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AWSから移籍しOCIを作った理由、日本リージョンへの期待、MS Azureとの連携まで、現状と方向性

オラクルのIaaS担当VPに聞く“第2世代クラウド”の狙いとこれから

2019年09月16日 10時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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サービスラインアップの充実と、オラクルが“特化”していく方向性は

 上述したような第2世代の優位性がある一方で、後発サービスとしては不利な点もある。たとえばサービスラインアップの充実だ。先行するAWSなどと比べると、単純にサービス数の面ではまだ少ないのが実態だ。

 その点についてクマー氏は、OCIでもイノベーションのペースを急加速させていると強調する。たとえば直近の3カ月間でOCIに追加された新機能/サービスは100以上あり、そのうち15~20ほどは大きなサービスセットだと説明した。

新機能/新サービスの追加は現在急加速しているとクマー氏

 それでは将来的にはサービスポートフォリオは他社と並ぶようになるのか、そこでOCI特有のサービスは考えているかと質問したところ、「クラウド市場はやがて“均質化”していくだろう。ただし、各社の進化のあり方は“特化”していくはずだ」という答えだった。OCIの場合はどのような方向性に特化していくのか。

 「OCIを他社と差別化していく方向性は大きく3つある。まずはオラクルが強みを持つ『データ』領域を掘り下げ、そこに特化していく。次に顧客業種別の課題を追求していく。たとえば現在は、製造業や自動車産業でニーズの高いHPCのサービスを持っているが、次はたとえば『金融サービスならばどんなユニークな価値提案ができるか』といったことを考えていく。またエンタープライズ顧客向けに、パブリッククラウドをさらにオンプレミスに近づける取り組みも進める。すでに『Oracle Cloud@Customer』や顧客専有リージョンなどは提供している」

 ちなみにHPCのクラウドサービスは、100ギガビットネットワークで1.2マイクロ秒という超低レイテンシのRDMAネットワークを使うものだ。クマー氏は「他社には真似のできない、オラクルならではのサービス」だと胸を張る。

 今後の機能/サービス強化の方向性について聞くと、まず現在は基本的な部分、具体的には「プラットフォーム、データベース、コア(コンピュート/ネットワーク/ストレージ)、クラウドネイティブ(Kubernetes、ファンクション、サーバーレスなど)」の4領域に集中投資していると述べた。そのうえで、この先は「ビッグデータ」への投資も進め、クラウド上におけるビッグデータ処理のあり方を再定義していきたいと語った。

 またIaaSより上のレイヤー、アプリケーションの「Oracle E-Business Suite(EBS)」や「Oracle Database」などとの統合強化の取り組みも進めている。具体的にはオンプレミスにある既存のオラクルアプリケーションやデータベースに対して、簡単にクラウド移行できる機能やツールの提供などを行っていると紹介した。

「多くの顧客が待っていた」東京リージョン開設、Azureとの相互接続

 記者説明会では、Oracle Cloud東京リージョンのサービス提供開始から3カ月間で、すでに500社以上の顧客が利用していることも明らかにされた。

 クマー氏によると、東京リージョンは他リージョンの立ち上げ期と比べて「3倍のスピードで顧客数を伸ばしている」という。「その理由は、多くの顧客がOCIの海外リージョンを利用しつつ、東京リージョンの開設をずっと待っていたからだ」。待っている間に他社クラウドへ動かなかったのは、やはりOCIしか提供できない価値を必要とする顧客がいるからだと、クマー氏は語る。

 「一般的なワークロードならば、他社クラウドでも要件を満たせるかもしれない。しかしOCIしか提供できないクラウドサービスを必要とする顧客もいる。たとえばオンプレミスでExadataを使っている、2ノードのRACを使っている、Autonomous Databaseが必要だ、EBSを動かしたい、といった要件がある」

東京データセンター開設以降の日本データセンター利用の伸び。トヨタ自動車、ANA、リコー、NTT西日本といったエンタープライズがすでに利用している

 今後、2019年内には大阪リージョンも開設される予定だ。東京-大阪間でデータベースやストレージのレプリケーションも「ワンクリックで」できるようになり、容易にDR構成を取れるようになるという。また2020年末までには、世界全体で12~15のリージョンが展開されることになる。

 またOCIでは、顧客があらかじめ利用コストを予測しやすいように、利用料金は東京リージョンでも他のリージョンでもすべて同一価格としている。さらに、オンプレミス環境とのネットワーク接続サービスである「OCI FastConnect」を月ぎめの固定価格とするなど、積極的な価格攻勢も展開している。

 「特にネットワークコストについて、他の多くのクラウドベンダーでは従量課金型にして『クラウドからデータを取り出しにくい』料金設定にしている。われわれは、ネットワーク利用が多い月は高額な料金を支払わなければならないという、クラウド市場一般の現状を打破したいと考えている。なぜならばそれが次の世代、“第2世代”クラウドにとって正しいあり方だからだ」

クマー氏はOCIとAWSのコスト比較表も見せた。OCIはグローバルでワンプライス(同一価格)のため、東京リージョンどうしで比較すると特に大きな価格差となる

 6月に発表されたマイクロソフトとのパートナーシップによるOCI-Azure間の相互接続は、現状では北米地域のみでの提供となっている。クマー氏は、今後数カ月以内に欧州地域で提供を開始し、その後は日本を含め、各地域の顧客ニーズを見ながら順次検討していくと述べた。

 ちなみに今回の相互接続は、フロントエンドとバックエンド(データベース)のシステムがそれぞれのクラウド上に配置される形態が想定されており、通信のレイテンシを低く抑えなければならない。そのため、両社が各リージョンに展開するデータセンター間の物理距離が重要なファクターとなる。クマー氏は、「おおむね25キロメートル以内」であれば相互接続が可能だと説明した。さらに、データセンター間がそれ以上に離れている地域でも、市場ニーズが高いと判断した場合は「Azureデータセンターの近くに、OCIがデータセンターを新規設置することも検討する」と語った。

今年6月に発表されたOCIとAzureとのパートナーシップ。クラウド間の相互接続のほか、シングルサインオン化、サポート窓口の一元化も行う

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 以上、本稿ではOCIの現状を駆け足でおさらいし、今後の方向性についてまとめた。米国サンフランシスコで9月16日(現地時間)から開催される「Oracle OpenWorld 2019」においては、OCIに関する新機能/新サービスも発表される見込みだ。TECH.ASCII.jpでは引き続きレポート記事をお届けする予定だ。

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