大きな損失にもなりうる。
注意したいのは、特許とは異なり、製品のリリース後でも、第三者が商標を取ることができてしまうことだ。トラブルが起きてから対処するのは大変なので、商品をリリースする前の段階から専門家に相談し、製品をリリースするタイミングには商標登録を完了しておきたい。自分でできることとしては、会社や事業の名称を考え始めるときに、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」などを利用して他者の権利を侵害しないかを調べておくといいだろう。
専門家に依頼する場合のアドバイスとして、コミュニケーションがうまく取れていないと本来取るべき範囲が漏れてしまう可能性があるので、ビジネスの内容や今後の事業展開を詳しく伝えるのが正しい商標を取りやすい、とのこと。
セミナー「商標って?」
セミナー「商標って?」では、特許庁の関口氏が商標の概要、出願書類の書き方と商標登録までの流れ、商標の効力について解説した。
商標権とは、商品やサービスのマークやネーミングを財産として守る知的財産権である。商標の種類として、文字、図形、文字と図形の組み合わせ、立体商標を登録可能だ。商標権が付いていることで、商品を安心して購入し、サービスを信頼して使えるという効果が期待できる。
商標出願を行なう際には、商標とともに商標を使用する商品またはサービスを指定して、商標登録願に記載する。指定された商品を「指定商品」、指定されたサービスを「指定役務」といい、この指定商品・指定役務によって権利範囲が決まる。
出願書類を提出し、審査を受けて登録査定となり、登録料を支払うことで、ようやく商標権が発生する。通常は出願から登録まで1年近くかかるが、審査期間が2ヵ月程度短縮される「ファストトラック審査」制度が用意されており、既に製品やサービスをリリースしている場合は「早期審査」を活用するといいだろう。
商標を取得する最大のメリットは、ブランド力の向上だ。ブランド力を高めるための商標の戦略的な取り方の事例として、大手有名飲食店の商標登録状況を一例として紹介した。
商標は登録して、使い続けることによってブランド力が備わってくる。商標権を取らずにいると、第三者が密かに商標を登録し、損害賠償請求や商標の使用中止を求める警告書が届くリスクがある。このリスクを避けるためにも、早めに取っておくことが大事だ。
セミナーの後半は、「J-PlatPat」を使った商標検索の方法を説明した。
商標は自分で出願できるが、指定商品役務は出願後に原則として大きな変更はできないので、できれば事前に専門家に相談することがオススメだそう。
なお、スタートアップ向けの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」の会員向けメルマガでは商標の使い方についてのコラムを配信しているのでぜひ参考にしてほしい。