まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第66回
強い現場の次は「強い制作会社」が目標
ネット配信という神風が吹く間に強いアニメスタジオを作る~P.A.WORKS堀川社長に聞く〈後編〉
2019年12月27日 12時00分更新
強い制作現場の次は「強い制作会社」
—— ネットワーク周りに四苦八苦した2000年代を経て、最近ではアニメをネット配信サービスで観ることが当たり前になりました。それどころかネット配信サービスからの制作資金提供も珍しくありません。中国向けの配信も存在感を増しています。一方で、この状況がいつまで続くのか危惧する人間も少なくありません。こういった外部環境の変化をどう見ていますか?
堀川 今の制作費で「ようやくなんとかやっていけそうかな?」という状況なので、この海外配信ビジネスの好調から来る緩やかな制作費上昇の傾向が落ちなければいいなと思います。
そのためには、まずクオリティーを落とさず、制作会社の知名度を海外でも上げていくことが重要です。海外でも原作の知名度や、「この監督がこの制作会社で作るのなら高く買いますよ」といったブランド買いが多いようなので、内製率と企画力を高めることでしっかりとしたクオリティーの作品を作って、信用を獲得していくことが大切だろうなと思います。
また、大きく海外のビジネス環境が変われば企画が飛んだりもしますが、それを誰かのせいにして嘆いてもしょうがない。これから3年間で内製率を高め、「強い制作現場」の基礎を作ることがまずは目標ですが、その次は「外部環境に振り回されない強い制作会社」を目指したいと思います。
たとえばアニメーション作品に積極的に出資している現状のクライアントが戦略を変えたとしたら、制作会社は独自に資金調達する方法を学んで行くことでしか作り続けられないんだろうな、と思います。
そのあたりのことを、社内では若いプロデューサーたちと勉強会を始めています。僕もそうだったんですけど、ラインプロデューサーは作品を作る制作現場が楽しくて、そればかりに一生懸命になってしまうので、外部に視野を広げる機会を作ったほうがいいと思って。
—— 商品化・出版などの多角化、IPを活かして云々ではなく、あくまで制作にフォーカスしたうえで、自分たちで資金調達できるようにしていく、と。
堀川 そうです。出資だけではなく協賛やクラウドファンディングなど新しい組み合わせの可能性も探ろうと思っています。
2025年まで神風が吹き続けてほしい!
—— 昨今、アニメ業界は数年単位で環境が変わっています。ある時期は遊技機/パチンコが支えてくれていて、ある時期はソーシャルゲーム、今は中国ですがそれも流動的になってきました。配信も、サービスの勝敗が決した途端、条件が厳しくなる懸念があります。そんななか、次の変化に備えるために与えられた時間はどれくらいだと見ていらっしゃいますか?
堀川 僕にビジネス環境の未来を予測できる、そんな長けた目はありませんが(笑)、少なくともうちが今のアニメーション業界の環境で闘い続けることができる制作現場の基礎を築くまで3年、そこから外部のビジネス環境に翻弄されない強い制作会社になるのにも最低3年はかかるだろうなと思っているので、「2025年までにこうなる!」ではなくて、「2025年まで(今の情勢が)もってほしいな……!」と。
海外配信プラットフォームがアニメーション業界にもたらしたのは、先行きは不透明であれ神風だったんです。パッケージビジネスがシュリンクして『本当にこれからどうなるんだ!?』というところに勢いよく吹いてきて、『助かった、これでしばらくは生き延びられる!』と。僕らは闘える体力をつけて、新しいモデルにも頑張って挑戦していくので、そこまではなんとか風が吹き続けてほしい……お願いです(笑)
—— ドッグイヤーと言いますけど、ITは本当に早いですからね。今回、「P.A.WORKSさんではすでに次のステップをにらんだ計画が動き出している」ということがわかりました。そして2月29日には『劇場版 SHIROBAKO』が公開されますね。
堀川 20周年記念的な作品として。
—— 個人的にとても楽しみにしていて、前売り券も買って準備しています。本当にメタな話ですよね。『SHIROBAKO』を作りながら『SHIROBAKO』をやっているような感じ。
堀川 そうなんです。「リアル『SHIROBAKO』をやっていると思って経営すればいいんだ!」とか、そんな感じです(笑)
—— そう思えば苦しい局面も乗り切れる、と。
堀川 万策尽きるネタのストックが増えたと思えば楽しめるかもね(笑)
—— ありがとうございました。
この連載の記事
-
第106回
ビジネス
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる? -
第105回
ビジネス
AI生成アニメに挑戦する名古屋発「AIアニメプロジェクト」とは? -
第104回
ビジネス
日本アニメの輸出産業化には“品質の向上よりも安定”が必要だ -
第103回
ビジネス
『第七王子』のEDクレジットを見ると、なぜ日本アニメの未来がわかるのか -
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる - この連載の一覧へ