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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第110回

日常に浸透している『オプティカル・イリュージョン』のスペック

2020年02月25日 17時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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この画像は筆者がワークショップ用に制作したものです。絵柄が浮き出て見えますよね

 「なんでマジシャンがアスキーで記事を書いてるの?」という質問をたまに受けますが、自分でもよくわかりません……(汗)。

 ちょっと強引な理由付けかもしれませんが、大学生の頃に研究室でAIを学んだり、国際電話の通話料が信じられないほど高額なときに外国のマジシャンとの打ち合わせでパソコン通信を利用したりと、デジタルなものに触れるのが比較的早かったため、適性が生まれた……のかもしれません。

 というわけで、マジシャンならではの、ギークな記事を書くように心がけています。今回取り上げるのは「オプティカル・イリュージョン」。あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、目の錯覚のこと。

 ちなみに、頭のよい変わり者、コンピューターやインターネット技術に精通する人……という意味合いで最近は使われる「ギーク(geek)」なる言葉。もともと、サーカスやパレードで蛇やニワトリを食いちぎるようなパフォーマーのことを指していたのだとか。ルーツをたどると、マジシャンとは微妙に近い関係なのかもしれません。

意外に浸透している錯覚

 オプティカル・イリュージョンは、我々の日常や、日頃から利用しているプロダクトの中に、かなり浸透しているんです。

 たとえば「縦縞の服だとスリムに見える」という有名な錯覚から、「同じ重さの携帯電話やタブレットでも、サイズが小さく、薄型になると逆に重く感じる」なんていう、ITガジェットならではの錯覚もあります(拙コラム:「iPhoneやAndroid、モバイル機器の重さの秘密」)。

 とくに食品業界では、肉がおいしそうに見えるライトや、他社製品よりも中身が多く見えるようデザインが工夫されたパッケージなども、少なくありません。商品名や企業名を書いたほうがよいかもしれませんが、そのあたりはオトナの事情で、ということで……。

 わかりやすい具体例でいえば、ギリシャのパルテノン神殿の設計に、オプティカル・イリュージョンが使われたことが有名です。円柱の下部や中間部から、上部にかけて徐々に細くした形状の柱に注目してください。これを「エンタシス(entasis)」と呼びます。

均等がとれた姿に見えるように床は中央が盛り上がり、柱は下部が太く設計されたパルテノン神殿

 パルテノン神殿は、床は中央が盛り上がっており、エンタシスをほどこした柱は下部が太く設計されています。下から見上げると、真っすぐな円柱を使うよりも、均等がとれた姿に見えるのです。

デジタルならではのオプティカル・イリュージョン

 最近では、海外のYouTubeでオプティカル・イリュージョンが人気コンテンツになり、日本ではインスタ映えする「トリックアート」としても人気を集めています。

 そんなオプティカル・イリュージョンは、細かく種類や作品を挙げるとキリがありません。ここでは、アスキーらしく、デジタルと結びつくことでより錯覚が強まる作品3つを厳選してみました。

サン・シーロ錯覚

 仕事柄、いろいろな錯覚を調べていますが、これはとても珍しいケースでしょう。人々が同じ方向にほぼ同じ速度で動くことで、建物が回転しているような強い錯覚を感じます。

 設計者が意図せずに起こったであろうオプティカル・イリュージョン。筆者が尊敬するみうらじゅん先生なら「うっかりイリュージョン」とでも命名するでしょうか。こんな偶然を発見できたのも、スマホで動画が撮れるようになったおかげかもしれません。デジタルガジェットの普及が、錯覚を見つけやすくしたのでしょう。

 ちなみに「サン・シーロ(San Siro)」はイタリア、ミラノにあるサッカー場「スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ」の愛称。ACミランなどのホームスタジアムとしてよく知られています。

変身立体「四角と丸」

 東京大学名誉教授、杉原厚吉氏による立体変形。2016年の「The Best Illusion of the Year Contest 2016(第12回ベスト錯覚コンテスト)」で2位を獲得した作品。

 立体物を鏡の前に置くと、鏡に映った形が全く異なって見えるというもの。3Dプリンターで製作されたそうです。こういう立体を考えられる頭脳って、すごいなぁ……とただ感心します。なんかマジックみたい……。

スピニング・ダンサー(シルエット錯視)

ウェブデザイナーの茅原伸幸氏によって作られたスピニング・ダンサー

 こちらの錯覚をちょっとくわしく説明すると、ダンサーの右足が上がっていると脳が認識すると、上から見て時計方向に回転しているように感じます。一方、ダンサーの左足が上がっていると認識すると、反時計方向に回転しているように感じるのが錯覚の原因。

 「どうしても同じ回転方向にしか見えない!」という人のために「反時計回りに見える補助線が追加されたアニメ」と「反時計回りに見える補助線が追加されたアニメ」が登場しました。女性のももに追加された白い補助線に注目すると、それぞれの方向の錯覚が味わえるはず。

ハトを出す理由は「白い」から

 人間の目と脳、あまり信用できないというか、不思議というか……。最後に、オプティカル・イリュージョンを利用したマジックの例をひとつ紹介します。

 「ハンカチからハトを出す」や「シルクハットからウサギを出現させる」など、西洋では長く人気のマジック。タネは詳しく書けませんが、色で説明するなら「黒いシルクハット」から「白いウサギ」、「黒い燕尾服を着たマジシャン」から「白いハト」を出すというのがポイントです。黒いものは小さくスリムに見え、白いモノは大きく見える錯覚を利用しています。

ハトを出すマジックで世界中に知られたチャニング・ポロック(1954年)

 なにか出現させるマジックなら、「小さなモノ(場所)から大きなモノが出る」ほうが、驚きも大きいはず。宝石での指輪の箱に、黒や紺色が多いのも同じ理由です。おっと、最後の一言は蛇足だったかもしれません……(笑)。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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