OCの伸び代をチェック
まずはRyzen 9 3900Xを使い、定格状態でのパフォーマンスの計測から始めます。ここを基準においしいラインを探っていきたいと思います。
定格状態のCINEBENCH R15のスコアーはマルチが3208cbでシングルは212cbとかなりのハイスコアー。この性能で定価が5万9800円(税抜き)なのですから爆売れするのも納得です。
手動OCは4.3GHzからスコアー計測開始です。CPU電圧は1.40Vに設定しています。CINEBENCH R15のスコアーはマルチが3350cbでシングルは203cbでした。マルチスレッド性能が4.4%程向上したものの、最大ブーストクロックが4.6GHzと高いため、シングルスレッド性能が4.4%程低下しました。
次に4.4GHzでのCINEBENCH R15に挑戦しました。スコアーはマルチスレッドが3416cbでシングルスレッドが207cbでした。マルチスレッド性能は定格比で6.5%程向上していますが、シングルスレッド性能は2.4%程低いです。
4.5GHzでのベンチマーク完走が出来なかったので限界値を探ったところ、4.45GHzでの完走に成功しました。スコアーはマルチスレッドが3469cbでシングルスレッドが210cbでした。マルチスレッド性能は定格比で8.1%程向上していますが、シングルスレッド性能は1%程低いです。4.55GHz辺りまで上げないと定格のシングルスレッド性能に並ぶ事が出来ないと思われます。定格のブーストクロックが手動での全コアOCの限界よりも高いのがRyzenのOCの難しい点です。
完走時の設定や温度はこんな感じでした。CPU電圧はASRockのOC設定ソフトのA-Tuningで1.45Vまで昇圧しています。これ以上は逆に耐性が落ちていたので、1.45VがこのCPUのスイートスポットだったのでしょう。
CPU温度はHWMonitorのTempartures欄のTMPIN7の部分に表示されていますが、ベンチ中に96度まで上昇しています。昇圧で耐性ダウンするのも納得の温度の高さです。常用する場合はここから100MHz前後下げて設定を探るのが良さそうです。この状態での長時間運用は耐久性の面で難があるのでダメ絶対。
オーバークロッカーの間では人気がありませんが、最新のCINEBENCH R20もやってみました。AVX命令を使用して高負荷だからか4.4GHzが限界でした。スコアーはマルチスレッドが7715cbでシングルスレッドが511cbでした。定格時はマルチスレッドが7266cbでシングルスレッドが521cbだったので、マルチスレッド性能が向上してシングルスレッド性能が低下する傾向はR15と同じです。
無負荷時の最大動作倍率は47倍で、動作クロックは4.698GHzでした。ベースクロックを100MHz設定にしても99.98MHzと低くなっています。これはAMDプラットフォームでよくある症状です。
次に気になるRyzen 7 3700Xですが、CINEBENCH R15の完走限界は4.3GHzでした。良個体は4.4GHz前後でクリア出来るようですが、今回の個体は標準的な耐性でした。ASRock開発チームのNickShih氏に傾向を聞いてみたところ、「2つのダイを搭載するRyzen 9 3900Xなどの上位CPUに良いダイを回しているので、1つのダイしか搭載しない下位モデルの耐性は平均して100MHz下になる」との回答が得られました。
選別ダイの使用はRyzen 9 3900Xの最大動作クロックが4.6GHzと、Ryzen 7 3800Xの4.5GHzやRyzen 7 3700Xの4.4GHzよりも高い事から推測しても正しいと思います。普通はコアが増えると発熱も増えるので最大動作クロックは下がりますから……。
Ryzen 7 3700Xの無負荷時の最大動作倍率は46倍で、動作クロックは4.598GHzでした。同じベースクロック100MHz設定ですが今度は99.98MHzになりました。耐性はRyzen 9 3900Xよりも100MHz低い結果となりました。ベンチマーク耐性は150MHz下だったので、良い結果と言えるでしょう。
今回計測したスコアーをラボにある他のCPUと比較してみました。スコアーに影響するメモリー設定ですが、クロックはメモリーコントローラーのネイティブクロックとしました。Intel環境はDDR4-2666で計測し、Ryzen 7 2700XはDDR4-2933で計測しています。
Ryzen 7 3900Xの性能ですが、マルチスレッド性能の高さが秀逸で4.4GHzまでOCすると16コアのCore i9-7980XEの定格を僅かに超えるマルチスレッドスコアーを記録しています。シングルスレッド性能が4.5GHzまでOCしたCore i9-7980XEよりも全体的に高い点にも注目です。Ryzen 3000シリーズのスレッド性能の高さは本物です。
Ryzen 7 3700Xの性能ですが、4.3GHzまでOCすると5.2GHzのCore i9-9900Kや定格のCore i9-7900Xよりも高いマルチスレッドスコアーを記録しています。Intel環境で人気なDDR4-3200やDDR4-3600辺りのOCメモリーを使えばスコアーは同等になるとは思いますが、4.3GHzとは思えないスコアー効率の高さです。AMDはRyzen 7 3700XをCore i7-9700Kの対抗としていますが、OCもしつつ検証すると実際にはCore i9-9900Kに対抗できるパフォーマンスを持っていると思えてきます。恐るべし……。
CPU温度ですがCINEBENCH R15を連続で10回実行した際の最大値と、Windows起動10分後の値を計測しました。
クロックが上がったからか定格時の発熱は2000シリーズから増えている印象です。Ryzen 7 2700Xが57度だったのに対し、Ryzen 7 3700Xは71度まで上昇しています。個体差によって値が上下するとは思いますが、複数のCPUを触った感じ発熱はこれまでよりも増えている印象です。
システム全体の消費電力値ですが温度と同じ条件で計測しました。
アイドル時は定格のIntel系が優秀な結果になりました。Ryzen 7 2700Xは52.8Wと定格状態では低い値を記録してますが、Ryzen 7 3700XもRyzen 9 3900Xも73Wを記録しています。XMPを無効にしてSoC電圧が下がると72W付近まで下がりましたが、それでも少し高めな気がします。
ただ、高負荷時の最大値で見るとRyzen 7 3700Xのワットパフォーマンスは良好と言えます。Core i9-9900Kの5.2GHz時が314Wなのに対し、4.3GHz時に219Wまでしか上昇していません。マルチスレッド重視な使い方をする場合は、Ryzen 7 3700Xの全コアOCはワットパフォーマンスの面でも優秀と言えるでしょう。
【比較環境で使用したマザーボード】
ASRock「Z390 Taichi」
ASRock「X299 OC Formula」
ASRock「X470 Taichi」
CPU以外のパーツは共通
クロック耐性の低さや設定の少なさが課題
クロックあたりの性能が大幅に向上してIntel CPUに対して大きな競争力を得たRyzen 3000シリーズ。しかし、OC耐性の低さはこれまでのモデルと同等だったのは残念です。ポジティブに考えるとAMDが性能をしっかり引き出している「メーカー謹製チューンドCPU」とも考えらます。
全コアの手動OC限界よりも高いクロックでシングルコアだと動作するので、OCによって逆にシングルスレッド性能が低下するのはこれまでのRyzenと同じなので、OC設定の構築は難易度が高く用途も選んでしまいます。Intel CPUの様に動作コア数に応じたCPU倍率設定が出来るようになればこの問題は解決するので、機能の実装に期待したいところです。
お詫びと訂正:掲載当初、消費電力比較の図版を間違えて掲載しておりました。関係者、読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びするとともに訂正いたします。(2019年9月14日)