日本におけるスポーツホスピタリティ事業の問題点
これまでまったく開拓されてこなかったこと、欧米での成功事例を考えるならば、スポーツホスピタリティ事業が今後、伸びていくだろうことは想像できる。しかし一方で、これまで”考慮されてこなかった”だけに、事業を行う上で乗り越えなければならない、日本ならではのハードルも多いと倉田氏はいう。
「もっとも大きな問題はスタジアム内に、多目的に使えるファンクションルームを備えている会場が少ないこと(倉田氏)」
もちろんゼロではないが、存在していたとしても大会の上位スポンサーが優先的に利用することもあり、外部に販売するだけのスペースが存在しない。そもそも、スポーツホスピタリティ事業のために外販して売上を上げようという発想がないため、古い設計のスタジアムにファンクショナルスペースがないのは致し方がない。
日本の場合、スタジアムを地方自治体がスポーツビジネスのための施設ではなく、市民のための競技場として運用していることも多いためだ。たとえばRWC2019のメイン会場である横浜国際総合競技場は横浜市が所有・運用している。
しかし、そうした状況に輪をかけているのが、大会運営の計画時に「スポーツホスピタリティ」という事業が存在していることを知らず、施設周りの動線や場所の割り当てが進められていることが多いことだ。
ホスピタリティの運用には、想定する人数を収容する会場とともに、キッチン設備および食材やお土産グッズなどを保管する場所が必要となる。ところが経験値が低いため、そうした部分がまるまる欠落してしまい、事業としての可能性を削いでしまう。
それだけにRWC2019、および翌年の東京オリンピック・パラリンピック2020での認知拡大が、極めて重要になってくる。
スポーツの事業価値を高めるホスピタリティ付きチケットの活用
スタジアムなどハードウェア面の対応が進むには時間がかかるが、「一般チケットよりも多くの収入を挙げられる」ことが知られるようになれば、プロスポーツチームを抱える地域にとって、地域経済に与える影響プラスの影響は決して少なくない。理解が進めばプロスポーツやチーム所有のスタジアムはもちろん、地方自治体が保有する施設へのホスピタリティ施設設置の動機付けとなっていくだろう。地域ごとに事情や文化的背景は違うものだ。
倉田氏は「RWC2019では、海外での実績を持つ事業者と仮設ホスピタリティ会場の設営や運営を行ないますが、日本の気候風土や天災などのリスクは日本の事業者がもっともよく知っています。また日本人が好む空間設計や、望まれているチケットの価格レンジ、求めるサービスの質なども異なるでしょう。そのまま欧州文化を持ち込むのではなく、日本での最適な事業形態を模索します」と話す。
たとえば、個人向けにリーズナブルな価格帯のホスピタリティ付きチケットを企画するなどのトライアル、それにファンクショナルスペースが少ない中で仮設会場とVIP席への動線をどう確保、管理するかといった、欧米にはない「悩み」を大規模イベントの裏側で解決していくことで日本流のノウハウを蓄積すれば、東京オリンピック2020以降の持続的なスポーツホスピタリティ事業も見えてくる。
「2020年の東京オリンピック・パラリンピック以降、日本で人気の高い野球、サッカーの会場での売上を高めるには、手ごろなホスピタリティ付きチケットの設計ノウハウが必要になるでしょう。たとえばファンクションルームはスタジアムの周辺の空間を用いて仮設を立てたり、座席下のコンコースを区切って使うなど、本来のホスピタリティ付きチケットよりもリーズナブルな”セカンドブランド”を上手に演出するなどの取り組みを重ね、経験値を積み上げていくことが重要です(倉田氏)」
スポーツビジネスは「観戦する」だけで終わりではないことは、もはや常識だ。
「スポーツ観戦」という核となるコンテンツの周辺に、スポーツ観戦を目的に旅行する人、同じスポーツを観戦するために集まる人たちとのネットワーキング、それに日本のスポーツリゾートでの消費などにつながっていく可能性がある。
「現在、インバウンド需要の75%はアジアからの来訪客がもたらしています。しかし、日本流のスポーツホスピタリティを開発し、欧米からのスポーツトラベラー富裕層にも対応できるだけのトータルスポーツツーリズム事業へと洗練させなければ、本当の意味での観光立国は目指せません」
決して近い道のりではないが、「伸び代」は極めて大きい。