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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第100回

記者会見のキーボード音が気になる…

2019年09月24日 12時00分更新

文● 前田知洋

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 たまに記者会見の映像で耳にする、あのキーボードのガチャガチャ音。とても気になります。なにも「あの音にイライラする」とか「うるせー!」という意味ではありません。あれだけの音エネルギーが発生する力強い打鍵。キーボードを打つ記者の皆様のお疲れを少々心配しております。まぁ「そんなことは、よけーなお世話だ!」と言われてしまえば、それまでなのですが…。

キーボードを叩いて、文をひねり出すのは疲れる

 筆者はライターでも作家でもありません。しかし、いままで7冊の書籍(含む共著2冊)を書き、長いときでは1日に10時間くらい文字を打つこともあります。

 原稿の締め切り時には疲れ果て、「やっぱり、写真やイラストを多めにしたり、文字の少ない本にしておけば良かった…」とか、「聞き書き(話を録音してもらい、編集者やライターに文字にしてもらう手法)にしてもらえば良かった…」など、何度後悔したことでしょう。

 一方、ときどきは取材などを受け、原稿が確認のために戻ってくると、ライターや編集者が書き起こしてくれたフレーズがどうしても気に入らず、Macの前に座り、つい自分で直してしまうことも…。最後は「自分の言葉は、自分でキーボードを叩く宿命なのかも…」と、いつも泣きながらキーボードを叩いております。

 つまり「キーボードを叩いて、文をひねり出すのは疲れる」というのが筆者の結論です。まぁ、筆者の文章能力の欠如が原因なのかもしれませんが…。

疲れないキーボードを求めて…

メインで愛用中のHHKB Professional 2。 余計なキーがほとんどない

 そんなストレスを物欲に変換させるのが筆者の人生訓(笑)。結果から申し上げますと、疲労の少ないキーボードを探し求め、現在愛用しているのは、PFU社のHappy Hacking Keyboard(ハッピー ハッキング キーボード、以下HHKB)。もう5台目になります。写真をご覧いただくとわかると思いますが、本来はプログラマー用に作られた製品。余計なキーやカナの刻印、カーソルの専用キーがありません。このHHKB、使い始めからほぼ抵抗がなかった理由は、大学でプログラムやUNIXに(少しだけ)触れていたからかもしれません。

 とにかく、打ちやすくて疲れない。その上、打鍵音も静かです。大きさはA4サイズを縦に半分に折ったサイズで、使わないときはiMacの画面の下にすっぽりと収納できるのも気に入っています。

現行iMacの足をまたぐように画面の下にすっぽりと収納できる

「静電容量無接点方式」vs 「メンフレンスイッチ」

 HHKBの製品群のProfessionalシリーズでは「静電容量無接点方式」、Lite 2シリーズでは「メンブレンスイッチ」が採用されています。

 上位製品のHHKB Professionalで使われている「静電容量無接点方式」とは、一般的なスイッチのように物理的な接点を持たず、キーのスプリングが押し込まれたときの静電容量(電荷量の変化)でオン/オフを判断する方式。物理的な接点がなく、接触不良になりにくく、耐久性があることが特徴です。

 普及版のHHKB Lite 2で採用されている「メンブレンスイッチ」は、薄膜印刷技術を応用したシート状のスイッチのこと。電子レンジからゲーム機のコントローラーまで幅広く使われています。

キートップの形状やキーの配置が工夫された「シリンドリカル・ステップスカルプチャ」

 どちらのタイプでも、キーの造形や並びには「シリンドリカル・ステップスカルプチャ」が採用されています。これはキートップを曲線で成形し、隣のキーに触れにくく、手前から奥への配置を階段状に配置、かつ曲面に設置した構造のこと。キーを打つ時の指先の動きを最小限にし、誤打を少なくする形状です。

馬は残していくけれど、鞍は担いで持っていく

 もう20年ほどHHKBを愛用していくなか、「これはすごい!」と感じたエピソードがあります。それは、HHKBをPFU社に提案した和田英一さんのインタビュー中の言葉「アメリカのカウボーイは旅の途中で馬が死ぬと馬はそこに残していくけれど、どんな砂漠の中でも鞍は自分で担いでいく。馬は消耗品だけれど、鞍は体になじんだインタフェースですからね。*

 今の時代なら「動物愛護団体」からクレームがありそうな表現かもしれませんが、筆者がこのエピソードを知ったときは、妙に腑に落ちたものでした。たしかに、PCを買い換えてもキーボードは使い続けるのが習慣になりました。

*『和田英一@日本初ハッカーはちょっと変わった絵を描く』(https://next.rikunabi.com/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000994)より。

ハッピーになるHHKB、唯一の難点は…!?

 このHHKB、アマゾンのレビューを見ても、「高級で安定感がある」とか「打鍵により快感…」など、賛辞がならびます。筆者もそんなコメントを読みながら「うん、うん」と、つい同意してしまいます。

 しかし、HHKBの唯一の難点はその価格かもしれません。普及版のLite 2で6000円強、Professionalシリーズだと3万円前後します。キーボードの調子が悪くなり、買い換えようとするたびに「あれ!こんな値段だったっけ?!」と新鮮なサプライズと冷汗を味わっております(笑)。まぁ、値段を忘れるほど長い間、HHKBが壊れないからかもしれません。

 考えてみれば、キーを叩くことも半分仕事。原稿料もいただきますし、「安物をすぐ壊してストレスを感じるよりは…」、などと言い訳をしつつショッピングサイトをクリックしております。数日して包みが自宅に届くと、値段のことを忘れて、ついハッピーになってしまいますが…。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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