2019年2月8日、鹿児島市はクリエイティブ人材の育成を目指したビジネスインキュベーション施設「mark MEIZAN(マークメイザン)」を開設した。2月8日に開催されたオープニングイベントには、鹿児島県内外から多くの関係者・参加者が集まり、新しい鹿児島の未来を生み出す拠点の門出を祝った。
「新しいことをやりたいときはmark MEIZANに」
「クリエイティブ産業創出拠点施設」を謳うmark MEIZANは、地元鹿児島のクリエイティブ産業の創出、スタートアップの育成と成長を支援するビジネスインキュベーション施設。鹿児島市内のインキュベーション施設である「ソフトプラザ鹿児島」にリノベーションを施し、シェアオフィスや交流スペース、イベントスペース、キッチンなどを設けた。県内外のゲスト・企業を招聘したセミナーやマッチングイベントの開催、経営者によるメンタリングなどのイベントも随時開催される。
運営は鹿児島市からの委託を受け、グッドコミュニケーションズ、シナプス、さくらインターネット、ブラン、W・I・Zの5社からなるジョイントベンチャーである「BEYONDかごしま」が担う。ビヨンド鹿児島代表で、mark MEIZAN 運営代表の高橋 美博氏は、「ここを拠点に、鹿児島を変え、日本を変え、世界を変えていくクリエイティブ人材やスタートアップを生み出していきたい」と抱負を語る。
施設概要について説明したmark MEIZAN ディレクターの鶴田 真由美氏は、「クリエイティブ、地域産業・事業、投資などの経済をミックスさせ、新しい価値を作ること」を目的として挙げる。今までバラバラだった要素を組み合わせることで、鹿児島の新たなロールモデルを生み、コミュニティを作り、サポーターを増やす。そのため、県内外からさまざまな人を呼び込み、イベントやセミナー、メンタリングを推進していくという。「『地方だから』とか、『鹿児島だから』とあきらめることをなくすため、東京や福岡と同水準の環境を提供していくことを目的としている。新しいことをやりたいときに、mark MEIZANに行ってみようと思われるような施設や仕組み、ネットワークを作ることがわれわれの役割」と鶴田氏は説明する。
成果指標としては、「クリエイティブ人材の育成」「コミュニティ形成」「情報発信」の3つを軸に、雇用増加者100名、3社で合計1億円以上の資金調達を目指す。その上で、「私たちだけがんばっても、なかなか盛り上がらない。やっぱり主役は鹿児島の方々なので、いっしょにmark MEIZANを作り上げていきたいと思っています」と述べ、会場に向けて、イベントやコミュニティへの能動的な参加をアピールした。
mark MEIZANは、市役所や鹿児島港からも近い名山町にあり、1階にはオープンな交流スペースやギャラリー、会議室、商談室などを配置した。また、2階には最大90名が利用できるオープンなユーテリティスペース、商品開発に利用できるテストキッチンが用意されている。2階の一部と3~5階まではシェアオフィス・入居者スペースとなっており、入居者・企業はインキュベーションマネージャによる相談やIT面でのさまざまな支援が受けられる。洗練されたリノベーションが施されており、最新のコワーキングスペースに近い設備となっている。
付加価値を担うクリエイティブ人材を支援する鹿児島市
続いて鹿児島市 産業創出部の片平公成氏が鹿児島市のこれまでの取り組み、mark MEIZAN創設の経緯について説明した。
人口約60万人の鹿児島市は、南九州最大の商業都市であり、入れ込み観光者数も1000万弱にまで成長する観光都市でもある。おもな産業としては食料製造業で、黒毛和牛やブリ、クロマグロ、ウナギなどの養殖、サツマイモやソラマメの生産地としても知られている。農業産出額で全国3位、漁業生産額で全国4位を誇る鹿児島県だが、食料製造業の付加価値率が全国47位で、資源があるにもかかわらずそれを活かし切れてないという課題を抱えているという。
もう1つの課題は、こうした付加価値を担う人材の不足だ。たとえば、商品開発に携わるデザイン産業は事業者数が全国36位で、従業者一人あたりの年間売上高も415万円と全国47位にとどまっている。「正直、鹿児島ではデザインで食べていくのは難しい。域内に業者がいないので、人やお金が流れているとも言える」(片平氏)というわけだ。
こうした課題から鹿児島市が進めているのが、既存産業を支えるクリエイティブ産業の支援だ。たとえば、鹿児島地域の商品や企業、観光地などにデザインを結びつける「かごしまデザインアワード」や、市が良質なデザインを取り入れるパブリックデザインコンペも実施している。さらにクリエイティブ人材の誘致を支援するための移住補助金制度やUIJターンイベント、短期のお試し移住なども進めているという。
こうした課題を抱えつつも、野村総合研究所による成長可能性都市ランキング(2017年)では、総合で5位、ポテンシャルでは福岡に次いで2位となっておりコミュニティの成熟、活気ある街、外部人材の受け入れ、新しいモノを受け入れる寛容度などで高い評価を受けている。こうした強みを企業・人材の誘致やビジネスの創出につなげていく仕組みの構築が必要で、今回のmark MEIZANの取り組みにつながったという。
新しい施設名であるmark MEIZANやロゴデザインは、第5回かごしまデザインアワードのパブリックデザインコンペで公募されたもの。生みの親の前迫昇吾氏は、特製の「mark MEIZANのらっぷ」を披露し、mark MEIZANの門出を祝福した。
イベント後半のパネルディスカッションは別稿でお伝えする。