技術もエモも豊作だった「JAWS FESTA 2019」 第3回
エンジニアの魂を揺すぶるJAWS FESTA 2019もう1つの基調講演
思い切り飛んでみれば、雲の向こうに青空が広がっている
2019年11月15日 07時00分更新
北の大地で開催されたJAWS FESTA 2019 SAPPOROでは、基調講演が2セッション用意されていた。午後最初のセッションとなった2本目の基調講演では、クラウドファームの田名辺健人さんが「雲の向こうは、いつも青空」と題して、クラウドが当たり前になった時代のエンジニアの生き方について語った。
初代AWS侍、ついカッとなって起業する
田名辺さんはかつて都内の企業に勤めており、地元北海道にUターンしてきた経歴を持つ。その後は第一次産業にITを活用するファームノートなどでクラウドエンジニアとしての腕をふるっていた。2012年の初代AWS侍にも選ばれており、クラウドエンジニアとしてもコミュニティリーダーとしても活躍は折り紙付きだ。JAWS-UG on ASCIIにもインタビュー記事が掲載されているが、今回は初めて見る肩書きでの登壇だった。「ついカッとなって会社をつくっちゃいました」(田名辺さん)からだ。
クラウドファームを2019年10月に起業したばかりという状況での登壇だった。田名辺さんが起業したクラウドファームは、北海道石狩郡当別町に本社を置いている。地名を聞いても場所がピンとこないかもしれないが、札幌から電車で1時間ほど北東に向かったあたりに、当別町はある。クラウドなら東京じゃなくてもいいし、札幌である必要さえない。自分が働きやすい場所に、会社を作ればいい。カッとなってではなく、冷静に考えてから作る方がいいとは思うが。
田名辺さんは自己紹介と近況報告ののち、会場に向けて「クラウドを使っていますか?」と問いかけた。JAWS FESTAの基調講演会場だけあり、ほぼ全員が挙手したのを見て、「作っているシステムになくてはならないものだから、多くの方が使っていますよね」と述べた。
「ではシステムとは何でしょう? システムとは手段であって目的ではありません。ではシステムの向こう側には何があるのでしょうか。それはユーザーです。そのユーザーは、皆さんが作ったシステム喜んで使っていますか? 100%YESと答えられる人は、この先を聞かずに帰って良し。私自身も精進しているところです」(田名辺さん)
縁を広げてビジネスを拡大してきたBREAKTHROUGHの北原さんをゲストに招聘
続いて田名辺さんは、エンジニアを取り巻く環境の変化を振り返った。2010年代の初期は、クラウドの衝撃にさらされた。「クラウドの衝撃―IT史上最大の創造的破壊が始まった」という書籍もヒットした。
「クラウドはスケーラビリティの民主化を引き起こしました。それまでは膨大な資産を持つ者にしか許されなかったシステムのスケーラビリティを安価に、手軽に、誰にでも持てるようになりました」(田名辺さん)
AWSが最初のサービスS3、EC2をリリースしたのが2006年。その後2009年までは余り大きな変化を見せなかったが、2009年から少しずつサービス拡充のスピードを加速させていく。そして2010年2月23日、JAWS-UGの初会合が行なわれた。2010年代は日本におけるAWSの浸透、コミュニティ形成の時代と言える。いまやAWSは毎年4桁にのぼる新サービス、バージョンアップを繰り返している。この加速が続けば10年後にはものすごい数のサービスを提供するようになるだろう。
「こうしたことを背景に、これからのエンジニアは二極化するのではないかと考えています。カッティングエッジな世界で通用するエンジニアと、現場に精通したITプロフェッショナルです。システムはそれを使って現場をよくするものですから、できればITも現場もわかる人になりたいものです」(田名辺さん)
少子高齢化などの課題を前に、「どう生きるか」ではなく「どう生き残るか」を考えるべきだと田名辺さんは言い、ひとりのゲストを紹介した。BREAKTHROUGHの代表取締役 北原 健太郎さんだ。札幌でSES業界に身を置いていたが、元請けから回ってくる仕事の多くは東京から発注されたもの。北海道で働いているのに北海道の人のために仕事をできない状況に疑問を抱き、元請けに近い場所で仕事ができるようになってからフリーランスを経て法人化した。同社の主なプロダクトには、3GやLTEの電波が届かない林業の現場で使えるトランシーバー「soko-co」がある。
「日本は世界的に見ても林業国なんです。植えて切って材木にしてまた植えて、というサイクルを作ったのも日本です。しかし林業は災害の多い業界でもあります。しかも、山の中では携帯電話も通じないので連絡を取り合うのも困難です。Soko-coはLPWAでメッシュネットワークを作り、山の中でもコミュニケーションを取れるようにした製品です」(北原さん)
林業素人だったという北原さんがこのような製品を作るまでには、ソフトウェア開発や林業の現場である岐阜県森林研究所の協力など、さまざまな縁があった。
「たまたまの縁が広がって行ったわけですが、たまたまイコール運ではありません。想う、行動する、人に話す、これを繰り返しているうちに生まれた縁に身を任せること。それを継続していくことでやりたいことが明確化し、それを手伝ってくれる人も集まってきます」(北原さん)
北原さんからマイクを引き継いだ田名辺さんは、STARS(Sapporo Tech Accelerator Resource for Startup)について紹介した。SAPPORO INNOVATION LABが主催するもので、同じ札幌の企業エコモットの社長 入澤 拓也さんらが中心となって立ち上げた。毎週ワークショップを開催しており、「行けば何かやっているという場を作りたい」と田名辺さんはその目的を語った。
「とはいえ、誰しもが起業できるわけではないし、起業だけが正解でもありません。会社員を20年ほどやってきましたが、組織内でも起業家のように振る舞うことはできるはずです。上司が悪い、会社が悪い、社会が悪いと言っている暇があったら、自分を変えましょう。その方が成果が出るし間違いもありません」(田名辺さん)
2020年代のエンジニアが生き残るための5つのキーワードとは
最後に田名辺さんは自分を変える方法として学ぶ、仲間、失敗、バランス、行動という5つのキーワードを挙げた。
人より高いスキルを身につけようと思ったら、人の3倍勉強しなさいと田名辺さんは言う。ただし、勉強が楽しくないならやめた方がいいとも続けた。楽しければ、ついつい人の3倍くらい勉強してしまうもの。強制的に3倍勉強するのではなく、気づいたら人の3倍やってた、というスキルを見つけることが大切だ。職業が細分化されるにつれてスキルも細分化されている。その中にはあなたが夢中になれるスキルがきっとある。
仲間というキーワードは、もちろんコミュニティに参加してきた経験から出てきたもの。積極的に参加して、集まりの雰囲気を肌で感じることが重要だと田名辺さんは言う。これには筆者も賛同せざるを得ない。筆者を含めライター陣はあらゆる表現を駆使してレポートを書いているが、現場で得られるものに勝ることはない。この記事を読んでいる方の中でJAWS-UGの勉強会に参加したことがない人は、ぜひ近くのJAWS-UG勉強会を探すところから始めてほしいと思う。
失敗は、なかなか難しいかもしれない。しかし若いうちなら傷も浅いし、傷が治るのも早い。
「すでに手遅れの方もたくさんいると思いますが、30代前半くらいまでにたくさん転んで受け身上手になってください」(田名辺さん)
とはいえ日本では失敗が許されない雰囲気が強い。だからこそ、失敗が許される環境があるならそれはとても重要だという。失敗が許されない雰囲気の中では、成長も起こらない。
キーワードとして「バランス」と言う単語が挙がったとき、筆者は仕事と遊びのバランスや、インプットとアウトプットのバランスを考えていた。が、田名辺さんが語ったバランスとは、人間が持つ五感をいかにバランスよく使うかということだった。五感というものの、エンジニアは特に視覚と聴覚ばかり使っていないかと田名辺さんは問いかけた。五感をフルに使って、自分の知らない世界に行ってみること。その経験があって初めて、自分がいかに狭い世界にいたのかが本当にわかると言う。
最後のキーワードは、行動。人生は有限であり、動かないと始まらない。あなた自身がやらずに誰がやるのか、と問いかける口調はしかし、煽るようなものではない。
「動かなければ始まらないが、やみくもに行動してもダメなんです。自分がいま何をやっているかという本質をめちゃくちゃ考えること。人生は、思ったようになります。だからポジティブシンキングが重要です。そしてめちゃくちゃ考えたあと、思い切り飛んでください。着地点は荒れた大地かもしれません。しかし、雲の向こうには絶対に青空が広がっています」(田名辺さん)
クラウドと雲をかけ、飛んだ先に待つ可能性の大きさを訴えて、田名辺さんは基調講演を締めくくった。
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