ホスピタリティニーズを考慮していないインフラが多い日本
日本でスポーツホスピタリティ事業が発展してこなかった背景には、「鶏と卵」のような事情、関係性もある。
前回の東京オリンピック開催を契機にしたアマチュア精神を前面に押し出した地域スポーツコミュニティーが発展してきた経緯や、自治体を中心にした公共施設としてスタジアムが建設されてきたことで「収益性」への配慮が欠けているケースなどもある。
また日本で高い人気を誇ってきたプロ野球の場合、球団を所有するオーナー企業がホスピタリティに使えるスペースを占有し、スタジアム側のホスピタリティスペース不足と相まって、スポーツホスピタリティの事業者が入り込む余地がないという事情もある。
一方で日本のプロスポーツは、インターネット配信を通じて海外でも観られるようになっている。大手スポーツ専門のネットライブ中継会社がJリーグと長期契約を結び、そこで流れ込んできた資金が、Jリーグチームを潤していることは多くの方がご存知の通りだ。
ところが、Jリーグ観戦をしたいと思ったアジア諸国の富裕層や経営者らが、長期滞在を前提とした日本への旅行、あるいは商談でのビジネス旅行も含め、プライベート、ビジネスでホスピタリティチケットを求めたくとも、そもそも原則的に一般観戦チケットしか売り出されていないという現実がある。
ニーズがあれば、そこにビジネスの芽が生まれるのが常だ。しかし、ホスピタリティスペースを設置する場所がなければ、あるいは特別な観戦席や入場動線などが考慮されていないスタジアムの設計などの制約があると事業は立ち上がりにくい。
こうした「鶏と卵」の関係を、欧州でのスポーツホスピタリティ事業ノウハウと、日本でのスポーツツーリズム事業のノウハウを組み合わせ、日本でもスポーツホスピタリティ事業を定着させようとしている会社がある。
テニスのグランドスラム大会のひとつであるウィンブルドン、あるいは英国開催だった前回のラグビーワールドカップや、英国内での大型スポーツイベントでホスピタリティ事業を展開するSTHグループと、日本の大手旅行会社のJTBが設立したジョイントベンチャー「STH Japan(エスティエイチ ジャパン)」だ。同社は2019年9月から始まる日本でのラグビーワールドカップ2019でのスポーツホスピタリティ事業を担当している。
JTB勤務時代のオーストラリア駐在中にシドニーオリンピックでスポーツツーリズム事業にはじめて携わり、それ以降、さまざまなスポーツイベントをこなしてきた執行役員の倉田知己氏は「日本でのスポーツホスピタリティ事業は、インフラ面でも認知の面でもまだまだ未成熟だが、大規模スポーツイベントを契機に大きく成長する余地がある」と話す。
制約の大きい現状設備の中で、日本の市場環境に合ったスポーツホスピタリティ事業の枠組みを作る。そして、大規模スポーツイベントを通じて認知を拡げることで、プロスポーツ事業の中に定着させようとしているのだ。