業務を変えるkintoneユーザー事例 第53回
今治のOA販売会社で育ってきたkintoneの8年を振り返る
kintone界最高齢(?)のベテランが手塩にかけた独自SFA
2019年07月10日 09時00分更新
2019年6月5日に開催された「kintone hive matsuyama vol.1」で最初にプレゼンしたのは、ケーオー商事 代表取締役 片山昭氏。「諦めかけていたSFA(営業支援)導入をkintoneで実現!!」というテーマで事例を紹介してくれた。
SFAという言葉を知ったものの
ケーオー商事 代表取締役の片山昭氏は、昭和32年生まれの62歳。自己紹介のスライドで「kintone界最高齢?」と書いていたが、「会場で私より年齢上の方」と挙手を求めたところ、数名の手が上がり「想定外です」と笑いを取った。そんな片山氏はばりばりの文系だが、2018年にkintone CERTIFIEDを取得。会社も同年サイボウズのパートナーにもなっている。
ケーオー商事は愛媛県今治市でOA機器やオフィス家具、事務用品などを販売している。設立は昭和49年で、時代はOAブームに沸いていた。1980年代はワープロやFAX、デジタルコピー機が一般企業に広まり始め、1990年代にはWindows 95が発売された。2000年代には複合機はネットワークに接続し、カラー複合機も普及していった。
「技術革新のおかげで、次々と画期的な製品が発売されたので、営業力がなくても容易に販売できた時代が長く続いていました。ところが、21世紀になりOAブームが終焉を迎え、画期的な製品が出なくなりました。われわれ機能紹介だけで販売してましたので、営業力がないものですから、もっぱらコスト削減提案だけしかできません。利益が低下すると、PRの量を増やすしかありません。提案先訪問先を増やすためにさまざまなリスト管理をすることになりました」(片山氏)
数で勝負するために、多数のエクセルファイルが乱立した。そんなまっただ中の2009年に、片山氏は社長に就任した。その後も競争はどんどん激化。売り上げは伸び悩み、利益はさらに低下した。しかも、ICTの普及は進み、商品は多様化。従来の営業方式ではやっていけなくなったという。
「Microsoft Accessによる顧客管理にチャレンジしましたが、われわれ基本的に文系ですから、すぐに挫折してしまいました。そんな時に、SFA(Sales Force Automation)という言葉を知りました。営業効率をアップするために、これからはSFAを導入しようと思ったのです」(片山氏)
SFAは日本語では「営業支援システム」と訳されることが多い。商談の情報や案件の進捗具合、予実、顧客情報などを管理する機能がまとめられている仕組みだ。しかし、片山氏はSFAの導入を断念する。価格が高かったのだ。高価なSFAを導入しても活用しきれない事例も耳にしたうえ、当時の愛媛県ではどこに相談していいのかわからなかった。
「SFAの導入をあきらめかけていた時、kintone発売の記事をネットで発見します。早速、30日間の無料お試しを申し込み、営業日報アプリを自分で作ってみました」(片山氏)。苦労したそうだが、日曜日1日がかりで完成させたそう。Microsoft Accessは無理だったが、kintoneの日報管理ならできると思ったという。そこで2011年12月にkintoneを導入した。kintoneは2011年11月にサービスを開始したが、同社が導入したのはその直後だ。
8年近く経ち、CTI連携までできるようになったkintone
そして8年近く経った現在、同社のkintoneは大進化を遂げていた。「顧客DB」アプリを中心に、「案件」「営業日報」「受注票」、その他さまざまなアプリが関連付けられていた。また、別の販売管理システムと「得意先マスタ」や「売上明細」なども連携させた。さらには、CTI(Computer Telephony Integration)も導入し、「顧客DB」と連携。OA機器メーカーから複合機の保守情報などを送ってもらい、それもkintone上で見られるようにしている。「SFAを諦めて導入したkintoneですが、なんとなくSFA的に使えています」と片山氏。
たとえば、顧客から電話がかかってくると、CTIがポップアップで立ち上がる。左側に顧客の名前、右側にはその情報が表示される。電話対応がスムーズに行なえるうえ、必要に応じて画面のリンクをクリックすれば「顧客DB」アプリが開き、利用している機種や訪問/商談/納品履歴などが確認できる。
さらに、CTIの導入で、電話を受けた後のオペレーションが劇的に改善したという。たとえば、プリンターのトナーを受注する場合、「うちで使っているトナーを持ってきて」と、品番を言わない顧客も多いという。すると従来はエクセルの使用機器リストで、顧客が利用しているプリンターの型番を確認。型番をメーカーのホームページで検索し、トナーを調べていた。
他には、販売管理システムで過去の納品履歴を調べ、以前に持っていたトナーの品番を探していた。しかし、この方法で調べ、半年前と同じトナーを届けたら、実は1ヶ月前に営業がプリンターを入れ替えていて、開封したトナーが無駄になったこともあったそう。
「CTIを導入したことで一変しました。CTI画面で顧客詳細画面をクリックすると、顧客DBアプリが立ち上がるので、機器情報アプリを起動し、プリンターのトナーが確認できます。わずか3ステップでできるようになりました」(片山氏)
とは言え、ここまでのSFAの仕組みは一朝一夕で完成したわけではないと片山氏。まず1年目は営業日報アプリだけを使用していた。それは、当時はkintoneにルックアップも、関連レコードもなかったから。その後、使い方を覚えて、「案件」アプリを作成。続けて、顧客の使用機器も管理したいと考えて「受注票」アプリと「他社情報」アプリを作成した。アプリが増えてくると、顧客情報を一元的に見たくなり、「顧客DB」アプリを作成したという。
顧客の情報が見えてきたので、次は売り上げに関するデータも見たいと考えた。同社の販売管理システムはオンプレミスのパッケージソフトを使っていたので、kintoneと連携させる部分はSIerに構築を依頼したそう。そして、最後にCTIとの連携を導入。ここまで仕上げるのに、5年かかったそうだ。
kintoneを導入したメリットは業績面だけじゃない
作成したアプリは、もちろん活用し倒している。「案件」アプリでは、営業日報の入力時に案件をルックアップするので、「案件」アプリでは関連レコードを確認できる。日報と案件が連携させることで、単に商談合計件数を把握するだけでなく、案件の商談の回数などを確認できるようになる。
たとえば、Aさんが合計15件の案件に59回商談をしている場合、今後のための新規案件の開拓ができているのか? と心配になるそう。Bさんが27社の案件に47回の訪問しており、1回しか訪問していない案件が多すぎる場合、継続訪問をするように指導する必要がある。これらの情報を、月が変わってからではなく、リアルタイムに確認できるので、随時適切なアドバイスをして軌道修正することが可能になる。
「受注票」アプリには、商品明細だけでなく、機器ごとの製造番号、リース情報なども入力し、販売した機器のデータベースとして利用しているそう。従来はエクセルで、リース管理表や使用機器リストなどに重複入力していたが、その手間が不要になった。さらに、過去の受注票は4~5年後にはPRリストになるが、kintoneなら絞り込むだけでいいので、さらにリスト作成が効率化できているという。
また、通知機能も活用しており、リマインダーで提案の送付や契約更新漏れを通知するように設定している。たとえば、リース満了の1年前や、導入後4年経過した時点、更新する契約の場合は更新日の2ヶ月前などに、kintoneから通知を飛ばしている。メールでも知らせるように設定し、見逃しのないようにしているのだ。
「案件」アプリに新規案件を入力する時に、下取り時の受注票をルックアップしている。さらに、逆にルックアップした下取り時の受注票にも、案件を自動的にルックアップするようにカスタマイズした。すると、4年経過した受注一覧を表示すると、古い案件なのにまだ新しい提案をしていない受注票を発見できるというわけだ。既存顧客という宝の山をムダにするケースが多い中、同社は細かい見逃しもkintoneで潰しているのがすごい。
「当初はSFAを諦めて導入したkintoneですが、必要に迫られて、少しずつアプリを追加した結果、結果的に弊社独自のSFAが完成しました。時間とスキルに応じて、順次アプリを追加でき、環境の変化に応じて簡単に修正できるのがkintoneのいいところだと思います」(片山氏)
気になるkintoneの導入効果だが、2011年12月の導入前と比べ、売り上げは170%、利益は380%、社員数は10名から15名になり、新規営業所も開設できた、と目を見張る結果を達成している。しかし、kintoneを導入して一番よかったのは、業績面だけではないと片山氏は語った。
もっとも大きいメリットは、業務改善をする習慣が付いたことだそう。その結果が、業績につながったのだ。kintoneは思いついたときに、自由にアプリが簡単に作れ、修正も簡単。そのため、気軽にチャレンジしたり改善したりできるようになったという。
「弊社は社員との仲がよくて飲み会が多い会社なんです。アットホームな雰囲気なんですが、ちょっとブラックな所もありました(笑) そこで、今年からは「タイムカード」アプリと「有給休暇申請」アプリを作成しまして、今は働き方改革にチャレンジしています」と片山氏は締めた。
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