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私たちの働き方カタログ第39回

持たない組織へと変化したソウルウェア

退職の申し出から導かれた全員リモートワークの必然性

2019年09月04日 09時00分更新

文● 萩原愛梨 写真●曽根田元

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 その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第39回で紹介するソウルウェア。ソウルウェア 代表取締役 吉田超夫氏に、全員リモートワークになった今の働き方に至るまでの過程と、スムーズな運用をかなえるために取り組んだ工夫を聞いた。

ソウルウェア 代表取締役 吉田超夫氏

メンバーの「引っ越すから退職したい」が働き方を見直すきっかけに

 リモートワークは働き方改革の代表的な取り組みとして取り上げられることも多い。しかし、業務フロー改革の負担やコミュニケーション課題が懸念と、ダイナミックに踏み切れない企業がほとんどだ。そんな中、サイボウズ「kintone」を使った開発に強みを持つソウルウェアは職種に関係なく、ほぼすべての社員がフルリモートで働いている上、オフィスはWeWorkで数名が入れる部屋を借りているだけだ。

 同社のリモート化が進んだきっかけは一人のエンジニアの退職の申し出だったという。彼は結婚を機に配偶者の仕事の都合で和歌山に引っ越す必要があったため、吉田社長へ退職を切り出した。

 「転居が必要であれば退職は止むなしという表情の彼でしたが、よく話を聞くと和歌山での仕事もまだ決まっていないということでした。東京に比べればIT関連の仕事も少ないでしょうし、僕らにとっても創業当初から会社を支えてくれた彼の存在は必要。では、リモートで仕事を続けられないかと提案したんです」

 この時点で実際に彼が東京を離れるまで半年の猶予があった。そこで試しに1ヶ月フルリモートで働いてもらうことに。業務に必要なものはクラウド上にあるため問題なかったもの、コミュニケーションの課題が頻発してしまったという。

 吉田代表は他のメンバーもリモートで働く感覚を理解する必要があると感じ、全員週1日はリモート作業することをルール化した。すると、コミュニケーションが見えないことの不便さに対する各メンバーへの理解が進み、オンラインでのコミュニケーションが増えていった。こうした慣らし運転期間を経て、2017年の4月にエンジニアの彼は予定通り和歌山へ移住し、今でもソウルウェアの主力メンバーとして活躍している。

 その後、立て続けに二人の女性から同じく配偶者の転勤を理由にした退職の申し出があった。彼女たちは、それぞれ営業アシスタントと経理担当者であり、紙ベースの業務をリモート化するにはそれなりの改善・改革が必要になる。しかし、吉田代表は二人にリモートワークを勧めた。

「すでに実績があったため、彼女たちもリモートワークでいけるだろうと考えました。彼女たちが自宅でも作業ができるようにするため、社内ツールのクラウド化をしていきましたが、業務を置き換える大変さよりも、日常の効率が上がったため業務改善の効果の方が大きいと思います」

 具体的なクラウド化の動きとしては、まず営業アシスタントの請求書発行業務をデジタル化。それまでオフィスで紙に印刷し、1枚ずつ切手を貼って請求書を郵送していたが、自社で開発したkintone帳簿ソリューション「RepotoneU」を導入し、紙を使わずクラウド上で完結できるようになった。経理業務についても、オンプレミスのシステムからクラウド型のfreeeへ移行。これをきっかけに、その他の情報もすべてクラウドで管理するようにしたという。

“持たない”組織でいることが、変化の多い時代を生き抜く鍵

 3名のリモート社員が誕生した後も、全社員が週1度リモートで働くというルールは継続していたため、ある時「そもそも東京のメンバーもオフィスにくる必要があるのか」という声が上がった。吉田代表が「来なくてもいい」と答えると、本当にほとんどの社員が出社しなくなり、当時20坪あったソウルウェアのオフィスは場所を持て余すことになった。

 その結果、2019年4月にオフィスを引き払い、WeWorkの5名部屋を借りはじめた。WeWorkへの移転の決め手を吉田社長は次のように語る。

「単純に家賃を比較すれば高額かもしれませんが、ファシリティの充実やイベントスペースの無料貸し出し、WeWork内でのネットワーキングができることを考えると安く感じます」

 自社オフィスを構えれば、オフィスの掃除やゴミ出し、備品の整備などを社内の公共事業のような仕事を誰かが行なわなくてはいけない。WeWorkであれば、そうした小さなストレスを感じずに済むという。

 リモートワークは社員・会社共にメリットがある。ソウルウェアでも、社員は家事と仕事の両立の負担が軽減され、長い通勤時間が不要になったおかげで時間の有効活用ができて体力的にも助かっているそう。また、会社にとっては採用面で強い武器になり、すでに地方からリモートで働く社員を2名の採用が成功している。リモートワークを希望して、中小企業では採用の難しい経験豊富で優秀なエンジニアからの応募も増えたという。

 情報はクラウド上、オフィスはWeWorkと、どんどんと“持たない”組織となっていくソウルウェア。「企業が継続していくためには変化が求められる瞬間があります。できるだけ物理的な物を持たないことで変化しやすい状態を保つことができます」と吉田代表はその背景を語る。

 テクノロジーの進歩によって、IT業界のみならず全ての産業に変化がもたらされ、その変化のスピードは加速度的に上がっている。その変化を先んじて捉えた企業は成功をおさめ、変化に順応できなかった企業は時代に取り残されてしまう。リモートワークやクラウド化は、従業員の働き方の改善や企業の採用力の向上といった目に見える効果だけでなく、目まぐるしく変わる時代の波を乗りこなしていくための組織の地盤を作ってくれるのかもしれない。


会社概要

「ITに魂を」ITの力で世の中の無駄を削減し“幸福な働き方”を実現します。勤怠管理・交通費精算クラウド「kincone」や「RepotoneU」シリーズなどの開発・販売を通して多くの企業に業務の効率化、働く時間の幸福度の向上を伝えています。零細企業や中小企業向けに働き方改革へ向けたセミナーも開催しています。

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