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満漢全席を食らえ!JAWS DAYS 2019レポート ― 第5回

IT化が進まないオタク業界を変えるべくAnitechにチャレンジ

オタク心をわしづかみにする虎の穴のAWS活用

2019年03月22日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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 JAWS DAYS 2019のX-Tech枠「アニメ・漫画企業をITを活用してオタク業界の未来を変える取り組み~Anitech~」というタイトルで登壇したのは、同人誌販売で知らぬ者のいない虎の穴。登壇した虎の穴CTOの野田純一さんはオタクの心をわしづかみにするサービスの裏側を語った。

虎の穴 CTO 野田純一さん

IT×アニメ・漫画で業界に革命を起こすAniTech

 虎の穴は同人誌販売を中心としたクリエイター支援ビジネスを展開する会社で、コミック専門書店である「コミックとらのあな」という店舗でもおなじみ。会場で挙手を求めると、さすがに7割が挙手しており、クラウド界隈ではすでに認知度も高い。国内では33箇所の拠点昨年初の海外直営店として「とらのあな台北店」をオープンし、海外展開も進めている。

初の海外直営店「とらのあな台北店」もオープン!

 虎の穴で手がける同人誌の委託販売は、クリエイターの代わりに同人誌を販売するビジネス。通信販売も手がけており、年間売上は同人誌換算で約1500万冊となる約100億円。月間PVも5000万、取り扱いアイテムも約10万アイテムと、国内の通販サイトとしても上位に入る規模だ。

 最近はWebサービスにも力を入れている。創作に必要な資金を獲得できるクラウドファウンディングサービス「Fantia(ファンティア)」(後述)や、同人誌やグッズを簡単に作って販売できる「とらのあなクラフト」、同人作品をイベント前に取り置きできる「とらのあなKEEPER」(後述)のほか、同人誌発のオリジナルアニメの制作なども手がけている。さらに2年前からはオタクに寄り添う結婚相談サービス「とら婚」を手がけており、成婚はめでたく100名を突破した。

 こうしたクリエイターやユーザー向けのWebサービスを開発しているのが、オタクエンジニア集団「虎の穴ラボ」になる。虎の穴ラボはWebサービスの開発を手がけるほか、エンジニアイベントも主催。技術同人誌の執筆などさまざまな活動を行なっており、JAWS DAYSでも同人誌の販売を行なっていた(そして、あっという間に売り切れた)。

 そんな虎の穴ラボが目指すのは、「IT×アニメ・漫画で業界に革命を起こすこと」だ。そのためにはオタク界隈のユーザー体験をITによって向上させていくAnitechの推進が必要だという。「先ほど建設業や農業の話もありましたが、オタク界隈でもIT化が進んでおらず、いまだに不便な部分がいっぱいあります」と野田さんは指摘する。

オタク界隈のユーザー体験をITによって向上させていくAnitech

 IT化が進まない理由として、リアルな本やイベントがメインであるほか、同人誌のデータがISBNのように体系化されていないといった背景もあるし、IT化をよく思わない人もいる。さまざまな声に配慮しつつ、テクノロジーによって便利に使っていこうというのが、虎の穴ラボの野望だ。

 野田さんは「声優のキャンペーン応募がいまだにはがき」「何を買ったか忘れ、同じものを何度も買ってしまう」「同人誌の電子化が進んでいない」「クリエイター(アニメーター)に直接支援できない」などのオタクの抱える問題を掲げる。「これを解決するのに欠かせないのがAWS!って、かなりゴリ押し感ありますが(笑)」ということで、半笑いの野田さんは具体的な課題解決を紹介する。

オタクの抱える課題

クラウドファウンディングやECサイトでAWSを活用

 虎の穴では、通販サイト「とらのあな」、クラウドファウンディングサービス「Fantia」、イベント取り置き「とらのあなKEEPER」などで一部AWSを採用しており、最近ではフルAWSのサービスも現れている。

 まず「新刊を手に入れるのに朝から並ぶのがツラい」という課題に対しては、イベントでの取り置きがWeb上で直接行なえる「とらのあなKEEPER」が用意されている。クリエイターがアイテムをKEEPERで共有しておくと、ファンはそのアイテムのキープを依頼できる。混雑した会場でも二次元バーコードで簡単に本人確認ができ、お礼メッセージなどもやりとりできる。システムにはGMOインターネットの「ConoHa」を用いているが、速度と安全性を重視し、画像の配信のみAmazon S3を使っているという。

ConoHaでシステムを作っているが、一部はS3を併用

 続く「クリエイター(アニメーター)に直接支援できない」という課題に対しては、月額課金制のクラウドファウンディングサービス「Fantia」が用意されている。イラストレーターや漫画家、VTuber、コスプレイヤーなどがファンクラブを開設しており、支援を受けるクリエイターは1万3000名、ユーザーは85万に及んでおり、クリエイター向けとしては国内最大級を誇る。「ファンティアで生計を立てているクリエイターさんからは感謝の言葉をいただく」(野田さん)とのことで、オタク業界にとって意義のあるプラットフォームと言える。こちらはもともとGoogle Cloud Platformを用いて構築していたが、音声や動画のストリーミングが増えてきたため、この部分をAWSで実現した。

 3つ目の「同じ漫画や同人誌を買ってしまう」というのも深刻な課題だ。コミケなどで膨大な数を買うと、なにを買ったかわからなくなる。すぐに読まないことも多いので、結局何回も同じものを買ってしまう。オタク界隈によくあるできごとだ。

 こうした課題を解決すべく追加されたのが、とらのあなの通販サイトの「重複注文アラート」だ。待ち望まれていた機能なので、オタク界隈にも好意的に受け入れられており、野田さんも「2300件以上のリツイートがあり、うれしい反響でした」と振り返る。こちら重複注文アラートと直接関係ないが、ECサイトはオンプレとクラウドのハイブリッドで画像のみをCloudFrontに逃す構成になっているという。

ユーザーに待ち望まれていた「重複注文アラート」

目の付け所がオタク過ぎるVRリラクゼーションの裏側にLambda

 4つ目の「アニメに出てくる美少女に足つぼをほぐしてもらいたい……」は、どう考えても課題じゃなくて、サービスありきの妄想としか思えない(笑)。これを解決するのが、現在開発中のVRリラクゼーション。ユーザーがVRゴーグルをのぞくとお気に入りのキャラがマッサージをしてくれるのだが、実際には施術者がキャラクターの動きに合わせてもんでくれるというエッジの効いたサービスだ。いや、エッジ効きすぎだろ(笑)。

課題設定が間違っている気がする
3Dのアニメキャラが足をもんでくれる
実際は施術者がキャラの動きにあわせてもんでくれる

 こちらVRリラクゼーションのサーバーサイドは、サーバーレスで実現している。店舗展開を想定しているので、営業時間外のサーバー運用コストを抑えるためにサーバーレスを導入。ユーザーごとに選択した処理をAPI Gateway経由でLambdaから行ない、結果をDynamoDBに保存している。

 5つ目の「抽選キャンペーンにハガキで応募するのが面倒くさい」という課題に関しては、とらのあなのような店舗側でも大変だったため、イベントのオンライン化に取り組んだ。とらのあなの場合、声優のCDを購入すると、応募券に二次元バーコードがふられ、専用のURLからシリアルコードも自動入力されるという。とはいえ、抽選サイトの二次元バーコードはそれぞれURL用に作られているので、生成の負荷が高い。そのため将来的には処理をLambda化し、生成されたバーコードをS3に保存するという計画で進んでいるという。

とらのあな抽選サイトではバーコードからURLを生成

 最後、野田さんは虎の穴では積極的にAWSを活用していくとアピール。「各ビジネス固有の課題を解決するためのサービスが数多く用意されているので、オタク業界をさらに便利にしていきます」と語る野田さんは、エンジニア募集の告知を行なってセッションを締めた。面白かった。

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