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網膜投影の現在は? 麻倉怜士が直撃

夢の網膜投影、進化を続けていた「RETISSA Display」

2019年07月05日 11時00分更新

文● 編集部 聞き手●麻倉怜士

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血圧計や体重計のように、手軽に目の健康を計れる機器を

菅原 「われわれは網膜投影で、視力を上げるというひとつのゴールに取り組んでいますが、もうひとつ別のゴール、つまり網膜疾患の人に対しても何かできないかも探っています。そのために検査装置を作っていて、ユーザーが自宅で使って手軽に検査できるようにするというのが最終的な目標です。

 我々の社員の中に、日本視覚障害者柔道連盟所属の選手がいます。彼の視力は右目が0.02程度。もう一方は失明しています。彼がスマホの文字を読むときは、こんな感じ(手元のスマホの画面を目の数cmの距離に近づけて)で、文字の位置に沿って画面をずらしていく感じになります。

 網膜疾患の方を見ていて感じたのは、自分がなぜ見えないのか。そして、どう見えなくて、どう見えているのかを知らないということです。例えば、コントラストを高くする、黒白にしたら見える、この色が混じっているから見えない、もっと大きくしたら見える……といったものですが、それを自分で計れるようにしたいと考えています。大事なのは、血圧計や体重計のように病院に行かなくても、自分自身で計れることだと思うのです」

麻倉 「診断装置を開発中なのですね。それはユーザーさんがご自宅で使えるというイメージですか?」

菅原 「はい。視野を計ったり、デジタルの画像を切り替えたりすることで、よりよく見える方法は見つけられる装置を作っています。これが試作機です。

 仮にRetissa Handy (レティッサ ハンディー)と呼んでいますが、覗き込むと視力1.0相当のFOV40度の画像を見ることができます。お試しになりますか?実は中にレーザープロジェクター付きのスマホが入っていて、アプリをダウンロードすれば、視野検査のようなことができます。

 実は今からご紹介する視野確認プログラムを使って15秒で自分の病気を発見した社員がいるのです。視野欠損があることに気付き、病院へ行ったら緑内障だと診断されました。真ん中をずっと見た状態で、動く点が見えるかをチェックしてみてください」

麻倉 「見えていますね。右下から左へ行って……」

菅原 「正常そうですね。シンプルですが、これだけで緑内障の発見につながったのです。試している社員を横で見ていたら、見えずに驚いて目が泳いでいたのですね。点が見つからないので探していたのでしょう」

麻倉 「緑内障というと、人間ドックなどで眼圧を計ったりしますが、年に1回程度で、あまりやらないですよね。検査のチャンス自体が少ない」

菅原 「日本ではそのせいで、緑内障による失明者が多いのです。見えなくなってからでは遅い。見えなくなったときには、神経がほとんど死んでいます。進行が進んで初めて異常に気づくのですが、早期に発見できれば進行を止めることができます。また、緑内障の問題は治療を始めても自覚がないので途中で止めてしまうことが多い点です。自己検診ができて、スマホなどから医師にデータを飛ばすシステムなどができれば、『あなた危ないから、すぐ診察に来なさい』といった指導もできるはずです。

 今の医療体制ではそこまでいくことは難しいかもしれませんが、ハンディで安い検査機ができたら、きっと見える風景が違ってくると思います」

網膜疾患を持つ人に向けた支援機器も開発中

菅原 「以上は視野確認を想定した使い方ですが、Retissa Handyは網膜疾患を持つ人が周りを見えやすくするためのツールとしても応用が可能です。そのためにわれわれは『日本パラ陸上競技連盟』のスポンサーになりました。

 走り幅跳びの選手のひとりに、網膜疾患の方がいます。その方は先天性で、視野の中央部が見えないのですが、周囲の網膜が少し生きています。そこでレーザーを照射する向きを少し変えて、かつそこに合った画像に処理して照射することを考えています」

麻倉 「なるほど、健在な網膜に向けてレーザーを照射するのですね」

菅原 「はい。選手のフォームを撮影した映像を白黒反転して見えやすくします。白黒にするのは、人間の眼で色を感じられるのは、中心窩という真ん中の一部だけだからです。ほかは白黒の濃淡だけを認識するので、白黒にしたほうが見やすくなるのです。あとはその映像をRetissa Handyのファインダーでのぞくだけなのでシンプルです」

麻倉 「目に障害があるアスリートでも、自分が飛んだフォームを確認し、もう少しこうしようといった試行錯誤ができるようになるわけですね」

菅原 「はい。実際に陸上をしている様子を見て分かったのは、視覚に障害がある人は、踏み切り板すら見えずに競技しているということです。ここからスタートして踏み切る、そのためには、このぐらいの歩幅で進まなければいけない。これらをすべて感覚で身に着けるしかないのです。しかし映像で確認できれば、踏切板からどのくらいはみ出ていたかのフィードバックもでき、具体的な調整がしやすくなります」

麻倉 「冒頭で触れらえた、カメラ付きのアイウェアでも、この技術を応用できそうですね」

菅原 「2、3年後には、網膜疾患対応のアイウェアも出そうと考えています。カメラが撮影した映像を画像処理して、白黒が必要だったら白黒だし、場所を変えるのであれば少しチルトしてそこに投影するとか、そういった様々な機能を持たせたいと考えています」

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