Ice LakeではGPUの性能が上がる
では10nm+に良い所はなにもないのかというとそうでもなく、とりあえずトランジスタ密度が上がることだけは間違いない。
この結果として、連載514回でも書いたように、131mm2程度のダイサイズで4つのSunny Coveコアに64EUのGPU、さらにはThunderbolt 3まで搭載が可能になっている。
実際、Edge AI向けプロセッサーとしては非常に強力な性能になっている。AI性能に関して言えば、連載514回の最後でWhiskey Lakeとの性能比がResNet-50で2.5倍なのは「メモリー帯域がより広いことが影響していると考えられる」と書いたが(これも間違いではないが)、もう1つおまけがあった。
Ice Lake世代ではGNA(Gaussian mixture model and Neural network Accelerator)と呼ばれる新しいアクセラレーターを搭載したことが明らかにされている。
このGNAは2017年のICASSPという学会で初めて発表されたもので、内部構造はニューラルネットワークでよく利用される処理に特化したSIMD演算のアクセラレーターとして良い。
AVX512に追加されたVNNI(Vector Neural Network Instructions)も効率は良いが、基本は「汎用」処理であり、特定の計算処理に限れば専用回路を搭載したほうがさらに効率が良くなる。
GNAは「現在広く使われている」処理を高効率で行なう専用アクセラレーターであり(そこから外れた処理は効率が良くない)、CPUコアの外に搭載される。先の2.5倍という性能は、このGNAの能力も貢献しているものと思われる。
こうしてみると、Ice Lakeはクライアント向けというよりは、むしろ組み込みのEdge AI向けに展開したほうが良さそうな気もするのだが、あいにくとそういう方向は製品展開的には許されていないようだ(そもそも現状のIce Lakeには組み込み向けのSKUが存在しない)。
かろうじてGPUに関して言えばそれなりに性能が出るようになっているので、これを売りにするしかないのが現状のIce Lakeの苦しい部分だ。
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