東陽テクニカ「Core Router Summit in TOKYO」開催、ジュニパー、ファーウェイ、シスコ、ノキアが登壇
「これからのコアネットワークのあるべき姿」メーカー4社が議論
2018年11月13日 07時00分更新
2018年11月7日、東陽テクニカのプライベートカンファレンス「Core Router Summit in TOKYO 2018」が開催された。
カンファレンス終盤には、コアルーターメーカー4社が登壇するパネルディスカッション「これからのコアネットワークのあるべき姿」が催され、各社代表がメーカーの枠組みを越えて、モバイルの5G化や通信大容量化、VNF(Virtual Network Function)を活用した各種サービスのコアネットワークへの統合、400ギガビットEthernet(400GbE)やSegment Routing(SR)に代表される新たな技術標準などの動向をふまえた将来像を議論した。
これからのコアネットワークが備えるべき要件とは
セッションはまず、来場者の属性やコアネットワークに対する関わり方、興味のあるキーワード、400GbEやSRなどの先進技術をすでに利用しているか、などをリアルタイムアンケートすることからスタートした。
続いてメーカー4社のパネリスト各氏が、それぞれ同日に行った講演セッションの振り返りも含めて市場動向の分析や自社戦略の紹介などを行った。
ジュニパーネットワークスの上田昌広氏は、サービスプロバイダーに対する調査で95%がサービスを物理ルーターから仮想ルーター/VNFに移行する計画を持つこと、顧客エンタープライズにおいてオンプレミスからパブリッククラウドへの移行計画が進んでいることなどを挙げたうえで、将来的なコアネットワークに求められる要件を「シンプル」「スケールアウト」「オープン(プログラマブル)」だとまとめた。
「『シンプル』でなければ、新しいサービスを追加したりスケールアウトしたりするときに複雑化してしまい人間の手に負えなくなる。『スケールアウト』は、これまでPNFとして(ハードウェアで)実装しなければ出せなかったパフォーマンスがVNFで(ソフトウェアで)も実装可能になってきており、需要に応じたスケールアウトも容易になってきた。『オープン』はプログラマビリティ、サードパーティやOSSとも組み合わせられるフレームワークなどを提供し、可視化や自動化の能力を提供していく」(上田氏)
ファーウェイ・ジャパンの赤田正雄氏は、同社ではコアネットワークを構成するコアルーターの要素を、将来的に大容量化可能なスケーラビリティを持つ「ウルトラブロードバンド」、複数ドメインのコアネットワークやコア/エッジネットワーク、IP/光レイヤーなどの運用を統合し連携動作させる「シンプリファイド」、AI/機械学習によるトラフィック予測やネットワークパス設計時の正確なシミュレーションなど「インテリジェント」と定義していると語る。
赤田氏はSRについても、従来のMPLSにおいて複雑化していたプロトコル群をいったんリセットして「シンプリファイド」するものだと説明した。「モバイルの世界ならばLTEから5Gなどのタイミングでリセットされるが、コアネットワークの世界は過去を引きずってしまうため、なかなかドラスティックな変化は起きない。こうしたもの(SRのような技術的な“リセット”)がどこかで必要なのでは、というのが個人的な感想」(赤田氏)。
シスコシステムズの鎌田徹平氏は、キャリアのコアネットワークについて、やはり上田氏や赤田氏が挙げたものと同じ要件と挙げつつ、それをこれから「どのような方向性で実現していくか」について語った。1つのアプローチは「“土管”に徹する」、つまり必要最低限のネットワーク機能のみをコアネットワークで提供し、複雑な機能群はオーバーレイで実装していくというものだが、それは「個人的には面白くない」(鎌田氏)。もう1つのアプローチとして、コアネットワークが「“土管”以上の価値を提供する」ということも考えていくべきではないかと提案した。
「たとえばSRv6ネットワークプログラミング。パケット自体にネットワークのファンクションをプログラミングする技術で、オーバーレイではなくアンダーレイのルーターで処理すれば、コアネットワークにも“土管”以上の価値が与えられる。また、IPv6アドレスに意味を持たせるICN(Information Centric Network、コンテンツ指向ネットワーク)の考え方もある。パケット自体にプログラマビリティを持たせて、ネットワークにインテリジェンスを与えていこうという技術開発は進んでいる。自分でもまだ、それをコアネットワークでやるべきなのかどうかの答えは出ていないが」(鎌田氏)
ノキアソリューションズ&ネットワークスの鹿志村康生氏は、これからはコアネットワークだけでなく、アクセスネットワークやサービスまでも含めたエンドトゥエンドでの管理が必要な時代になるのではないかと語った。その実現のために、アンダーレイのコアネットワークにはさらなる柔軟さやダイナミックさ、インテリジェンスがまず求められると語る。
「(ネットワーク上に)柔軟に配置されるさまざまな機能やユーザーを、いかに柔軟かつ迅速に、求められるサービスレベルを維持しつつ接続できるか。それがコアネットワークに求められるものだと考えている。“土管”の言葉を借りれば、単なるスタティックな“土管”ではなく、もっとダイナミックで柔軟でインテリジェントな“土管”のイメージだ」(鹿志村氏)
コアネットワークはどこまで機能を拡張すべきか
4人の発言を受け、モデレーターの宇多氏は「一方で『シンプル化』が要件となる中で、コアネットワークがどこまで機能を持つべきだと思うか」という問いを投げかけた。
ファーウェイ赤田氏は、コアルーターのハードウェア技術が向上し続ける中で、前述したようにこれまで別々の機器で提供してきた複数ドメイン、コア/エッジ、IP/光といった機能群が統合可能になっていると指摘する。これにより運用の簡素化、装置台数削減、消費電力削減などのメリットがもたらされる。
ノキア鹿志村氏はマルチベンダーで構成される環境を前提として、コアネットワークはオーケストレーターが異なるベンダーであっても扱える「抽象化/統一化された情報」を提供できればよいという立場、またジュニパー上田氏も「インテリジェンシーはコア側ではなく、サービス側に持たせればよい」と述べ、コアネットワークはそうしたサービス要件を受け入れられる可用性を持っているのが重要だという立場を示した。
一方でシスコ鎌田氏は、両氏の示した考え方にも共感するが「それだけだと面白くない(笑)」と述べ、コアルーターのできる処理は拡大しており「(同日のセッションで紹介した)SRv6によるネットワークプログラミングがその答えのひとつになると、わたしは期待している」と語った。
「これまでアンダーレイ/オーバーレイというネットワークの分類がずっと使われてきたが、オーバーレイで実現してきた機能の一部は、現在ではアンダーレイに統合することもできる。変化がないと思われてきたアンダーレイ/オーバーレイの分け方、アーキテクチャも、そろそろ見直す時期が近づいてきているのではないか、という問題提起をしたいと思っている」(鎌田氏)
そのほか会場からの質問も受け付けながら、「コアネットワークが備えるべきセキュリティ」「パフォーマンスが向上してきたソフトウェアルーターの役割」「テストの自動化」などのテーマの議論がなされ、予定時間をオーバーしつつパネルディスカッションは締めくくられた。