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デロイト トーマツ グループ 里崎慎氏インタビュー前編

スポーツのスポンサー活動は付加価値で利益を拡大できる

2019年08月09日 11時00分更新

文● 松下典子 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部 写真● 曽根田元

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 日本人にとって、スポーツとビジネスは相反するイメージがあり、クラブチームの売り上げに一般のファンは無関心だ。しかし欧米では、スポーツをビジネスとして捉え、その市場の動向に企業や人々が高い関心を持っている。日本のスポーツビジネスを発展させるには、クラブや団体側、スポンサー企業側の双方が意識を変えていくことが必要だ。スポーツというコンテンツを、どのようにビジネスに活用していくべきなのか。デロイト トーマツ グループでスポーツビジネスの支援を手掛ける里崎慎氏に、スポーツの潜在価値、企業やスタートアップにおけるビジネスの可能性を伺った。

 デロイト トーマツにスポーツビジネスグループが立ち上がったのは、2015年4月。その1年前の2014年、里崎氏らが社内のビジネスコンテストにスポーツビジネスグループの企画を応募し、大賞を受賞したのが設立のきっかけだ。

 グローバルのデロイトとしては、以前からスポーツビジネスグループがあった。例えば、Deloitte UKのスポーツビジネスグループは20年以上前から「Football Money League」を毎年発行している。「Football Money League」とは、欧州5大リーグに所属するクラブを中心とした、クラブ別年間売上高ランキングのトップ20を発表する調査レポートのこと。ヨーロッパでは、「Deloitteといえば『Football Money League』」というほど有名な冊子で、800を超える世界中のメディアでも取り上げられているという。

「Football Money League日本語抄訳版」(関連サイト) https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/consumer-and-industrial-products/articles/sb/football-money-league.html

 「僕は、デロイトに入って初めて『Football Money League』のことを知りました。アジア版も作ったら、欧州のサッカーのビジネスと日本のJリーグのビジネスがデロイトという同じ物差しで比較できる。しかし、日本のデロイトにはスポーツビジネスの部署がなかったので、ビジネスコンテストに応募して、自分たちで作ることにしたのです」

しかし、当時の日本では、スポーツでビジネスをする風潮はない。そこで里崎氏らのチームでは、リーグや協会といったクラブチームを統括する組織と組み、日本にスポーツビジネスのプラットフォームをつくる取り組みから活動を開始している。

 「特定のクラブチームや企業だけががんばったところで、マーケットは育たない。マーケットを大きくするには、いろいろな人がどんどん市場に参入し、プレーヤーがもっと増えていかないと。まずはその入り口をつくることが僕らのミッションです」

東京オリンピックは、1業種1社のルールを撤廃

 オリンピックのスポンサーは、1業種1社というイメージがあるかもしれない。これはコンテンツホルダーが決めたルールによるものだ。1業種1社とスポンサー枠に独占権という価値を付加して競争を促し、高いスポンサー収入を得ていた。

 しかし東京オリンピックでは、1業種1社の制限をなくし、同じ業種から複数社がスポンサーになれるようにルールが変わった。結果、日本の名だたる企業のほとんどが東京オリンピックのスポンサーとなり、スポンサー収入は、史上最高額を達成している。

 一見、スポーツビジネスの発展にとって好ましい状況だが、里崎氏は、危うさも指摘する。

 「スポンサー企業にとっては、スポンサー権の購入は投資のひとつ。であれば、当然、その投資をどのように回収するのかも考えておくべきです。ところが今回の東京オリンピックでは、『競合がスポンサーになったから、うちも出さないわけにはいかないだろう』といった日本独特の横並び意識や、従来からの慣習等を理由にスポンサー料を払っている企業も少なくないのが実態です」

 もし、今回のオリンピックでメリットが得られなければ、今後もスポーツのスポンサーになりたいとは思わないだろう。すると、将来的なスポーツビジネスの発展にはマイナスになる。そうならないように、スポンサーシップの形をもう一度、立ち止まって考える必要があるだろう。

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