このページの本文へ

ヘルスケア領域のDXを推進するマイクロソフトの最新動向

国立がん研究センター、手術動画をAzureでデータベース化

2019年10月10日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2019年10月8日、日本マイクロソフトは、同社が推進するヘルスケア(医療・製薬)分野におけるデジタルトランスフォーメーションの取り組みなどについて説明した。Azureとともに順調に成長しているヘルスケアクラウドは日本でもさまざまな活用事例が増えており、医療現場での働き方改革や質の均てん化などが進んでいるという。国立がん研究センターでは、医師の手術における手技を可視化すべく、Azureで世界に類を見ない規模の動画データベースを構築したという。

医療現場でもMicrosoft HoloLensを活用したデジタルトランスフォーメーションが進んでいる

「人の一生に寄り添えるデジタルヘルスケア」を目指す

 同社2019年度(2018年7月~2019年6月)における、日本マイクロソフトのヘルスケア事業は、クラウド成長率が53%増、Azureの成長率が176%増となったほか、パートナーとの共同ビジネスの開発によって新たな創出した売上げは20億円に達しているという。2021年度までに、クラウドによるビジネス成長を2018年度比で2.5倍とするほか、クラウド比率を40%から70%に拡大。ヘルスケア事業の売上高を1.5倍にまで拡大する計画を掲げている。

 日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、「堅調に推移しており、目標は間違いなく達成できる」と宣言。「ヘルスケアでのAzureの比重が高まっている。さらに医療分野では、パートナーとの連携が重要であるが、パートナーとともに新たなビジネスを創出できていることが、ビジネスをドライブする要因になっている。クラウドサービスを活用することで、病院内の働き方改革を進める一方、AIやMixed Reality(複合現実)などを活用した診断、創薬研究などで成果があがっている」とし、「ヘルスケアクラウドにより、日本の社会が直面している多くのヘルスケア関連の課題解決に挑戦する」と意気込みを語った。

日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏

 日本においては、総人口に占める65歳以上の比率が約30%となるなど、高齢化時代が到来することに加え、社会保障給付費の高騰により、2025年の社会保障給付費の推定が約150億円にのぼること、医療サービスの不足と地域格差がより顕在化し、過疎地域における医師数が24%も減少すること、一般病院における電子カルテの普及率は、約47%に半分以下に留まっていることなどが課題となっている。

「日本の政府は、医療サービスの生産性向上、先端技術の積極活用、保健医療データの整備・流通という3点に取り組んでいる。そこに対して、日本マイクロソフトは、『より良い医療のかたちへ~人の一生に寄り添うデジタルヘルスケア』をテーマに取り組み、3省3ガイドラインに準拠したリファレンスの提供や患者情報のクラウド利用に関する法的見解を明確に示すことができるヘルスケアクラウドを提供できる点が大きな特徴になる」(大山氏)。

医療現場を変え、質を変えていく最新テクノロジー

 日本マイクロソフトでは、医療技術、サービス向上、労働環境の改善を両立する「医療現場の改革」、患者の診療参加と科学的根拠による偏りのない診療を行なう「医療の質の均てん化」、健康、医療、介護の連携や、健康寿命の延伸を目指す「ヘルケスア連携」といった3つの切り口から、ヘルスケア事業を推進しているという。

 まず「医療現場の改革」では、Microsoft Teamsの活用により、医療機関の生産性向上と働き方を改革。データ連携やデータ共有機能を用いて、多職種との連携を加速している例が出ているという。

 公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院では、リアルタイムに近い多職種間コミュニケーションを実現。個別のコミュニケーション情報を、組織共通のナレッジとして活用したり、カンファレンスを情報共有の場から意思決定の場へと転換することができたりといった成果のほか、当直中に専門以外の患者が運び込まれた際に、専門医に連絡を取り、リモートで支援を得るといった体制が構築できたという。

 また、日本マイクロソフトでは、年内に約20の基幹アプリケーションとTeamsとを連携させることを目指しており、その第1弾として、TXP Medicalの救急カルテシステム「NEXT Stage ER」と、Teamsを連携することを発表。緊急時に医師が紹介状を書く手間を減らすために、カルテ情報を読みとって、AIを活用することで自動的に文書を生成することができるという。

 さらに、日本マイクロソフトでは、医療従事者の現場での働き方改革を進めるため、働き方改革のリーダーとなる人材を約1000人育成するとともに、働き方改革リーダーコミュニティを設立。リーダー同士がオンラインで情報交換を行えるようにするという。なお、リーダー向けトレーニングは無償で提供。10月中に詳細を発表することになる。

医療従事者の働き方改革を推進するリーダーを育成

暗黙知だった手術の手業を動画データベースへ

 「医療の質の均てん化」では、Mixed Realityや、AI(視覚、音声、言語、知識)といった最先端技術を活用して、デジタルトランスフォーメーションを行っている事例を紹介した。

 アステラス製薬では、服薬アドヒアランス支援に、Microsoft HoloLensを活用することで、骨粗鬆症の患者が、医師とコミュニケーションを取りながら、積極的に服薬の決定に参加する環境を実現。「患者が自身の病気を自分事にすることで、能動的な治療に臨む意識を高めることができている」という。年内には4つの医療機関で採用。2020年には、HoloLens 2を用いて、50の医療機関で採用し、2020年末には1000の医療機関での導入を目指す。

 また、国立がん研究センターでは、医師の手術における手技を可視化し、定量的な医療評価を実現することに取り組んでいるという。

 これまで医師の手技は、医師の暗黙知として捉えられており、がん治療においても、術具の最適な動かし方の伝承などに課題があったという。

 国立がん研究センター 東病院 大腸外科/機器開発推進室の竹下修由氏は、「がん患者は増加する一方、外科医は減少する。今後、質を担保しながら、効率的な医療を行なわなくてはならない」と指摘。そのために、同病院の次世代外科・内視鏡治療開発センターでは、既存のがん治療の枠組みを超えた次世代型治療の実現を目指しており、最先端の医療技術を提供したり、臨床ニーズの高い医療機器や技術を開発している。

国立がん研究センター 東病院 大腸外科/機器開発推進室の竹下修由氏

 また、NEXT医療機器開発センターでは、企業やアカデミアと連携した医療機器開発などを進めており、2019年3月まで、AMEDによる未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業において、『内視鏡外科手術における暗黙知のデータベース構築と次世代医療機器開発への応用』への研究を行なってきた。「内視鏡外科医が手術中どのように、安全に、効率的に手術を進めているかといったことを、デジタル化し、データベースを構築する初めての取り組みとなる。術野でなにが起きているのかをAIに学習させ、将来的には手術支援機器、手術評価システムとしての導出を目指すことになる」と竹下氏は語る。

 ここでは、日本内視鏡外科学会や日本コンピュータ外科学会の協力を得て、全国39施設の300症例、日本内視鏡外科学会の660症例をあわせた約1000種類の手術動画データベースを活用。「世界に類を見ない大規模手術動画データベースになっている」(竹下氏)とする。

手術動画のデータベースを構築し、暗黙知を形式知化

 血管処理などの手術工程や、術具による両手それぞれの作業、神経やIMAなどの組織、出血などの起きている現象、患者や術者の様子を自動認識。画像から適格および非適格を判定し、抽出したメタデータに対してアノテーションを行い、これをデータベース可視化システムとして活用。さらに、教師データをもとに機械学習を活用して、AI手術支援システムナビゲーションとしての活用も行う。

「手術動画のデータベースを活用し、他の臓器のがん治療にのまで拡張して利用できるデータベース事業、教師データを活用したAI手術支援事業、手技の可視化やデジタル化によるトレーニング領域への還元を想定している。ここにMicrosoft Azureを利用することで、安定的で、柔軟性を持った運用が可能になる。定量評価を実現するれば、日本の技術をプロダクトとして、世界に広めることができるきっかけになる」(竹下氏)。

 そのほか、日本マイクロソフトでは、他の業界向けに展開しているAIビジネススクールを医療機関向けにも提供。医療機関のデジタルトランスフォーメーションの推進を支援するための実施計画を各医療機関ごとに作成し、オンラインヤセミナーによる講座を提供する。

Azureで拡がるヘルスケア連携

 一方、「ヘルケスア連携」では、電子カルテにおけるMicrosoft Azureの活用が拡大していることに言及。亀田医療情報がMicrosoft Azureを活用したクラウド電子カルテ「blanc(ブラン)」の提供を開始すると発表。2020年1月からクリニック向け、2021年1月からホスピタル向けに提供を開始するとした。また、中外製薬では、オンプレミス環境をMicrosoft Azureによってクラウド化。RPAやチャットボットをMicrosoft Azureで稼働させて、生産性向上と働き方改革を推進。Microsoft Teamsによって、社内のコミュニケーション基盤を確立したという。さらに、みらかホールディングスは、クラウドとAI技術を活用したクラウドとオンプレミスの統合ログ監視を実現。セキュリティ対策を強化したという。

 大山氏は、「当社のヘルスケアクラウドの賛同パートナーは、この1年間で14社増えて44社になった。現在、認定パートナーに対して、全世界14の国と地域で展開しているヘルスケアスタートアップ支援プログラムを日本でも実施。Microsoft Azure環境の提供、ビジネスデベロップメント支援、技術リソースの提供を行なう。さらに、年内にはパートナープログラムの一環として、リファレンスアーキテクチャーを公開する予定である。まずはスマートホスピタルの分野から公開することになる」などと述べた。

カテゴリートップへ

ピックアップ